自動運転バス、2030年度に1万台目標へ―2025年度は全国で143台、10台以上は大阪・茨城・東京のみ

MM総研は2026年5月13日、2025年度に日本国内で実施された自動運転バスの実証走行事業に関する調査結果を発表した。自動運転「レベル2」以上で一般客を乗せ、公道での走行実績が確認できた実証事業106件が調査対象となった。

2025年度の走行台数の合計は143台で、前年度比18台増。走行台数が10台以上に達したのは大阪府、茨城県、東京都の3都府県だった。大阪府は大阪・関西万博での導入が主因、茨城県は境町で8台が通年運行しているほか日立市、常陸太田市、つくば市でも実証が進んでいる。東京都はベイエリアと西新宿エリアを推進区域に設定している。2025年度に実証走行がなかったのは10県で、2024年度の5県から増加している。

大・中型バスを使用した実証は29台で前年度の13台から倍増した。実証事業106件のうち「レベル4」の実施割合は7.5%、通年運行の割合は12.3%だった。レベル4の移動サービスは2026年1月から千葉県柏市で運行が始まっている。

2026年1月に閣議決定された第3次交通政策基本計画では、自動運転レベル4のバス、タクシー、トラックを2030年度に1万台へ増やす目標が掲げられた。MM総研の予測では、本来導入が必要な自動運転バス車両数は2035年に約4000台となる。

From: 文献リンク自動運転バス、10台以上の走行は3都府県のみ ≪ プレスリリース | 株式会社MM総研

【編集部解説】

このプレスリリースは、日本の自動運転バスが「実証から実装へ」と歩みを進めつつある一方で、その普及が特定地域に強く偏っている現実を浮き彫りにしています。なぜ今このタイミングで、私たちがこのデータに目を向けるべきなのか、編集部としての視点をお伝えします。

まず注目すべきは、走行台数の合計は前年度より18台増えたにもかかわらず、実証が行われなかった県の数は5県から10県へと倍増している点です。この「総量は増えたのに、地理的な広がりは後退した」という現象は、自動運転バスの導入が国の補助金の有無に大きく左右されていることを示唆します。本質的な需要に基づく自走的な普及ではなく、政策ドリブンの偏在が起きているわけです。

一方、走行台数が10台以上に達したのは大阪府、茨城県、東京都のわずか3都府県でした。大阪府は2025年に開催された大阪・関西万博での輸送需要、茨城県は境町を起点とする継続運行の積み重ね、東京都はベイエリアと西新宿の推進区域指定が後押しした構図です。いずれも「特殊要因」または「自治体の強い意思」がなければ、まとまった台数の運行は実現していないことが読み取れます。

技術的な節目として見逃せないのが、2026年1月13日に千葉県柏市の柏の葉エリアで始まったレベル4の営業運行です。経済産業省と国土交通省が進めてきた「RoAD to the L4」プロジェクトの成果であり、東武バスセントラルが運行、先進モビリティ株式会社が中型バスを開発しました。レベル4区間は700mと短く、最高速度は40km/hに制限されますが、人や車が混在する一般道での首都圏初の本格運行という意味で、技術史的に大きな一歩といえます。

国は2026年1月16日に閣議決定した第3次交通政策基本計画で、レベル4の自動運転サービス車両(公共交通のバスやタクシー、幹線輸送のトラック等が想定される)を、2025年時点の11台から2030年度に1万台へ拡大する目標を掲げました。台数目標を国として打ち出すのは初めてです。野心的な数字ですが、MM総研は「本来導入が必要な自動運転バスは2035年で約4000台」と予測しており、ここに目標と需要予測のギャップが見えます。1万台はバス、タクシー、トラックなどの合算であり、米中で先行するロボットタクシー型サービスの広がりを踏まえれば、バスよりもタクシーが先行する可能性があります。

ここで重要なのが、「ではバスの自動運転は不要なのか」という問いです。答えは明確にノーです。バスは1度に多くの人を運ぶ大量輸送機関であり、運転手不足が深刻化する地方で公共交通の血流を保つ役割を担います。タクシーが普及してもバスの代替にはなり得ません。むしろ、両者の自動化が並行して進むことで初めて、地域の移動課題に対する立体的な解決策が成立します。

潜在的なリスクにも触れておくべきでしょう。2025年中には大阪・関西万博でのEVバス衝突事故や、東京・八王子での街路樹衝突事故が発生し、車両のリコールも発出されました。日本で運行されている自動運転バスには輸入車両、特に中国製EVをベース車両とするケースも少なくなく、国産の小型・中型EVバスの選択肢が限られているという供給面の課題が指摘されています。安全性の確保と国内サプライチェーンの強化は、台数目標の達成以上に重要なテーマです

