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Paradromics初の臨床試験成功、Neuralinkライバルが脳インプラント技術で新たなマイルストーン達成

Paradromics初の人体実験成功、Neuralinkライバルが脳インプラント技術で新たなマイルストーン達成 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-04 10:37 by admin

ニューロテクノロジー企業Paradromicsが2025年5月14日、ミシガン大学で初めて脳コンピューターインターフェース(BCI)を人体に埋め込む手術を実施した。

同社のConnexus Brain-Computer Interfaceは、てんかん治療のため脳神経外科手術を受けていた患者の脳に約20分間埋め込まれ、その後除去された。

手術はミシガン大学のマシュー・ウィルジー助教授(脳神経外科・生物医学工学)が研究部分を、オレン・サガー教授(脳神経外科)が臨床部分を主導し、デバイスが安全に埋め込み可能で神経活動を記録できることが実証された。

Paradromicsは2015年に創設者兼CEOのマット・アングル氏により設立され、これまで羊での実験を行っていた。

同社のBCIは個々のニューロンレベルで脳活動を記録する技術を持ち、将来的には麻痺などの重篤な運動障害患者がコンピューターを通じて話すことを支援する。

同社は2025年2月時点で約1億ドルを調達し、サウジアラビアのNeomとの戦略的パートナーシップも発表している。

From: 文献リンクNeuralink competitor Paradromics completes first human implant

【編集部解説】

今回のParadromicsによる初の人体インプラント成功は、脳コンピューターインターフェース(BCI)業界において極めて重要なマイルストーンです。複数の信頼できるメディアが一貫して同じ事実を報じており、情報の信憑性は高いと判断されます。

技術的な革新性について

Paradromicsの最大の特徴は、個々のニューロンレベルで脳活動を記録できる点にあります。同社CEOのマット・アングル氏が「スタジアムの内側と外側にマイクを置く違い」と表現したように、より精密な信号取得が可能となっています。

この技術は既存のBCI技術と比較して画期的な進歩といえるでしょう。従来の脳波測定が「群衆の歓声」レベルの情報しか得られないのに対し、Paradromicsのシステムは「個々の会話」レベルの詳細な脳信号を捉えることができます。

医療への実用的影響

この技術が実用化されれば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、脳卒中、脊髄損傷患者のコミュニケーション能力回復に革命をもたらす可能性があります。特に、思考を直接音声やテキストに変換する機能は、これまで意思疎通が困難だった重篤な患者にとって希望の光となるでしょう。

ただし、現段階では20分間の一時的な埋め込みに留まっており、長期間の安全性や実用性についてはまだ検証が必要です。

競合他社との位置関係

BCI市場では、Neuralink、Synchron、Precision Neuroscienceなど複数の企業が競合しています。Neuralinkが既に複数の患者への長期埋め込みを実施している一方、Paradromicsは今回が初の臨床試験という点で後発組に位置します。

しかし、個別ニューロン記録という技術的優位性により、データ品質の面では競争力を持つ可能性があります。特に、より精密な脳信号解読が求められる複雑なタスクにおいて優位性を発揮する可能性が高いでしょう。

規制と安全性の課題

現在、ParadromicsのBCIはFDA承認を受けておらず、商業化までには長期間を要すると予想されます。今回の手術が研究目的で実施できたのは、患者が既にてんかん治療のための脳外科手術を受けていたという特殊な状況があったためです。

今後は、健康な脳組織への長期埋め込みの安全性検証が最大の課題となります。また、デバイスの耐久性や生体適合性についても詳細な検証が必要でしょう。

長期的な社会への影響

この技術が普及すれば、障害者の社会参加促進や医療格差の解消に大きく貢献する可能性があります。一方で、脳に直接アクセスする技術であるため、プライバシー保護やセキュリティ面での新たなリスクも生じるでしょう。

また、高額な治療費による医療格差の拡大や、技術の軍事転用といった倫理的課題についても、今後議論が必要になると考えられます。

投資と市場の動向

Paradromicsが約1億ドルの資金調達を完了し、サウジアラビアのNeomとの戦略的パートナーシップを締結している点は、この分野への国際的な投資関心の高さを示しています。

BCI市場は今後10年間で急速な成長が予想されており、今回の成功は業界全体の発展を加速させる触媒となる可能性が高いでしょう。

【用語解説】

脳コンピューターインターフェース(BCI)
脳の電気信号を直接読み取り、外部機器への指令に変換するシステム。筋肉を使わずに思考だけでコンピューターや機械を操作できる技術である。

個別ニューロン記録
脳内の個々の神経細胞(ニューロン)レベルで電気活動を記録する技術。従来の脳波測定よりもはるかに精密で詳細な脳信号を取得できる。

てんかん切除手術
発作の原因となる脳組織を外科的に除去または切断する治療法。薬物治療で効果が得られない難治性てんかん患者に対して行われる。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)
運動神経が徐々に破壊される進行性の神経変性疾患。最終的に全身の筋肉が動かなくなり、コミュニケーション能力も失われる難病である。

【参考リンク】

Paradromics公式サイト(外部)
Austin拠点のニューロテクノロジー企業。Connexus BCIシステムの開発・製造を手がけ、個別ニューロンレベルでの脳信号記録技術を持つ。

ミシガン大学医学部(外部)
今回の臨床試験を実施した米国の名門大学医学部。脳神経外科分野で世界的に高い評価を受け、先端的な医療研究を行っている。

Neuralink(外部)
Elon Muskが設立したBCI企業。既に複数の患者への長期埋め込み実験を実施している主要競合他社である。

Synchron(外部)
Jeff BezosとBill Gatesが投資するBCI企業。血管内アプローチによる低侵襲なBCIシステムを開発し、既に複数の患者への埋め込みを実施。

【参考記事】

WIRED – A Neuralink Rival Just Tested a Brain Implant in a Person(外部)
技術的詳細と手術プロセスについて詳細に解説。EpiPen様の専用器具を使用した埋め込み手法や、10-15分間の短時間テストの意義を説明している。

Bloomberg – Neuralink Rival Paradromics Tests Brain Implant in First Human(外部)
投資・市場観点からの分析が充実。1セント硬貨より小さいチップサイズや、髪の毛の半分の太さの電極技術について具体的な数値で説明。

UPI – Paradromics implants brain-computer interface into first human patient(外部)
他社との比較分析が詳細。Neuralink、Precision Neuroscience、Synchronの現状と技術的差異について包括的に解説している。

【編集部後記】

脳に直接アクセスする技術が現実のものとなりつつある今、皆さんはどのような未来を想像されるでしょうか。思考だけでコンピューターを操作できる日が来たとき、私たちの働き方や生活はどう変わるのか。一方で、プライバシーや安全性への懸念もありますよね。この技術が普及した社会で、皆さんが最も期待することや不安に感じることは何でしょう。ぜひコメント欄で、この革新的な技術についてのご意見をお聞かせください。

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TaTsu
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