コーネル大学の研究チームは、貧困層の特定と支援をより効果的に行うための新しいマッピング手法「構造的貧困マッピング」を開発した。この研究成果は2025年2月7日に米国科学アカデミー紀要に掲載された。
【研究の詳細】
主要研究社
- エリザベス・テナント(主著者)
- クリストファー・バレット教授(上級著者)
- Yating Ru、Peizan Sheng、David Matteson(共著者)
研究手法
- 期間:2008年から2020年
- データ:13件の包括的な家計調査
- 対象国:エチオピア、マラウイ、タンザニア、ウガンダ
- 分析要素:建物規模、土地利用状況、家畜、車両、通信インフラ
研究成果
- 4カ国統合モデル:予測精度72〜78%
- 近隣国データモデル:予測精度40〜54%
- 世界銀行基準(1日2.15ドル未満)の極度貧困層を高精度で特定
【編集部解説】
この研究は、データサイエンスと社会課題解決の融合という点で画期的な成果といえます。
従来の貧困調査は、現地調査員による訪問と聞き取りが主体で、多大な時間とコストを要していました。新手法は、衛星データとAIを組み合わせることで、より迅速かつ効率的な貧困層の特定を実現しています。
特筆すべきは、このモデルが実用レベルの精度を達成した点です。78%という予測精度は、政策立案や支援活動に実践的に活用できる水準です。
技術の革新性
- リアルタイムに近い状況把握が可能
- 従来調査が困難だった地域でも実施可能
- 継続的なモニタリングが低コストで実現
一方で、近隣国データのみを使用した場合の精度低下(40〜54%)は、この技術の現時点での限界も示しています。各地域特有の社会経済的特性を考慮する必要性が明確になりました。
【用語解説】
構造的貧困マッピング
衛星データとAIを組み合わせた新しい貧困測定手法。従来の現地調査に比べ、広域かつ継続的な観測が可能。
極度の貧困
1日2.15ドル(約320円)未満での生活。日本の最低賃金(時給1,000円以上)と比較すると、20分程度の労働対価にも満たない金額。