ロッキード・マーティン(Lockheed Martin、NYSE:LMT)は2026年5月1日、米宇宙軍 宇宙システムコマンド(U.S. Space Force Space Systems Command)から、Space-Based Interceptor(SBI/宇宙配備型迎撃機)プログラムを支える能力開発のパートナーとして選定されたと、アラバマ州ハンツビル発で発表した。
本契約により、SBI能力の開発、試験、統合が加速され、防御範囲拡大と生存性向上、抑止力強化を担う早期交戦層が提供される。同社のSBIシステムは、THAAD、PAC-3、Next Generation Interceptor、極超音速打撃システム、ミサイル警戒・追跡システムでの経験を活用する。
ロッキード・マーティン・スペース社長のロバート・ライトフット氏は、2028年までに統合デモンストレーションを実現するとコメントした。
【編集部解説】
このニュースを正しく読み解くには、ロッキード・マーティン単独の話ではなく、米国が進める「Golden Dome(ゴールデン・ドーム)」構想という大きな絵の中に位置づける必要があります。今回の契約は、その骨格をなす一片です。
Space-Based Interceptor(SBI、宇宙配備型迎撃機)プログラムでは、米宇宙軍 宇宙システムコマンドが2025年末から2026年初頭にかけて、12社に対し計20件、総額最大32億ドル(約4,800億円、1ドル=150円換算)規模のOther Transaction Authority(OTA)契約を発出しています。ロッキード・マーティンはその一角を占めるパートナーであり、他にもNorthrop Grumman、Raytheon、SpaceX、Anduril Industries、True Anomaly、GITAI USAなどが名を連ねている点が重要です(出典:DefenseScoop、Breaking Defense、Air & Space Forces Magazine)。
Golden Dome構想は、トランプ大統領が2025年5月20日にホワイトハウスで発表した本土ミサイル防衛イニシアチブで、弾道ミサイル、極超音速兵器、巡航ミサイルなど多様な脅威から米本土を守る多層シールドを目指すものです。当局の見積もりは1,850億ドル規模、米議会予算局(CBO)試算では8,310億ドル、米企業研究所(AEI)試算では3兆6,000億ドルと、見立てに大きな幅があります。
技術的な核心は「ブースト段階迎撃」にあります。敵ミサイルが発射直後でまだ加速中、デコイ(おとり)を切り離す前に撃ち落とす——という発想です。ICBMが大気圏外で複数の弾頭やデコイに分離してしまうと、地上配備のGMD(Ground-Based Midcourse Defense)でも見分けが極めて困難になります。だからこそ「より早く、より上空で叩く」発想が浮上してきたわけです。
この構想自体は新しくありません。1983年のレーガン政権が打ち出した戦略防衛構想(SDI、通称「スターウォーズ計画」)の現代版と言えます。当時は技術的に頓挫しましたが、今回は事情が異なります。再使用ロケットによる打ち上げコストの劇的低下、衛星の小型化・量産化、そしてAIによる目標識別技術の進化が、構想を「机上の理論」から「実装可能な工学課題」へと押し上げました。
ロッキード・マーティンが既存資産としてTHAAD、PAC-3、Next Generation Interceptor、極超音速打撃システム、ミサイル警戒・追跡システムを挙げているのは、SBIを「ゼロから作る兵器」ではなく「既存の防衛アーキテクチャの宇宙レイヤーへの拡張」として描く戦略的メッセージでもあります。同社の2028年統合デモ目標は、空軍誌などの報道とも整合しています。
一方、リスクと論点も明確です。ゴールデン・ドーム責任者のマイケル・ゲトレイン宇宙軍大将自身が、SBIについて「コスト面で実現可能でなければ量産には進まない」と公に発言しており、技術的実現性と財政的持続可能性は依然として未解決の論点です。
戦略論的にはもう一段深い問題が横たわります。低軌道に配備された衛星群は、防御用の迎撃機を載せているのか、攻撃用の極超音速兵器を載せているのか、外部から区別がつきません。これは「軌道上の曖昧性」と呼ばれ、相手国に「先制で叩くべきか」という疑心を生みやすく、抑止の安定性をかえって損なう可能性が指摘されています。RANDやカーネギー国際平和財団の戦略家からも、この種の懸念が表明されています。
