Last Updated on 2025-03-21 11:04 by admin
NVIDIAはディズニー・リサーチおよびGoogle DeepMindと協力して、ロボットの動きをシミュレーションするための物理エンジン「Newton」を開発している。この発表はNVIDIA CEOのジェンセン・フアン氏が2025年3月18日に開催されたGTC 2025(GPU Technology Conference)で行った。
ディズニーはNewtonを活用する最初の企業の一つとなり、スター・ウォーズにインスパイアされたBDXドロイドなどの次世代エンターテイメントロボットを動かす予定である。このBDXドロイドの一つは、フアン氏の基調講演中に彼の隣でよちよち歩く様子が披露された。
NVIDIAは2025年後半にNewtonの初期オープンソースバージョンをリリースする予定である。Newtonは、NVIDIA Warpをベースに構築されており、Google DeepMindのロボット開発ツールエコシステムと互換性がある。
ディズニーは長年にわたり、スター・ウォーズにインスパイアされたロボットを世界中のパークに導入するというアイデアを提案してきた。最近では2025年のSXSWでドロイドのデモが行われた。
ウォルト・ディズニー・イマジニアリングのリサーチ&デベロップメント上級副社長であるカイル・ラフリン氏は、「BDXドロイドはほんの始まりに過ぎない。私たちは、これまで世界が見たことのない方法でより多くのキャラクターに命を吹き込むことに取り組んでおり、ディズニー・リサーチ、NVIDIA、Google DeepMindとのコラボレーションはそのビジョンの重要な部分である」と述べている。
GTC 2025では、NVIDIAはNewton以外にも、ヒューマノイドロボット向けのAI基盤モデル「Groot N1」(または「GR00T N1」と表記)も発表した。これは世界初のオープンなヒューマノイドロボット基盤モデルであり、ロボットが環境をより良く認識し推論できるようにするものである。さらに、Blackwell UltraやRubinなどの次世代AIチップのタイムラインを共有し、新しい「パーソナルAIコンピュータ」ラインも発表した。
from:Nvidia and Google DeepMind will help power Disney’s cute robots
【編集部解説】
NVIDIAとDisney、Google DeepMindの革新的コラボレーション
NVIDIAとGoogle DeepMind、そしてDisney Researchが手を組み、ロボット工学に革命をもたらす新たな物理エンジン「Newton」の開発を進めています。この発表は2025年3月18日、カリフォルニア州サンノゼで開催されたNVIDIAのGTC 2025(GPU Technology Conference)でNVIDIA CEOのジェンセン・フアン氏によって行われました。
Newtonは単なる物理エンジンではありません。これはロボットが実世界での動きをより自然に、より表現豊かに実現するための基盤技術です。従来のロボットが事前にプログラムされた動きに頼っていたのに対し、Newtonを搭載したロボットは環境に適応し、リアルタイムで学習しながら動作することが可能になります。
特筆すべきは、このNewtonがオープンソースとして2025年後半にリリースされる予定であることです。これにより、世界中の開発者がこの先進技術を活用し、さまざまな分野でのロボット開発を加速させることができるでしょう。
ディズニーのロボティクス戦略とBDXドロイド
ディズニーはNewtonの最初の活用企業の一つとなります。同社はスター・ウォーズにインスパイアされたBDXドロイドと呼ばれるロボットを開発しており、これらは将来的に同社のテーマパークに導入される予定です。
GTC 2025の基調講演では、このBDXドロイドの一つがフアン氏の隣に登場し、会場を沸かせました。このロボットは単純な動きだけでなく、頭の動きやボディランゲージを使って感情を表現し、観客とのインタラクションを実現していました。
ウォルト・ディズニー・イマジニアリング研究開発部門の上級副社長、カイル・ラフリン氏は「BDXドロイドはほんの始まりに過ぎない」と述べ、今後さらに多くのキャラクターをこれまでにない方法で生命を吹き込んでいく計画を明らかにしています。
Newtonの技術的特徴と可能性
Newtonの技術的な特徴を掘り下げてみましょう。このエンジンはNVIDIA Warp Pythonフレームワーク上に構築されており、ロボット学習に最適化されています。また、Google DeepMindの「MuJoCo」や「NVIDIA Isaac Lab」などのシミュレーションフレームワークとの互換性も備えています。
Newtonの最大の特徴は、その高いカスタマイズ性にあります。開発者は食品、布、砂などの変形可能な物体とのロボットの相互作用をプログラムすることができ、これまで難しかった複雑な環境でのロボット動作をシミュレーションすることが可能になります。
AIロボティクスの未来と社会的影響
