テスラ、電動トラック「Semi」専用工場を開所|航続500マイル、30分で最大60%充電

[最終更新]

Googleで優先するソースとして追加するボタン

30分という数字には、二つの意味が重なっています。一つは、テスラの電動大型トラック「Semi」が専用充電器で航続距離の最大60%を取り戻すのにかかる時間。もう一つは、米国の長距離トラック運転者が運転を続けるために挟まなければならない中断の長さです。発表から9年、量産が動き出したこのトラックは、日本の物流の目にどう映るのでしょうか。


テスラは2026年9月24日、米ネバダ州スパークスにある電動大型トラック「Semi」の専用工場で開所イベントを開き、量産体制に入ったことを示した。工場は年5万台規模の生産を想定した設計である。

製品ページによると、航続距離はLong Rangeが500マイル、Standard Rangeが325マイルで、いずれも連結総重量8万2000ポンドでの推定値だ。電費は1マイルあたり1.7kWh、最大出力は800kW、空車重量はLong Rangeが2万3000ポンド、Standard Rangeが2万ポンド未満。最大1.2MWの専用充電器「Megacharger」を使えば、30分で航続距離の最大60%を回復できる。テスラは年末までにMegachargerを30か所以上、200基以上稼働させる計画だ。

From: 文献リンクTesla Semi(@tesla_semi)「Semi Rollout」配信リプレイ

【編集部解説】

発表から9年、何が変わったのか

Semiが初めて公開されたのは2017年11月です。当時は2019年の生産開始が見込まれていましたが、実際に生産が始まったのは2022年10月で、同年12月にPepsiCoへ最初の車両が納められました。その後も、しばらくは少量の生産が続きます。

転機は2023年1月でした。テスラはネバダ州のギガファクトリーに36億ドル超を追加で投じ、Semiの量産工場と、年100GWh規模の4680セル工場を新設すると発表しています。今回開所したのはその片方にあたる工場で、2026年4月には量産ラインから最初の車両が送り出されていました。9月24日のイベントは、すでに動き始めていたラインを公に披露する場だったと言えます。

量産車で大きく変わったのが電池です。テスラは、Semiの生産拡大を支えるために自社製4680セルの増産を進めていると説明しています。

テスラが公表する電費は、1マイルあたり1.7kWh(1kmあたり約1.06kWh)の推定値です。当初掲げていた「1マイルあたり2kWh未満」という目標を、公表値のうえで下回りました。

電池の量を選ぶ、という設計

Semiには2つの仕様があります。航続距離500マイル(約805km)のLong Rangeと、325マイル(約523km)のStandard Rangeです。最大出力800kW、電費、急速充電の性能は共通で、違いは電池の量と、それに伴う重さにあります。空車重量はLong Rangeが2万3000ポンド(約10.4t)、Standard Rangeが2万ポンド(約9.1t)未満です。

同じ連結総重量の上限のもとで比べれば、車体が重い分だけ積める荷物は減ります。電池を増やせば遠くまで走れる一方で、1回に運べる量は少なくなる。2つの仕様は、このトレードオフを運用に合わせて選ばせる設計です。米国には電動トラック向けの重量緩和もあり、実際の積載量は車軸やトレーラーの構成にも左右されます。

実際に50台の導入を発表したIMC Logisticsは、カリフォルニア州内の港湾輸送にはStandard Rangeを、南カリフォルニアと内陸を結ぶ輸送にはLong Rangeを充てる方針を示しています。

航続距離は、連結総重量8万2000ポンド(約37.2t)、時速55マイル(約89km)、気温20℃、平坦路に加え、指定の空力キットとトレーラーを用いた条件での推定値です。タイヤやトレーラーの構成で電費は大きく変わると、テスラ自身も注記しています。

「30分」に込められた運用の発想

充電の数字で目を引くのは、最大1.2MWの専用充電器「Megacharger」を使えば、30分で航続距離の最大60%を回復できるという点です。

この30分には運行上の意味があります。米国では、対象となるトラック運転者は、30分以上続く運転以外の時間を挟まずに通算8時間運転すると、それ以上運転を続けられません。荷役などの勤務時間も中断に数えられ、短距離輸送などには例外があります。テスラも公式アカウントで、30分の運転の中断で航続距離の最大60%を取り戻せると説明しています。運転の中断にそのまま充電を重ねる設計として読むことができます。

