ニュージーランドの研究機関が開発する革新的な宇宙推進システム、2025年6月にISSでの実証実験へ
【主要事実】
- 開発機関:Paihau-Robinson Research Institute(ビクトリア大学ウェリントン)
- 技術名:AF-MPD(Applied-Field Magnetoplasmadynamic)スラスター
- 実証実験名:Hēki(マオリ語で「卵」の意)
- 地上実験プロジェクト名:Kōkako
【技術詳細】
- 高温超電導体(HTS)磁石を使用
- 動作温度:-198.15℃(75ケルビン)
- 生成磁場:最大0.5テスラ(MRI装置と同程度)
- 電力消費:従来比99%削減
- 磁場強度:従来比3倍
【実証実験スケジュール】
- 2025年6月:国際宇宙ステーション(ISS)での実験開始
- 設置場所:NanoRacks External Platform
- 実験期間:数ヶ月間
- 特徴:実験後、機器を地球に持ち帰って分析予定
【開発チーム】
- プロジェクトマネージャー:Dr. Avinash Rao
- 研究所所長:Professor Nick Long
- 協力機関:
- NASA
- Voyager Space Exploration Systems(旧Nanoracks)
- チェコ工科大学プラハ校
- オーストラリアのScitek社
【実験設備】
- 真空チャンバーサイズ:長さ3m、直径1m
- 真空度:10⁻⁷から10⁻⁸ mbar
- アルゴンガス流量:100立方センチメートル/標準状態
- ポンプ能力:50,000リットル/秒
【編集部解説】
宇宙開発の新たなブレイクスルーとなる可能性を秘めた技術が、いよいよ実証段階に入ります。ニュージーランドのPaihau-Robinson Research Instituteが開発を進めてきた高温超電導磁石を用いた電気推進システムは、これまでの宇宙推進技術の常識を覆す可能性を秘めています。
従来の電気推進システムでは、銅製の電磁石を使用していましたが、これには大きな電力が必要でした。新システムでは高温超電導体(HTS)を採用することで、消費電力を99%も削減することに成功しています。これは宇宙空間での電力供給に大きな制約がある中で、画期的な進歩といえます。
特筆すべきは、この技術が単なる実験室レベルの成果ではなく、実用化に向けた具体的なステップを踏んでいることです。2025年6月には国際宇宙ステーション(ISS)での実証実験が予定されており、宇宙環境での実用性が確認されることになります。
技術的な特徴として、-198.15℃という比較的「高温」で動作する点が挙げられます。これは従来の超電導体が必要とした絶対零度近くの温度と比べると、運用がはるかに現実的です。
さらに興味深いのは、この技術が単なる推進システムの改良にとどまらない可能性を持っていることです。強力な磁場は宇宙放射線からの防護にも応用できる可能性があり、将来の有人深宇宙探査にも重要な意味を持つかもしれません。
一方で、課題もあります。極低温を維持するためのクーリングシステムの信頼性や、強力な磁場が周囲の機器に与える影響などについて、さらなる検証が必要です。
長期的な展望として、この技術は月や火星、小惑星帯への航行を可能にする可能性を秘めています。より効率的な宇宙輸送システムは、宇宙資源開発や宇宙観光といった新しい産業の発展にも貢献するでしょう。
私たち編集部は、この技術開発の進展を今後も注視していきます。特に2025年6月に予定されているISS実証実験は、宇宙開発の新時代の幕開けとなる可能性を秘めた重要なマイルストーンとなるでしょう。