innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

世界初の量子コンピュータ間テレポーテーション実現 – 分散型量子コンピューティングへの道筋

世界初の量子コンピュータ間テレポーテーション実現 - 分散型量子コンピューティングへの道筋 - innovaTopia - (イノベトピア)

オックスフォード大学の物理学者ドゥーガル・メイン(Dougal Main)率いる研究チームが、量子コンピュータ間での量子テレポーテーションを世界で初めて実現した。

Nature誌に発表された研究では、約1.8メートル(6フィート)離れた2つの量子プロセッサ間で機能する論理ゲートの作成に成功した。実験ではイッテルビウムイオンを使用し、キュービットのスピン状態を86%の忠実度で複製することができた。また、量子システムの性能テストに使用されるグローバーの検索アルゴリズムを実行し、71%の成功率を記録した。

従来の量子テレポーテーション実験は量子状態の転送に焦点を当てていたが、今回の研究では遠隔システム間での相互作用の創出を実現した。この技術により、複数の小型量子モジュールをフォトニックリンクで接続し、単一の大型量子コンピュータを構築する必要なく分散型量子コンピューティングが可能になる。研究チームは、モジュールのアップグレードや交換をシステム全体を中断することなく実行できる柔軟性を強調している。

From: 文献リンクScientists Achieve Teleportation Between Quantum Computers for the First Time Ever

【編集部解説】

今回のオックスフォード大学の研究は、量子コンピューティング分野において極めて重要な転換点となる可能性があります。従来の量子コンピュータは、より多くのキュービットを単一のシステムに詰め込むほど、量子状態の維持が困難になるという根本的な課題を抱えていました。

この問題を解決するため、研究チームは「分散型量子コンピューティング」という新しいアプローチを提案しています。簡単に言えば、巨大な量子コンピュータを一つ作るのではなく、小さな量子プロセッサを複数作り、それらを量子テレポーテーションで繋げるという発想です。

量子テレポーテーションという言葉はSFのように聞こえますが、実際には粒子を物理的に移動させるのではなく、量子もつれという現象を利用して量子状態の情報を瞬時に転送する技術です。今回の実験では、この技術を使って論理ゲート(量子計算の基本単位)を別々のプロセッサ間で実行することに成功しました。

実験では、量子ビットとして機能する2つのイッテルビウムイオンを使用し、光ファイバーを通じて接続されました。この構成により、物理的に分離された量子ビット間で86%という高い忠実度での量子演算が実現されています。

この技術が実用化されれば、量子コンピュータの構築方法が根本的に変わる可能性があります。現在のように一つの巨大なシステムを作る必要がなくなり、必要に応じてモジュールを追加・交換できる柔軟なシステムが実現できるでしょう。

さらに注目すべきは、この技術が「量子インターネット」の基盤となり得ることです。地理的に離れた量子コンピュータ同士を接続し、超高速な分散計算や、理論上破られることのない暗号通信が可能になります。

ただし、現在のグローバーアルゴリズムの成功率は71%にとどまっており、実用化には更なる精度向上が必要です。また、量子もつれの維持には極めて精密な環境制御が求められるため、大規模展開には技術的・経済的な課題が残されています。

それでも、この研究は量子コンピューティングを実験室レベルから実用レベルへと押し上げる重要な一歩となるでしょう。特に創薬、金融モデリング、暗号解読といった分野では、従来のスーパーコンピュータでは不可能な計算が現実のものとなる可能性を秘めています。

【用語解説】

量子テレポーテーション
量子状態を伝送する技術で、送り手側の物体(情報)は破壊され、受け取り側に元の物体(情報)そのものが残る現象。量子もつれを利用して不確定性原理の壁を回避し、物理的な移動なしに量子情報を転送する。

キュービット(量子ビット)
量子コンピューティングでデータをエンコードするために使用される情報の基本単位。古典的なコンピューターの0または1の状態に加え、量子力学の重ね合わせにより両方の状態を同時に持つことができる。

論理ゲート
1つ以上の入力を受け取り、特定の規則に基づいて出力を生成する基本的な演算装置。量子コンピューティングでは、キュービットに対する基本的な操作を実行する。

量子もつれ(量子エンタングルメント)
離れた系の量子力学的な相関。二つの粒子が離れても繋がった関係にあり、一方の特徴が決まるともう一方もそれに応じて決まる現象。

グローバーの検索アルゴリズム
量子コンピューターで使用される検索アルゴリズム。構造化されていないデータベースから特定の項目を、古典的な方法よりも大幅に高速で見つけることができる。

イオントラップ
電場や磁場を使ってイオンを空中に捕捉し、量子ビットとして利用する技術。イッテルビウムイオン、ストロンチウムイオンやカルシウムイオンなどが使用される。

分散型量子コンピューティング(DQC)
複数の量子処理ユニットを量子ネットワークで相互接続することにより、量子計算能力をスケールアップする手法。

フォトニックリンク
光子を使って情報を伝送する光学的接続技術。量子コンピュータ間の通信に使用される。

【参考リンク】

オックスフォード大学量子研究所(外部)
量子コンピューター、量子通信、量子センシングなど幅広い量子技術の研究開発を行う中心機関

Nature – 原著論文(外部)
今回の研究成果が掲載されたNature誌の原著論文。分散型量子コンピューティングの実証実験について詳細記述

【参考記事】

世界初。オックスフォード大が量子コンピューター間のテレポーテーションに成功 – Gizmodo Japan(外部)
日本語での詳細解説記事。量子コンピューターの基礎から今回の研究成果まで分かりやすく説明

論文まとめ602回目 Nature オックスフォード大学 光ネットワークで結ばれた2つの量子コンピュータ間で世界初の分散量子計算に成功 – note(外部)
Nature誌に掲載された原著論文の詳細な解説。技術的な側面を専門的に分析

【編集部後記】

量子コンピューティングの世界は日々進歩していますが、今回のオックスフォード大学の研究は特に興味深いものでした。分散型という発想が、従来の「より大きく、より複雑に」という方向性とは異なるアプローチを示していることに驚かされます。

みなさんはこの技術が実用化された時、どのような分野で最初に活用されると思われますか?また、量子インターネットが現実になった世界を想像してみると、私たちの日常生活はどう変わるでしょうか?ぜひSNSで、この技術への期待や疑問をお聞かせください。一緒に未来を考えてみませんか?

量子コンピューターニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com
ホーム » 量子コンピューター » 量子コンピューターニュース » 世界初の量子コンピュータ間テレポーテーション実現 – 分散型量子コンピューティングへの道筋