Microsoft Majorana 1:トポロジカル量子ビットの実証に成功 ─ 量子コンピューティングの新たな可能性

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Microsoftは2025年2月19日、トポロジカル量子ビットを実装した量子プロセッサー「Majorana 1」の開発に成功したと発表した。

UC Santa Barbara(UCSB)の物理学者チームとMicrosoftの共同研究チームは、インジウムヒ素とアルミニウムを組み合わせた新素材を用いて、8個のトポロジカル量子ビットの実装に成功。各量子ビットは0.01ミリメートルという微細サイズながら、従来の量子コンピューターが抱える量子状態の不安定性という課題に対し、新しいアプローチによる解決策を示した。

Microsoft Station Qのディレクター Chetan Nayak博士が率いる研究チームは、この技術により量子誤り訂正に必要な物理量子ビット数を従来の10分の1に削減できる可能性を示した。米国防高等研究計画局(DARPA)のUS2QCプログラムの最終フェーズにも選定されている。

from:https://phys.org/news/2025-02-topological-quantum-processor-majorana-modes.html

【編集部解説】

量子コンピューターの実用化に向けた研究は、これまで様々なアプローチで進められてきました。IBM、Google、Intelなどの大手テクノロジー企業は主に超伝導回路方式を採用し、IonQやHoneywellはイオントラップ方式を追求してきました。しかし、いずれの方式でも量子状態の不安定性、いわゆる「デコヒーレンス」という根本的な課題が存在していました。

従来の量子コンピューターでは、1つの論理量子ビットを実現するために多数の物理量子ビットによる誤り訂正が必要です。これは、実装コストや消費電力の面で大きな障壁となっていました。

このような背景の中、トポロジカル量子コンピューターという新しいアプローチが注目を集めています。この方式は、数学的なトポロジーの概念を応用し、量子情報を空間的に分散して保持することで、環境ノイズに対する耐性を持たせるという革新的な手法です。

Majorana 1の革新性は、その物理的な実装方法にあります。インジウムヒ素とアルミニウムを組み合わせた新素材を絶対零度近くまで冷却し、精密な磁場制御下に置くことで、マヨラナ・ゼロモード(MZM)と呼ばれる特殊な粒子状態を生成することに成功しました。

この方式の画期的な点は、量子状態の制御が電圧パルスのオン/オフのみで可能なことです。従来方式では各量子ビットの繊細な微調整が必要でしたが、トポロジカル量子ビットでは、より安定した制御が可能となります。

さらに特筆すべきは、10億個の電子中の1個の違いを検出できる超高精度な測定システムを実現したことです。これにより、量子誤り訂正に必要な物理量子ビット数を大幅に削減できる可能性が示されました。

ただし、現時点では8量子ビットの実証段階であり、実用的な量子計算には更なるスケールアップが必要です。Microsoftは数年以内の実用化を目指していますが、業界専門家からは慎重な見方も示されています。

【用語解説】

トポロジカル量子コンピュータ
トポロジカル量子コンピュータトポロジカル量子コンピューターは、数学的なトポロジーの概念を応用した量子計算方式です。トポロジーとは、物体の形状が変形しても保持される性質を研究する数学の分野です。この原理を量子計算に応用することで、環境の影響を受けにくい安定した量子状態を実現することを目指しています。

マヨラナ粒子
マヨラナ粒子は、1937年にエットーレ・マヨラナによって理論的に予言された特殊な粒子です。粒子と反粒子が同一であるという特異な性質を持ち、これまで物理学の世界では「幽霊粒子」とも呼ばれ、その存在の実証が長年の課題でした。今回の成果は、この粒子の制御可能な状態の実現という点でも重要な意味を持ちます。

量子誤り訂正
量子誤り訂正は、量子コンピューターの実用化における最重要技術の一つです。従来方式では、1つの論理量子ビットを保護するために多数の物理量子ビットが必要でした。トポロジカル方式では、量子状態をより安定して保持できる可能性が示されています。

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