今回のコラボレーションは、単にテーマパークのアトラクションを進化させるだけではありません。AIと物理シミュレーションを組み合わせたこの技術は、産業用ロボット、AI駆動型ヒューマノイドアシスタント、次世代製造システムなど、幅広い分野に応用できる可能性を秘めています。
特に重要なのは、Newtonがシミュレーションと実世界のギャップを埋める役割を果たすことです。これまでロボット開発の大きな課題だった「シム・トゥ・リアル・ギャップ」(シミュレーションと実世界の挙動の差)を解消することで、より高度で自然なロボットの動きを実現できるようになります。
また、NVIDIAはGTC 2025で「Isaac GR00T N1」という世界初のオープンなヒューマノイドロボット基盤モデルも発表しました。これはロボットが環境をより良く認識し推論できるようにするもので、Newtonと組み合わせることでさらに高度なロボット開発が可能になるでしょう。
テクノロジーとエンターテインメントの融合がもたらす新時代
今回のNVIDIA、Google DeepMind、Disneyの協業は、テクノロジーとエンターテインメントの融合がもたらす新たな可能性を示しています。特にディズニーのようなストーリーテリングに長けた企業がAIとロボティクスを取り入れることで、これまでにない没入型の体験を創出することができるでしょう。
テーマパークでのロボットキャラクターとの対話は、単なるアトラクションを超えて、パーソナライズされた体験へと進化する可能性があります。例えば、来場者の反応に応じて対話を変化させたり、個人を認識して過去の訪問を記憶したりするロボットが実現するかもしれません。
一方で、このような技術の進化には倫理的な課題も伴います。AIを搭載したロボットがどこまで自律的に行動できるのか、人間との境界線をどう設定するのか、プライバシーをどう保護するのかなど、社会的な議論も必要になってくるでしょう。
日本のロボット産業への影響
日本はロボット大国として知られていますが、今回のNewtonのようなオープンソースの物理エンジンは、日本のロボット産業にも大きな影響を与える可能性があります。ディズニーのロボット技術が進化することで、日本の来場者も近い将来、最先端のロボットエンターテインメントを体験できるようになるでしょう。
また、日本の製造業やサービス業においても、Newtonのような高度な物理シミュレーション技術を活用することで、より自然で人間らしい動きをするロボットの開発が加速する可能性があります。少子高齢化が進む日本社会において、このような技術の進化は労働力不足の解消にも貢献するかもしれません。
テクノロジーの進化は止まることを知りません。NVIDIAとGoogle DeepMind、Disneyの協業から生まれるNewtonは、ロボットと人間の関係性を再定義し、私たちの生活やエンターテインメントの在り方を大きく変えていく可能性を秘めています。今後の展開に注目していきましょう。
【用語解説】
物理エンジン(Newton):
コンピューター上で物体の動きを、衝突、摩擦、重力などの物理運動法則に従って計算するツール(ミドルウェア)である。Newtonはロボットの動きをシミュレーションするための物理エンジンで、実世界での動作をより正確に再現することを目指している。
オープンソース:
コンピュータプログラムの著作権の一部を放棄し、ソースコードの自由な利用および頒布を万人に許可するソフトウェア開発モデル。Newtonは2025年後半にオープンソースとして公開される予定で、誰でも利用・改良できるようになる。
GPU(Graphics Processing Unit):
グラフィックボードに搭載されている演算用のプロセッサで、画像処理だけでなく、AI学習や物理シミュレーションなどの並列計算にも利用される。
シム・トゥ・リアル・ギャップ(sim-to-real gap):
シミュレーション環境と実世界の間に存在する差異のこと。ロボット開発においては、シミュレーションでうまく動作したものが実世界では予期せぬ動きをすることがある問題を指す。
BDXドロイド:
スター・ウォーズにインスパイアされたディズニーのロボットで、テーマパークでの展示を目的としている。よちよち歩く動きが特徴的である。
【参考リンク】
NVIDIA(外部)
半導体メーカーで、GPUの開発・販売を行っている企業。AIやロボティクス分野でも先進的な技術を提供。
Google DeepMind(外部)
Googleの子会社で、人工知能研究に重点を置く。AlphaGoなど先進的AIシステムを開発。
ディズニー(外部)
エンターテインメント企業。アニメーション、映画制作、テーマパーク運営など幅広い事業を展開。
【編集部後記】
みなさんは、テーマパークのロボットキャラクターに話しかけたことはありますか? 近い将来、ディズニーランドで出会うドロイドたちは、まるで映画から飛び出してきたかのように自然に動き、私たちと交流するかもしれません。AIとロボティクスの融合が生み出す新しいエンターテインメントの形。もし皆さんがロボット開発者だったら、どんなキャラクターに命を吹き込みたいですか? ぜひSNSで教えてください。技術の進化が私たちの体験をどう変えていくのか、一緒に考えていきましょう。