NTT×大成建設、IOWN APNで異なるメーカーの重機3台を1人で遠隔制御

[更新]2026年4月12日

3人がかりの重機作業を、1人が離れた場所から操る——そんな光景が、現実の工事現場で実証されました。人手不足が深刻化する建設業界に、通信技術の進化が新たな突破口をもたらしています。


NTT株式会社、NTT東日本株式会社、大成建設株式会社は2026年4月10日、IOWN APN、ローカル5G(ギガらく5Gセレクト)、60GHz帯無線LAN(WiGig)を活用し、三重県内の2拠点間で異なるメーカーの重機3台を1台の操作卓から遠隔操作および自動制御する実証に成功したと発表した。

実証期間は2026年2月2日から2月27日。油圧ショベル、クローラー型ダンプトラック、ブルドーザーの3台を対象に、通常3人で実施する作業を1人で制御できることを確認した。設計データの伝送時間は従来の約1/8に短縮。2026年度に大型造成工事での実証を、2027年度にはダムの堆砂対策への適用をめざす。

From: 文献リンクNTTグループと大成建設、IOWN APNとローカル5Gおよび60GHz帯無線LANを活用して複数重機を遠隔操作・自動制御する実証に成功~同一の操作卓から異なるメーカーの重機制御により生産性向上が実現可能に~

NTT株式会社公式ニュースより引用

【編集部解説】

今回の発表は、NTTグループと大成建設が「通信インフラ×建設現場の自動化」という組み合わせで、一つの技術的マイルストーンを越えたことを示しています。ただし、これは突然の飛躍ではなく、2023年以降に積み重ねてきた実証実験の延長線上にある成果です。2023年11月にNTTは油圧ショベル1台・タワークレーン1台の遠隔操作を別々に実証しており、今回はそこから「異なるメーカーの複数重機を1人が1台の操作卓で同時制御する」という段階へと踏み込んだ点が本質的な前進といえます。

この実証で核となっているのが、IOWN APNの「遅延ゆらぎなし」という特性です。一般的なインターネット回線では通信の遅延が数十〜数百ミリ秒の範囲で不規則に変動します。重機操作においてこの「ゆらぎ」は致命的で、オペレーターの操作感覚と映像のズレが事故につながりかねません。IOWN APNは光信号をそのまま伝送し、遅延を従来比よりも大幅に抑えつつゆらぎを限りなくゼロに近づけることで、遠隔地にいながら「現場にいるような感覚」での操作を可能にします。

また、今回の実証がローカル5GとWiGigを「役割分担」させた点も見逃せません。300メートル規模の広域カバーと重機の位置情報伝送にはローカル5Gを、精密な操作が求められる近接エリアでのカメラ映像と制御信号にはWiGigを割り当てる、という使い分けです。さらに現場の無線ネットワーク構築時間が従来の「終日」から約1時間に短縮された点は、現場導入コストの観点からも実用性の高さを示しています。

なぜ今、この技術が切実なのかは、建設業界の数字を見れば明らかです。建設技能者数は1997年の464万人から2024年には303万人まで減少し、ピーク時の65.3%まで縮小しています。さらに帝国データバンクの調査では、2024年の「人手不足倒産」は342件に増加し、そのうち建設業が99件と全体の約3割を占めました。こうした危機に対して国土交通省は2024年4月に「i-Construction 2.0」を策定し、2040年までに建設現場の省人化を少なくとも3割、生産性を1.5倍向上させることを目標に掲げています。今回の実証は、その国家目標の実現に向けた民間からの具体的な答えの一つです。

ポジティブな側面として、この技術は熟練オペレーターの「希少性」を地理的制約から解放します。たとえば地方の険しいダム工事や土砂崩れ現場のような危険な場所でも、都市部の専門家が遠隔から安全に操作できるようになります。さらに今回実証されたMC(マシンコントロール)とMG(マシンガイダンス)機能が遠隔でも同一精度で動作することが確認されており、「人が現場にいなくても精密施工が可能」という概念実証にもなっています。

一方、潜在的なリスクや課題についても冷静に見ておく必要があります。今回の実証は三重県内の2拠点間、つまりIOWN APNの光ファイバー網が整備されたエリア限定の話です。IOWN APNの商用サービスは2023年3月に開始されていますが、全国の建設現場すべてに敷設されているわけではなく、インフラ整備の地域格差や現場条件も含めて見極めていく必要があります。また、異なるメーカーの重機を1台の操作卓で制御するための接続切替システムを大成建設が独自開発している点は、今後の標準化の議論が不可欠であることを示唆しています。メーカー横断の互換性がなければ、現場ごとにシステムを作り直すコストが発生し、中小建設会社への普及は遠のきます。

サイバーセキュリティの観点も重要です。重機の制御信号がネットワーク上を流れる以上、万一の通信傍受や不正アクセスが現実の物理的事故に直結するリスクがあります。建設現場の「無人化施工」が広がるほど、産業制御システムのセキュリティ基準の整備が急務となります。制度面については、今後の業界動向や関連ルールの整備も含めて継続的に見ていく必要があるでしょう。

長期的な視点で見れば、2027年度に予定されているダムの堆砂対策への適用は、維持管理という新たな用途を示しています。老朽化したインフラの保守点検・修繕作業への展開が実現すれば、建設業の担い手不足を超えて、インフラ維持という社会的課題全体に対するアプローチとなります。NTTグループが建設以外にも製造(東芝との工場遠隔制御)やトンネル工事(安藤ハザマとの連携)などでIOWN APNの産業応用を広げていることと合わせて考えると、今回の実証は「光ネットワークによる産業の再設計」という大きな流れの中の一コマとして捉えるべきでしょう。