そして、MM総研が原文で強調している「公共交通は採算性のみで判断するべきではない」「地域が一体となって育てる」という視点は、テクノロジーを論じるinnovaTopiaにとっても重要な示唆を含みます。自動運転は「ドライバー不足という負債」を埋める道具であると同時に、地域そのものをデザインし直す機会でもあります。技術を社会へ実装する局面では、その技術が誰の、どんな課題に応えるのかという問いを置き去りにしてはなりません。

長期的に見れば、自動運転バスの普及は単なるモビリティ革新を超えて、過疎地・地方都市の存続戦略に直結します。技術は人口減少社会の「足腰」を組み替える装置になりつつあり、今回の調査結果はその進捗と歪みを同時に映し出す貴重な定点観測といえるでしょう。

【用語解説】

自動運転レベル2 / レベル4
SAE(米国自動車技術会)が定める運転自動化の段階区分のうちの2つだ。レベル2は運転主体がドライバーであり、システムは特定の条件下で部分的な運転タスクを担う段階である。レベル4は特定の走行環境条件下において、システムがすべての運転タスクを担う段階で、原則として運転手は不要となる。

推進区域
東京都が自動運転の社会実装を加速するために設定した重点エリアを指す。ベイエリアや西新宿エリアが対象となっており、自動運転車両の走行や実証が集中的に進められる。

第3次交通政策基本計画
交通政策基本法に基づき、令和12年度(2030年度)までの交通政策の方向性を定めた政府の計画だ。2026年1月16日に閣議決定された。自動運転サービス車両を2025年時点の11台から2030年度までに1万台へ拡大する数値目標が新たに盛り込まれた点が特徴である。

RoAD to the L4
経済産業省と国土交通省が2021年度から共同で進めてきた「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」の通称だ。産業技術総合研究所と民間企業のコンソーシアムにより推進されてきた。

【参考リンク】

株式会社MM総研(MMRI)公式サイト(外部)
ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社。1996年設立。本記事の調査主体である。

国土交通省(外部)
自動運転の社会実装に向けた制度整備や補助事業を所管する省庁。

国土交通省「自動運転を巡る動きについて」(資料)(外部)
第3次交通政策基本計画における自動運転サービス車両「1万台」目標の対象範囲と政府の取り組みをまとめた国交省資料。

経済産業省 自動運転関連プレスリリース(外部)
2026年1月13日付の柏市レベル4自動運転バス営業運行開始に関する経産省・国交省の共同発表。

先進モビリティ株式会社(外部)
東京大学発のベンチャー企業で、商用車向けの自動運転システム開発を手がける。柏市レベル4の中型バス改造を担当した。

東武バスセントラル株式会社(外部)
東京・千葉・埼玉エリアを中心に運行するバス事業者。柏の葉地域のレベル4自動運転バスの営業運行事業者を務める。

茨城県境町 自動運転バス公式ページ(外部)
国内自治体として初めて自動運転バスの定常運行を開始した境町による公式情報。

柏市プレスリリース(PR TIMES経由)(外部)
千葉県内初となる特定自動運行(レベル4)開始に関する柏市の公式発表。運行体制と認可取得経緯が記載されている。

【参考記事】

レベル4自動運転バスの運行開始、一般車も走る柏の葉キャンパス地区で(MONOist)(外部)
柏の葉キャンパス地区でのレベル4営業運行開始を詳報。走行距離700mや最高速度40km/hなど技術仕様が確認できる。

日本の自動運転レベル4はどこまで進んだか(6)〜なぜ、海外製のバスが目立つ?(SOMPOインスティチュート・プラス)(外部)
国産小型・中型EVバスの不足、万博での事故やリコール、1自治体1〜3台の偏在実態を詳細分析している。

自動運転、日本政府の実現目標・ロードマップ一覧(自動運転ラボ)(外部)
2030年度国内自動運転サービス用車両1万台の導入目標と海外との競争状況を体系的に整理した記事。

一般道における中型バスでのレベル4自動運転による運行を開始します(経済産業省)(外部)
柏市レベル4運行開始の一次情報源。許認可経緯と走行距離700m、最高速度40km/hなど公式仕様を確認できる。

自動運転バスの乗車人数、すでに「町の人口超え」!茨城県境町、延べ3万人超に(自動運転ラボ)(外部)
境町の累計乗車人数3万人超、現在8台体制での定常運行など、定常運行の先行モデルを理解できる。

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【編集部後記】

自動運転バスというと、つい「無人化」や「人件費削減」の文脈で語られがちです。けれど、今回の調査が示しているのは、台数や場所の数だけでは測れない、地域と技術の関係性そのものではないでしょうか。みなさんの暮らす街では、バスやタクシーの担い手不足をどんなふうに感じていますか。

もし数年後、自宅の最寄りバス停にレベル4のバスが停まるとしたら、どんな風景になっていてほしいか。少し想像してみていただけるとうれしいです。私たちもみなさんと一緒に、その未来像を探っていきたいと思っています。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。