innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

NVIDIA、TSMCのアリゾナ工場でBlackwell AIチップ生産開始 – 米国内半導体製造の新時代へ

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-15 18:44 by admin

Nvidiaは2025年4月14日(月曜日)、TSMCのアリゾナ州フェニックス工場でBlackwell AIチップの生産を開始したことを発表した。これはNvidiaの半導体製造の一部を米国内にシフトする動きの一環である。

TSMCは世界最大の半導体製造会社であり、米国の半導体生産に1,000億ドル(約15兆円)の投資を発表している。同社は2025年1月にアリゾナ工場で4nmテクノロジーを使用したチップの製造を開始しており、今後10年の終わりまでにはより高度な2nmチップの生産を計画している。

Nvidiaは現在TSMCの施設で製造されている具体的なBlackwellチップについては明らかにしていないが、同社のウェブサイトによるとBlackwellチップはTSMCの独自の4NP製造プロセスを使用している。アリゾナでの製造においては、NvidiaはAmkorとSPILと提携してパッケージングとテスト作業を行っている。

さらに、NvidiaはFoxconnとWistronといった電子機器大手と提携し、テキサス州にスーパーコンピュータ製造施設を設立することを発表した。Foxconnはヒューストンに、Wistronはダラスに施設を設ける予定である。これらの工場での大量生産は今後12〜15ヶ月の間に大幅に増加すると予想されている。

Nvidiaは今後4年間で、TSMC、Foxconn、Wistron、Amkor、SPILとのパートナーシップを通じて、最大5,000億ドル(約75兆円)のAIインフラを米国内で生産する計画を発表している。

Nvidiaのジェンセン・フアンCEOは「世界のAIインフラのエンジンが初めて米国で製造される。米国での製造を強化することで、AIチップとスーパーコンピュータへの膨大かつ増加する需要により良く対応し、サプライチェーンを強化し、耐性を高めることができる」と述べている。

また、Nvidiaは「米国の工場向けAIチップとスーパーコンピュータの生産は、今後数十年にわたって何十万もの雇用を創出し、経済安全保障に何兆ドルもの貢献をすると予想される」としている。

この発表は、トランプ政権下での関税政策の混乱の中で行われ、米国内製造を推進するトランプ政権の方針に沿った動きとなっている。

from Nvidia starts producing its Blackwell AI chip at TSMC’s Arizona plant

【編集部解説】

NvidiaがTSMCのアリゾナ工場でBlackwellチップの生産を開始したというニュースは、単なる製造拠点の移転という話にとどまらない重要な意味を持っています。この動きは、世界の半導体サプライチェーンの再編成と地政学的な変化を象徴しているのです。

まず、Blackwellアーキテクチャについて理解を深めておきましょう。これはNvidiaの最新のAI向けGPUアーキテクチャで、前世代のHopperから大幅な性能向上を実現しています。Blackwellシリーズの中でもB200 GPUは208億個のトランジスタを搭載しており、高い演算性能を誇ります。さらに、Blackwellは2つのGPUダイを1つのパッケージに統合し、NV-HBIと呼ばれる10TB/秒のリンクで接続する革新的な設計を採用しています。

しかし、Blackwellの開発過程は必ずしも順調ではありませんでした。2024年10月に設計上の欠陥が報告され、生産遅延の原因となりました。ジェンセン・フアンCEOは「設計上の欠陥はNvidia側の100%の責任」と認め、「機能的には問題なかったが、歩留まりが低下した」と説明しています。この問題はTSMCとの協力により解決され、2024年末には出荷が開始されました。

今回のアリゾナ工場での生産開始は、こうした技術的課題を乗り越えた上での展開と言えるでしょう。

さて、この動きの背景には、米国の半導体製造能力強化という国家戦略があります。現在、世界の先端半導体製造は台湾に大きく依存しており、米中関係の緊張が高まる中で、半導体サプライチェーンの安全保障は各国の重要課題となっています。

特に注目すべきは、NvidiaがTSMCのアリゾナ工場での生産に加え、FoxconnとWistronと提携してテキサス州にスーパーコンピュータ製造施設を設立する計画を発表したことです。これは単なる半導体製造にとどまらず、AIインフラのエコシステム全体を米国内に構築しようとする戦略的な動きと言えます。

Nvidiaは今後4年間で、TSMC、Foxconn、Wistron、Amkor、SPILとのパートナーシップを通じて、最大5,000億ドル(約75兆円)のAIインフラを米国内で生産する計画を発表しています。これは、トランプ政権下での「米国製造業の復活」という政策方針に沿った動きでもあります。

