2025年3月3日、中国科学技術大学(USTC)の研究チームが超伝導量子プロセッサ「Zuchongzhi 3.0」を発表しました。このプロセッサは105量子ビットと182カプラーを搭載し、ランダム回路サンプリングという高度な計算タスクで従来のスーパーコンピュータが数十億年かかる計算をわずか数百秒で完了する性能を持っています。また、Googleが2024年に発表した最新の量子プロセッサ「Willow」よりも6桁速い計算速度を記録しました。
「Zuchongzhi 3.0」は、量子誤り訂正や量子化学、気候変動シミュレーションなど、幅広い応用可能性を示す技術基盤を提供しています。この成果は『Physical Review Letters』誌に掲載され、量子計算分野で新たな基準を打ち立てました。中国はこの技術でアメリカと並び、量子計算のリーダーとしての地位をさらに強固にしました。
from:https://phys.org/news/2025-03-superconducting-quantum-processor-prototype-faster.html
【編集部解説】
Zuchongzhi 3.0:量子計算の未来を切り開く技術
「Zuchongzhi 3.0」は、量子コンピュータの「並列処理能力」を最大限に活用し、従来のスーパーコンピュータでは不可能な計算を可能にしました。例えば、83個の量子ビットを使ったランダム回路サンプリングというタスクでは、スーパーコンピュータ「Frontier」が約64億年かかる問題をわずか数百秒で解決しました。この性能は、量子ビットが持つ「重ね合わせ」や「エンタングルメント」といった特性によるものです。
Googleとの競争:量子計算分野の覇権争い
Googleが2024年に発表した「Willow」プロセッサも105量子ビットを搭載し注目されましたが、「Zuchongzhi 3.0」はその性能を大きく上回っています。特に計算速度や精度の面で優れた成果を示しており、中国はこの分野でアメリカと肩を並べる存在となりました。一方で、「Willow」はエラー訂正技術(Surface Code)において進展しており、中国も同様の技術開発を進めています。
私たちの日常生活への影響
この技術が実用化されれば、新薬開発や気候変動対策、高度な人工知能(AI)の学習など、多くの分野で革命的な進展が期待されます。一方で、現在使われている暗号技術が無力化される可能性もあり、新たなセキュリティ技術の開発が急務です。
将来への展望
研究チームは現在、エラー訂正コード距離7への対応を進めており、これを9や11へ拡張することで、大規模な汎用量子コンピュータへの道筋を描いています。このような進展は、より複雑な問題解決や商業利用への道を切り開くでしょう。
【用語解説】
- 量子超越性(Quantum Supremacy)
古典的なコンピュータでは不可能な計算を量子コンピュータが実現すること。例えるなら、一人で解く問題を100万人で一斉に解くような効率性です。 - ランダム回路サンプリング
ランダムに構築された回路から出力データを解析するタスク。これは量子コンピュータの性能評価に使われます。 - エラー訂正コード距離7
量子コンピュータは非常に繊細で、環境の影響や内部ノイズによってエラーが発生しやすいです。エラー訂正コード距離とは、量子情報を保護するために修正できるエラーの数を示す指標です。距離7の場合、最大で3つのエラーを同時に修正できる性能を持ちます。この技術により、量子コンピュータは長時間の計算や大規模なデータ処理を安定して行えるようになります。距離が大きいほど耐久性が向上し、実用化に向けた重要なステップとなります。