日本の読者にとっての意義も見逃せません。日本はSM-3 Block IIA共同開発を通じて米ミサイル防衛網に深く組み込まれており、北朝鮮や中国の極超音速兵器開発に対しPAC-3やイージスシステムで備えています。SBIが実用化されれば、日本領空や同盟国インフラに到達する前のブースト段階で脅威を排除できる可能性があり、これは日米同盟の防衛アーキテクチャに新たな次元を加える話です。
長期的な視点では、宇宙が「通信・観測の場」から「能動的な防衛・攻撃のレイヤー」へと変質する転換点を、私たちは目撃しつつあります。2028年のデモがどう着地するかは、単なる一企業の契約成否を超え、21世紀のセキュリティ・アーキテクチャの輪郭を決める試金石になるはずです。
【用語解説】
Space-Based Interceptor(SBI/宇宙配備型迎撃機)
低軌道(LEO)の衛星コンステレーションに搭載される迎撃機で、敵ミサイルをブースト段階・ミッドコース段階・グライド段階で破壊することを目的とする。地上発射型と異なり、地球規模で常時上空をカバーできる点が特徴である。
ブースト段階迎撃(Boost-Phase Intercept)
敵ミサイルが発射直後でまだ加速中、デコイ(おとり)や複数弾頭を分離する前に迎撃する手法を指す。標的の見分けが容易で熱源も明瞭だが、対応時間がわずか数分しかなく、技術的ハードルが極めて高いとされる。
Golden Dome(ゴールデン・ドーム)
米トランプ政権が2025年1月の大統領令で立ち上げた本土ミサイル防衛構想である。弾道、極超音速、巡航ミサイルなど多様な脅威から米本土を多層的に守る統合シールドを目指すもので、SBIはその宇宙レイヤーを担う。
THAAD(Terminal High Altitude Area Defense)
高高度終末段階で弾道ミサイルを迎撃する地上配備型システム。ロッキード・マーティンが開発を主導し、米軍やUAE、サウジアラビアで運用実績がある。
PAC-3(Patriot Advanced Capability-3)
ペトリオット・ミサイルシステムの最新型で、短・中距離弾道ミサイルや航空脅威に対応する。日本も自衛隊で運用しており、日本国内でのライセンス生産も行われている。
Next Generation Interceptor(NGI/次世代迎撃機)
米本土防衛の中核を担う地上配備型ミッドコース防衛(GMD)の後継として開発が進められている迎撃機である。ロッキード・マーティンが開発を担当している。
Other Transaction Authority(OTA/その他取引権限)
従来の連邦調達規則(FAR)の制約を受けない柔軟な契約形態である。プロトタイプ開発の迅速化を目的とし、新興企業を含む多様なベンダー参入を促す目的で活用される。
proliferated Low Earth Orbit(pLEO/拡散型低軌道)
多数の小型衛星を低軌道に分散配置するアーキテクチャを指す。SpaceXのStarlinkがその代表例で、冗長性と耐攻撃性の確保に有利とされる。
Strategic Defense Initiative(SDI/戦略防衛構想)
1983年にレーガン米大統領が提唱したミサイル防衛構想で、通称「スターウォーズ計画」と呼ばれた。技術的・財政的制約から本格配備には至らなかったが、Golden Domeの思想的源流とされる。
Ground-Based Midcourse Defense(GMD/地上配備型ミッドコース防衛)
弾道ミサイルが大気圏外を飛行するミッドコース段階で迎撃する米本土防衛システムである。米国アラスカ州とカリフォルニア州に計44基の迎撃機が配備されている。
SM-3 Block IIA
日米共同開発による艦載型弾道ミサイル迎撃機で、イージス艦に搭載される。日本のミサイル防衛体制の中核装備の一つである。
【参考リンク】
ロッキード・マーティン(Lockheed Martin 公式サイト)(外部)
米国を代表するグローバル防衛・航空宇宙企業の公式サイト。航空、宇宙、ミサイル防衛、極超音速など全領域の事業情報を提供する。
ロッキード・マーティン|Golden Dome Missile Defense(外部)
Golden Dome構想に対する同社のソリューションを紹介する特設ページ。多層防衛アーキテクチャへの取り組みが整理されている。
ロッキード・マーティン|THAAD(外部)
高高度終末段階迎撃システムTHAADの公式製品ページ。仕様や配備実績、技術的特徴が掲載されている。
