ブルーオリジン社は2025年2月5日16:00(UTC)、テキサス州バンホーン近郊のローンチサイト・ワンから、ニューシェパード(New Shepard)ロケットの29回目となる打ち上げを実施した。
飛行高度は海抜105kmに達し、カプセルを毎分11回転で回転させることで、約2分間にわたり月面重力(地球の1/6の重力)環境の生成に成功した。
搭載物はNASA、民間企業、研究機関からの計30件の実験装置で、29件をカプセル内に、1件をブースターに搭載した。着陸時には3基のパラシュートのうち1基が正常に展開しなかったものの、着陸には影響がなかった。
from:Blue Origin spins up lunar gravity for New Shepard flight
【編集部解説】
月面重力シミュレーションの意義と展望
これまでの月面重力シミュレーションは、航空機による放物線飛行で数秒間、または遠心分離機で短時間しか実現できませんでしたが、今回のニューシェパードによる実験では約2分間という長時間の月面重力環境を作り出すことに成功しました。
この技術革新により、月面での活動に必要な機器やシステムのテストが、より現実に近い環境で実施できるようになります。特に注目すべきは、NASAのアルテミス計画で使用される機器の事前検証が可能になった点です。
実験の具体的な内容として、月の表面での資源利用、月面の粉塵対策、居住システム、センサー技術、小型宇宙機、着陸技術など、6つの重要な技術分野のテストが行われました[7]。これらは今後の月面基地建設や長期滞在に不可欠な要素となります。
特筆すべきは、この実験手法のコスト効率の高さです。実際の月面でのテストと比較すると、はるかに低コストで繰り返しテストが可能となります。これにより、宇宙開発のスピードが大幅に加速することが期待されます。
さらに、この技術は月だけでなく、火星など他の天体の重力環境もシミュレート可能とされています。これは将来の惑星探査ミッションの準備においても重要な役割を果たすでしょう。
一方で、パラシュートの一部が正常に展開しなかったという技術的課題も明らかになりました。今後の改良が期待される点です。
今後の展望
この技術は、NASAのアルテミス計画における月面活動の準備を加速させるだけでなく、民間企業の月面ビジネスの発展にも大きく貢献する可能性があります。特に、月の資源利用や居住施設の建設に関する技術開発が促進されることで、月面での経済活動の実現が近づくと考えられます。
また、この実験で得られたデータは、将来の火星探査にも活用できます。重力環境の違いに対応した技術開発は、人類の宇宙進出において重要な基盤となるでしょう。