テスラは年末までに30か所以上、200基以上のMegachargerを稼働させる計画を示しました。充電口には大型車向けの規格MCSを採用しています。車庫や夜間の充電向けには120kWの「Basecharger」も用意され、Long Rangeの場合は4時間で航続距離の最大60%を充電できるとされています。

経済性については、製品ページで、電気はディーゼルより燃料費が安く、エンジンや変速機がない分だけ整備も少なくて済むと説明しています。ただし、燃料費や整備費の具体的な比較の数値は示しておらず、生産台数と納車台数、車両の価格も明らかにしていません。製品ページは現在も「2026年に納車開始」という表記のままです。

日本の物流から見ると

運転の中断に充電を重ねるという発想は、日本の物流にとっても示唆に富んでいます。

日本では2024年4月から、トラック運転者にも時間外労働の上限規制が適用され、臨時的な特別の事情がある場合でも年960時間が上限となりました。いわゆる「物流の2024年問題」です。同時に見直された改善基準告示は、連続運転を4時間以内とし、それまでに合計30分以上、原則として休憩となる運転の中断を求めています。中断は、1回おおむね10分以上に分けて取ることもできます。

連続運転4時間以内に合計30分という日本の基準は、米国の通算8時間より短い間隔です。メガワット級の充電設備を使える環境なら、中断のたびに充電を重ねる運行も考えられます。ただし、分けて取った短い中断でも同じ充電の設計が成り立つかは、まだ確かめられていません。

もう一つの論点は規格です。MCSの技術要件には最大1250V・3000A、計算上3.75MWが示されており、欧州では2026年7月、MANが欧州メーカーとして初めてMCSを搭載した量産トラックを送り出しました。一方、CHAdeMO協議会が中国と共同で開発してきたChaoJiの系統では、大型車向けに1.8MW級の次世代規格「Ultra ChaoJi」の開発が進んでいます。いずれも規格上の上限で、実際の車両や充電器がその出力で充電できるという意味ではありません。国内の大型EVトラックは試験導入の段階にあり、Semiの日本導入も発表されていません。大型トラックの電動化で、日本はどの規格の上に充電網を築くのか。Semiの量産は、その問いを一歩前に進めるきっかけにもなりそうです。

量産の先にあるもの

マスク氏は7月の決算説明会で、Semiの自動運転の開発は半年ほど優先度を下げる一方、来年には機能が動き、生産の拡大に間に合うとの見通しを述べました。運転者の働き方に上限が設けられた日本でも、2026年4月に西濃運輸とT2が自動運転トラックを中継輸送に組み込む運行を始めています。

量産ラインが動き出した電動の大型トラックに、充電網と自動運転が重なっていく。9年越しの開所は、長距離物流の姿が変わり始める地点として記憶されるのかもしれません。

【関連記事】

西濃運輸とT2、自動運転トラックを「中継輸送」へ組み込み運行開始 — 特積み幹線輸送で国内初
自動運転トラックを中継輸送に組み込んだ国内の運行事例。量産の先にある運転の自動化の流れを、日本の側から追いかけた記事です。

CATL、急速充電の世界記録を更新|10〜98%を6分27秒──壁は電池からインフラへ
充電の壁が電池から充電設備と電力網へ移ったことを論じた記事。日本の充電インフラと、大型車向けのMCSとの差にも触れています。

フォード「ファゾム」発表|3万ドルを切る電気トラック、2027年発売へ
フォードの低価格な電気トラックを扱った記事。作り方そのものを変えてコストを下げるという、EVを量産するもう一つの形です。

eCanter新型発売、三菱ふそうが国内EVトラック初の「クレーン専用シャシ」を設定
国内で市販されるEVトラックの現在地を伝える記事。大型のSemiと並べると、日本の商用車の電動化がどの段階にあるかが見えます。

【編集部後記】

IMC Logisticsは、Semiを迎える前から、カリフォルニア州で電池式、水素燃料電池式、再生可能ディーゼルのトラックを並行して走らせています。路線と顧客の条件に合わせて、技術そのものを選び分けるためだといいます。

電動か水素か、という問いは、つい一つの答えに収束させたくなります。けれど現場では、港の往復と内陸への長距離とで、すでに別々の答えが出され始めています。日本の運送会社が同じ選択肢を手にしたとき、最初に電気を選ぶのはどの路線なのでしょうか。