ロッキード・マーティン|PAC-3(外部)
ペトリオット・ミサイルシステム最新型PAC-3の公式製品ページ。仕様や運用実績が紹介されている。
ロッキード・マーティン|Next Generation Interceptor(外部)
GMDの後継として開発中の次世代迎撃機の公式製品ページ。開発状況や設計思想が確認できる。
ロッキード・マーティン|Hypersonic Strike Systems(外部)
極超音速打撃・防衛技術の取り組みを紹介する公式ページ。研究開発の方向性が示されている。
U.S. Space Force(米宇宙軍 公式サイト)(外部)
2019年創設の米軍最新軍種である宇宙軍の公式サイト。組織、ミッション、最新ニュースを発信している。
Space Systems Command(SSC)(外部)
米宇宙軍の調達・開発を担うフィールドコマンドの公式サイト。SBIプログラムの所管組織である。
Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)(外部)
SBI契約12社のうちの一社。航空宇宙・防衛分野の大手であり、宇宙系・ミサイル防衛で実績を持つ。
RTX(旧Raytheon Technologies)(外部)
RaytheonブランドでSBI契約に参加している防衛・航空宇宙複合企業の公式サイト。
SpaceX(外部)
イーロン・マスク氏率いる宇宙輸送企業の公式サイト。Starlink・Starshield等の衛星コンステレーション技術を保有している。
Anduril Industries(外部)
AI駆動の自律防衛システムを開発する米国の新興防衛テクノロジー企業の公式サイト。
True Anomaly(外部)
宇宙安全保障領域で活動する米スタートアップの公式サイト。SBI契約12社の一社である。
【参考記事】
Space Force names 12 companies to develop Golden Dome’s space-based interceptors(外部)
米宇宙軍が12社へ最大32億ドル規模のOTA契約を発出。2028年初期能力、FY27予算175億ドルなど主要数値を伝える速報。
Space Force tasks a dozen companies for Golden Dome space-based interceptors(外部)
20件契約・12社・最大32億ドルを報じる詳報。pLEOコンステレーションがブースト・ミッドコース・グライド段階で迎撃する設計を解説する。
USSF Reveals $3.2B for Golden Dome Space-Based Interceptors(外部)
SBI参加12社の具体名と2028年デモ目標、コスト懸念、ゲトレイン大将の発言を総合的に伝える分析記事。
Golden Dome czar signals space-based interceptors not guaranteed(外部)
ゲトレイン大将がコスト次第で量産しない方針を証言。FY27国防予算1.5兆ドル等、財政論点を整理する。
Golden Dome Is ‘No Longer Theoretical,’ Top General Says(外部)
FY27に170億ドル配分、総額1,850億ドル、独立試算3兆6,000億ドルと幅広い見積もりを示す記事。
Space Systems Command Awards 20 Contracts Worth Up to $3.2 Billion(外部)
Golden Dome全体の4層シールド構想や、SBI衛星が赤外線・光学センサーで極超音速弾頭を追跡する技術詳細を解説する。
【関連記事】
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【編集部後記】
宇宙空間に迎撃機を配備するという発想は、SF映画のワンシーンのように聞こえるかもしれません。けれども再使用ロケットの普及や衛星の小型化によって、かつて夢物語だった構想が、いま工学の俎上に載っています。
みなさんは、宇宙が「観測と通信の場」から「能動的な防衛のレイヤー」へと姿を変えていく流れを、どう受け止めますか。技術の進歩は私たちの安全を高める一方で、新たな戦略的緊張も生み出します。
未来を「知る・触る・関わる」第一歩として、Golden Dome構想の行方を一緒に追いかけていただけたら嬉しいです。気になる論点があれば、ぜひ教えてください。