【用語解説】

WiGig(ワイギグ)
Wireless Gigabitの略。60GHz帯を使用する無線LAN規格(IEEE 802.11ad)である。非常に広い帯域幅を持ち、大容量データを低遅延で伝送できる一方、直進性が強く障害物に弱いという特性がある。重機の精密な遠隔操作に必要な映像・制御信号の伝送に活用される。

ジッタ(遅延ゆらぎ)
ネットワーク上で発生する通信遅延の「ばらつき」のことである。インターネット回線では数十〜数百ミリ秒の範囲でランダムに遅延が変動するが、重機の遠隔操作ではこのゆらぎが操作感覚のズレや映像の乱れを引き起こすため、ゼロに近いことが必要条件となる。

MC(マシンコントロール)
重機の現在位置と施工箇所の設計データを照合し、作業装置の動作を自動または半自動で制御するシステムである。熟練技術者の技術を機械に代替させることで、精度の均一化と省人化を実現する。

MG(マシンガイダンス)
MCと同様に重機の位置情報と設計データを照合するが、制御するのではなくオペレーターへの情報提示にとどまるシステムである。ディスプレイで施工箇所と実際の差分を示し、人間の判断を支援する。

i-Construction 2.0
国土交通省が2024年4月に策定した建設現場のオートメーション化を推進する政策フレームワークである。2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、生産性を1.5倍向上させることを目標に掲げている。

GNSS
Global Navigation Satellite Systemの略。GPS(米国)をはじめとする複数の衛星測位システムの総称である。重機に搭載することで現場内の位置情報をリアルタイムに把握し、遠隔拠点への伝送や自動制御の基準データとして活用される。

サイトダイバーシティ技術
無線端末内に複数の無線機能部を搭載し、端末主導で電波状況に応じた接続先を切り替える技術である。重機が移動・旋回する際も通信が途切れにくくなり、安定した遠隔操作を実現する。

【参考リンク】

NTT株式会社(NTTグループ公式サイト)(外部)
NTTグループの企業情報・研究開発・IOWN構想に関する最新情報を公開。IOWN APNの技術詳細や各種実証実験のプレスリリースも掲載されている。

IOWN 機能と特性|APN(NTT公式)(外部)
IOWN構想の中核技術であるAPNの仕組みと性能目標を解説する公式ページ。電力効率100倍・伝送容量125倍・遅延1/200という数値目標と技術的背景が確認できる。

NTT東日本株式会社(公式サイト)(外部)
今回の実証でローカル5G(ギガらく5Gセレクト)の設計・構築・運用を担ったNTT東日本の公式サイト。IOWN関連のサービス情報や報道発表を掲載している。

大成建設株式会社(公式サイト)(外部)
遠隔操作・自動制御システムと接続切替システムを提供した大成建設の公式サイト。建設DXや自動化施工への取り組みに関する情報を確認できる。

i-Construction 2.0(国土交通省)(外部)
国土交通省が公開するi-Construction 2.0の政策文書。施工オートメーション化のロードマップと2040年度の目標数値、各年度の取り組み内容が詳述されている。

安藤ハザマ株式会社(公式サイト)(外部)
NTTとともにIOWN APNのトンネル工事への適用に取り組むスーパーゼネコン。IOWN Global Forumと連携した建設現場のDX推進情報を確認できる。

【参考記事】

2024年の人手不足倒産、過去最多を更新 建設業が約3割占める(外部)
帝国データバンク調査を基に2024年の人手不足倒産342件を報告。建設業が99件・全体の約3割を占め、業界の構造的危機を数字で示した記事。

建設業人材不足の現状とは?深刻化するデータと今すぐできる対策手法(外部)
建設技能者数が1997年の464万人から2024年に303万人へ減少(ピーク比65.3%)した実態を詳述。人材不足の構造的背景を数値で整理した記事。

国交省発表「i-Construction 2.0」2025年度の取組予定を解説(外部)
i-Construction 2.0の政策内容を解説。2040年度に生産性1.5倍・省人化3割という目標数値と遠隔施工実施件数(2024年度:21件)などを紹介した記事。

NTT, Taisei Demonstrate Single-Console Control of Multiple Machines Over IOWN APN(外部)
IBTimes JPによる今回の発表の英語報道。プレスリリースの事実確認と国際的な文脈での位置づけを把握するために参照した記事。

NTT builds remote digger foundations(外部)
Mobile World LiveによるIOWN建設応用の報道。IOWNを産業応用の広義の文脈で捉え、消費電力抑制という背景を整理するために参照した記事。

Building the Future with NTT’s IOWN APN(外部)
NTT公式英語メディアによる記事。2023年実証との連続性とAPNが建設の遠隔操作に適している理由を初期段階から整理するために参照した。

HAZAMA ANDO and NTT Launch Key Initiative — Tunnels Using IOWN Technology(外部)
NTTと安藤ハザマのトンネル工事へのIOWN適用に関するNTT公式プレスリリース。安藤ハザマの正式名称確認とIOWN APNの建設業横断展開の裏付けとして参照した。

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【編集部後記】

重機を遠隔から操る——その言葉だけ聞くと、どこか遠い未来の話のように感じませんか。でも今回の実証は、三重県の現場でごく普通の建設作業として行われました。

あなたの身近にある道路や建物も、いつかこの技術でつくられる日が来るかもしれません。「誰が、どこから、何を動かすのか」——その問いの答えが、少しずつ変わり始めています。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。