【用語解説】

連結総重量
トラクター(けん引車)とトレーラー、積み荷を合わせた総重量。Semiの航続距離は8万2000ポンド(約37.2t)を前提に推定されている。

空車重量
荷物や運転者を載せていない状態の車両の重さ。連結総重量の上限が決まっている場合、空車重量が重いほど積める荷物は減る。

4680セル
テスラが自社で開発・生産する円筒形リチウムイオン電池セル。直径46mm・高さ80mmであることが名称の由来である。

Megacharger
テスラがSemi向けに展開する専用の急速充電器。最大1.2MWの出力で、30分で航続距離の最大60%を回復できるとされる。

MCS
Megawatt Charging System(メガワット充電システム)の略。大型トラックなど大型車向けの充電規格で、技術要件には最大1250V・3000Aが示されている。

ChaoJi
CHAdeMO協議会と中国電力企業連合会が共同で開発した急速充電規格。大型車向けに1.8MW級の次世代規格「Ultra ChaoJi」の開発が進む。

改善基準告示
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の通称。トラック運転者の拘束時間、休息期間、連続運転時間などの基準を定め、2024年4月から見直し後の基準が適用された。

物流の2024年問題
2024年4月にトラック運転者の時間外労働に上限規制が適用されたことで、輸送力の不足が懸念された問題の総称。

中継輸送
長距離の輸送を途中の拠点で区切り、複数の運転者やトラックで引き継いで運ぶ方式。運転者の日帰り勤務を可能にする狙いがある。

【参考リンク】

Tesla Semi(外部)
テスラの電動大型トラック「Semi」の製品ページ。2つの仕様の航続距離や電費、充電器の仕様と、測定条件の注記を掲載している。

Tesla Investor Relations(外部)
テスラの投資家向け情報サイト。四半期ごとの決算資料や説明会の音声を公開しており、ネバダのSemi工場の稼働状況も確認できる。

IMC Newsroom(外部)
米国の港湾輸送大手IMC Logisticsのニュースルーム。Semi50台をカリフォルニア州で導入する計画を伝えている。

CHAdeMO協議会 ファクトシート(外部)
CHAdeMO規格の概要をまとめた協議会の公式ページ。最新規格の出力と、開発中の1.8MW級Ultra ChaoJiに触れている。

トラック運転者の改善基準告示に関するQ&A(北海道労働局)(外部)
2024年4月から適用された改善基準告示のQ&A。連続運転時間の上限と運転の中断の取り方を、具体的な例とともに解説している。

Hours of Service of Drivers(Federal Register)(外部)
米連邦自動車運送業者安全局による運転時間規則の改正。30分以上の中断なしに運転できるのを、通算8時間までと定めている規則だ。

【参考記事】

Tesla Set to Formally Roll Out Semi Electric Trucks at Nevada Event(外部)
開所イベント当日のロイターの記事。2017年の発表と2019年の生産予定、4月の量産初号車など、Semiの経緯を伝える。

Tesla Says Its Semi Is Finally in Volume Production. So, Why Did the Stock Fall?(外部)
年5万台は設計上の能力であり、生産台数と納車台数は非公表だと整理した記事。開所と同じ週に起きた株価の反応もあわせて伝える。

Tesla finally moves to electrify trucking after a decade of work and delays(外部)
発表から約10年を経た納車の開始を伝える記事。イベントの最中に、残量3%から60%まで充電してみせた実演にも触れている。

IMC Logistics will deploy 50 Tesla Semis(外部)
IMC LogisticsのSemi50台導入計画。港湾輸送と内陸輸送で仕様を使い分ける方針と、複数の技術を併用する戦略を伝える。

Tesla’s $28B quarter fueled by record deliveries, Semi production ramp(外部)
テスラの2026年4〜6月期決算を物流の視点で伝える記事。売上高282億4000万ドルと、ネバダのSemi工場の進捗を報じる。

大型トラックの充電規格は「MCS」が世界標準に!? 量産車として初めてMAN「eTGX」「eTGS」に搭載(外部)
MANがMCS搭載の量産トラックを送り出したことを伝える記事。MCSとCHAdeMO系の規格について、出力の上限値を比較している。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

おすすめ記事