Last Updated on 2025-02-25 09:52 by admin
シカゴ大学のDavid Awschalom教授らの研究チームは、シリコンカーバイド(SiC)を使用した量子メモリの新しい制御方法を実証しました。この成果は、2025年1月30日付のNature communication誌で発表されています。
研究チームは、SiC結晶中の原子欠陥を利用し、室温環境での量子状態の制御と保持に成功。従来は極低温でしか実現できなかった量子メモリの制御を、一般的な半導体材料で可能にしました。
from:https://www.nature.com/articles/s41467-025-56490-w
【編集部解説】
量子通信技術は、現代のデジタル通信が抱えるセキュリティの課題を根本的に解決する可能性を秘めています。市場調査会社のデータによれば、2024年の世界の量子通信市場規模は11億ドルで、2025年から2030年にかけて年平均31.8%の成長が予測されています。
これまでの量子通信研究では、特殊な材料や極低温環境が必要とされ、実用化への大きな障壁となっていました。今回の研究成果が画期的なのは、産業界ですでに実績のあるシリコンカーバイドを使用し、室温での量子状態制御を実現した点です。
シリコンカーバイドは、電気自動車のパワー半導体やスマートフォンの充電器など、私たちの身近な製品にすでに使用されている材料です。既存の半導体製造ラインでの生産が可能であり、量子技術の産業化への現実的な道筋を示しています。
量子通信技術の実用化が進めば、以下のような分野での活用が期待されます:
- 政府機関や重要インフラの通信セキュリティ強化
- 金融機関における取引データの保護
- 医療機関での患者データの安全な共有
- データセンター間の機密情報転送
【用語解説】
シリコンカーバイド(SiC)
炭素とケイ素からなる化合物半導体。高温でも安定して動作する特性を持つ
量子メモリ
量子状態を一時的に保存できる装置
原子欠陥
結晶構造中の原子が意図的に欠けている箇所