Last Updated on 2025-02-12 10:37 by admin
ヘルムホルツ・ドレスデン・ロッセンドルフ研究センター(HZDR)、ドレスデン工科大学(TUD)、オーストラリア国立大学(ANU)の共同研究チームは、太平洋の海底から採取したサンプルから、ベリリウム10(¹⁰Be)の異常な蓄積を発見した。
主な発見内容
- 発見場所:太平洋の中央部および北部海域の海底
- 発見時期:2025年2月
- 異常の年代:約1000万年前(後期中新世)
- 異常の程度:予想される濃度の約2倍
- 研究責任者:ドミニク・コル博士(HZDR、ANU)
この発見は以下の2つの仮説で説明が試みられている
- 海洋循環の変化説
- 1000-1200万年前の南極付近での海流パターンの劇的な変化
- 宇宙物理学的現象説
- 近傍での超新星爆発の影響
- 地球の太陽圏(太陽風による保護シールド)の一時的な消失
研究チームは、この異常が地球規模の年代指標として機能する可能性があるとして、さらなる調査を進めている。研究結果は科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。
【編集部解説】
地球史の新たな時間指標となる可能性のある深海の謎
太平洋の海底で発見された異常なベリリウム10の蓄積について、より詳しく解説させていただきます。
この発見の重要性は、地球の歴史を正確に年代測定する新しい手法を提供する可能性にあります。これまで100万年以上前の地質年代を正確に特定することは非常に困難でしたが、この異常値が世界的な時間指標として確立されれば、地球全体の地質記録を同期させることが可能になります。
ベリリウム10は、宇宙線が地球の大気中の原子と衝突することで生成される放射性同位体です。半減期が約140万年と長いため、最大1000万年前までの出来事を追跡することができます。通常の堆積物中の濃度と比べて約2倍という異常な蓄積は、地球の歴史における重大なイベントを示唆しています。
研究チームが提案している2つの仮説について詳しく見ていきましょう。
1つ目は、約1000万年前の南極付近での海流パターンの劇的な変化です。この時期、地球の気候システムに大きな変動があったことが知られており、海洋循環の変化がベリリウム10の分布に影響を与えた可能性があります。
2つ目は、近傍での超新星爆発や太陽圏の一時的な弱体化といった宇宙物理学的な現象です。これは地球環境に大きな影響を与えただけでなく、宇宙線の強度を一時的に増加させた可能性があります。
この発見が持つ技術的な意義として、地質年代測定の精度向上が挙げられます。従来の放射性炭素年代測定法では5万年程度までしか測定できませんでしたが、この新しい指標により、より古い時代の地質イベントを正確に年代決定できる可能性が開かれました。
今後の研究では、世界中の海底堆積物でこの異常が確認できるかどうかが重要なポイントとなります。もし全球的な現象として確認されれば、地球史における重要な指標として確立される可能性が高まります。
この研究は、地球の過去を理解するだけでなく、将来起こりうる環境変動や宇宙からの影響を予測する上でも重要な示唆を与えてくれるかもしれません。私たちの住む地球の歴史をより正確に理解することは、未来への備えにもつながるのです。