この動きがもたらす影響は多岐にわたります。まず、雇用創出の面では、Nvidiaは「何十万もの雇用を創出し、経済安全保障に何兆ドルもの貢献をする」と予測しています。また、半導体サプライチェーンの強靭化という観点からも重要な一歩と言えるでしょう。

一方で、こうした製造拠点の移転には課題もあります。米国での製造コストは台湾と比較して高くなる可能性があり、これが最終製品の価格に影響する可能性も否定できません。また、高度な半導体製造には熟練した技術者が必要であり、人材育成も重要な課題となるでしょう。

さらに、Blackwellチップの性能向上は、AIの発展にも大きな影響を与えます。より高速で効率的なAIモデルの訓練と推論が可能になることで、より高度なAIアプリケーションの開発が加速すると予想されます。ジェンセン・フアンCEOは「Blackwellは生成AI時代のためのプロセッサを作った」と述べており、AIの進化における重要な役割を担うことが期待されています。

日本の視点から見ると、半導体産業の地政学的な再編は重要な示唆を含んでいます。日本も経済安全保障の観点から半導体製造能力の強化に取り組んでおり、TSMCの熊本工場建設などの動きがありますが、最先端プロセスでの製造能力は依然として限られています。Nvidiaの動きは、技術的優位性と地政学的な戦略の両面から半導体産業を捉える重要性を示していると言えるでしょう。

最後に、このニュースは単なる企業戦略の話ではなく、テクノロジーと地政学、国家安全保障が交錯する現代の複雑な状況を象徴しています。

【用語解説】

TSMC(台湾積体電路製造)
世界最大の半導体ファウンドリ企業。ファウンドリとは、自社で設計せず他社の設計した半導体を製造する企業のことである。1987年に台湾で設立され、Apple、NVIDIA、Qualcommなど世界の主要テック企業に半導体を供給している。現在、最先端の3nmプロセス技術を持ち、世界の半導体生産の約30%を担っている。

NVIDIA
1993年に設立された米国の半導体企業で、主にGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の開発・製造を行っている。もともとはゲーム用グラフィックカードで知られていたが、現在はAI処理に特化したGPUで世界市場をリードしている。2024年度の売上高は609億ドルで、半導体企業として世界1位となった。

Blackwellアーキテクチャ:
NVIDIAの最新のAI向けGPUアーキテクチャで、前世代のHopperアーキテクチャから大幅な性能向上を実現している。特に生成AI向けに最適化されており、B200 GPUは208億個のトランジスタを搭載している。消費電力あたりの性能が大幅に向上しており、AIモデルの訓練と推論を効率的に行うことができる。

4NP製造プロセス:
TSMCの4nmプロセス技術の改良版で、NVIDIAのBlackwellチップの製造に使用されている。「4N」はTSMCの4nmプロセスを指し、「P」はパフォーマンス向上のための最適化を意味する。このプロセスにより、より小さな面積に多くのトランジスタを集積することができ、性能と電力効率の向上が可能になる。

AIインフラ:
AI(人工知能)の開発・運用に必要なハードウェアとソフトウェアの総称。具体的には、GPUなどの演算処理装置、大容量ストレージ、高速ネットワーク、冷却システム、そしてAI開発フレームワークやライブラリなどのソフトウェアコンポーネントから構成される。今回のニュースでは、NVIDIAがTSMC、Foxconn、Wistronなどと提携して、米国内でAIインフラを生産する計画を発表している。

ファウンドリ:
半導体の製造を専門とする企業のこと。自社では半導体の設計を行わず、他社が設計した半導体を製造する。これに対して、自社で設計した半導体を製造する企業をIDM(Integrated Device Manufacturer)と呼ぶ。TSMCは世界最大のファウンドリ企業であり、世界の半導体市場の約50%のシェアを持つ。

【参考リンク】

NVIDIA Blackwell Platform(外部)NVIDIAの最新AIプラットフォーム「Blackwell」の公式サイト。製品の特徴や技術仕様、用途などが詳しく解説されている。

CHIPS and Science Act(外部)米国の半導体産業強化法(CHIPS法)に関する公式サイト。半導体製造の国内回帰を促進するための補助金や税制優遇措置などが説明されている。

【関連記事】

AI(人工知能)ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

author avatar
乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
ホーム » 半導体 » 半導体ニュース » NVIDIA、TSMCのアリゾナ工場でBlackwell AIチップ生産開始 – 米国内半導体製造の新時代へ