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「太陽を暗くせよ」—イギリス政府が気候変動対策として95億円投じる太陽光反射実験を承認へ

「太陽を暗くせよ」—イギリス政府が気候変動対策として95億円投じる太陽光反射実験を承認へ - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-24 18:49 by admin

イギリス政府は気候変動対策として太陽光を弱める実験に5,000万ポンド(約95億円)の資金提供を行う計画を発表しました。先進研究発明機関(Aria)が主導するこのプロジェクトでは、成層圏エアロゾル注入(SAI)と海洋雲増白(MCB)という2つの主要な太陽光反射法(SRM)の小規模で厳格に管理された野外実験が行われる予定です。

SAIは小さな反射粒子を成層圏に放出して太陽光を宇宙に反射させる方法で、MCBは海洋上の雲に海塩粒子を噴霧して反射率を高め、地球に到達する太陽光の量を減らす方法です。エクセター大学のジム・ヘイウッド教授によれば、船舶の排出物や火山噴火による自然現象が既にこれらの方法の潜在的な成功を示唆しています。

このジオエンジニアリング(地球工学)の取り組みは議論を呼んでおり、批評家たちは予期せぬ環境への副作用や、炭素排出削減という本来の課題から注意をそらす可能性を懸念しています。一方で、多くの科学者は二酸化炭素レベルの減少速度が不十分であるため、排出削減を補完する大胆な措置が必要だと主張しています。

また、自然環境研究会議(NERC)も別途1,000万ポンド(約19億円)を投じて、コンピューターモデリングによる太陽光反射技術の影響評価研究を行っています。イギリス政府は、この研究プログラムが太陽光反射技術の実用化を直接目指すものではなく、あくまでその影響を理解するための科学的知見を得ることが目的だと強調しています。

from:Radical New Plan to Dim the Sun to Stop Global Warming—And It’s About to Begin!

【編集部解説】

太陽光を弱めて地球温暖化に対抗するという、一見SFのような発想が現実のものとなりつつあります。イギリス政府による今回の取り組みは、気候変動対策の新たなフロンティアを開拓する重要な一歩と言えるでしょう。

複数の信頼できる情報源によると、イギリス政府は先進研究発明機関(Aria)を通じて、太陽光反射法(SRM)の野外実験に5,000万ポンド(約95億円)の資金提供を行うことを決定しました。さらに自然環境研究会議(NERC)も1,000万ポンド(約19億円)を投じて、コンピューターモデリングによる影響評価研究を行います。これにより、イギリスは地球工学(ジオエンジニアリング)研究における世界最大の資金提供国の一つとなります。

注目すべきは、この実験が単なる理論研究ではなく、実際に小規模な野外実験を含む点です。Ariaのプログラムディレクターであるマーク・サイムズ教授は「この議論で欠けていた要素の一つは、実世界からの物理的データ」だと指摘しています。コンピューターモデルだけでは限界があり、実際のデータが必要だという認識が、この決断の背景にあるようです。

実験で検討されている主な技術は、成層圏エアロゾル注入(SAI)と海洋雲増白(MCB)の2つです。SAIは火山噴火が自然に引き起こす冷却効果を人工的に再現するもので、反射性の高い微粒子を成層圏に散布して太陽光を反射させます。MCBは海水から微細な塩の粒子を海上の雲に噴霧し、雲の反射率を高めることで地球に到達する太陽光の量を減らす方法です。

重要なのは、これらの実験が「小規模で厳格に評価された」ものになるという点です。イギリス政府は、この研究プログラムが太陽光反射技術の実用化を直接目指すものではなく、あくまでその影響を理解するための科学的知見を得ることが目的だと強調しています。

興味深いのは、これらの技術が実は自然界ですでに観察されている現象に基づいている点です。エクセター大学のジム・ヘイウッド教授によると、船舶の排出物が海上の雲に明るい線を作り出したり、2014年のアイスランドの火山噴火が雲を明るくして冷却効果をもたらしたりした例があります。今回の実験は、そうした自然現象を意図的かつ制御可能な形で再現できるかを検証するものと言えるでしょう。

一方で、この取り組みには賛否両論があることも事実です。批評家たちは、地球規模の気候を人為的に操作することの危険性を指摘しています。予期せぬ環境への副作用のリスクや、本来取り組むべき炭素排出削減の努力が疎かになる「モラルハザード」の問題は無視できません。

ガーディアン紙に寄稿したレイモンド・ピエールハンバート氏とマイケル・マン氏は、太陽光反射技術を「癌に対してアスピリンを使うようなもの」と批判し、根本的な問題解決にはならないと主張しています。彼らは、化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出が気候を破壊している中で、別の形で気候システムを「破壊」することで問題を解決しようとする発想に警鐘を鳴らしています。

しかし、多くの科学者は、二酸化炭素レベルが破滅的な温暖化を防ぐのに十分な速さで減少していないという現実を前に、排出削減の取り組みを補完するための大胆な措置が必要だと考えています。2024年が産業革命前と比べて1.5℃高い気温を記録した最初の年となったことも、こうした緊急対策の検討を後押ししているようです。

技術的な側面だけでなく、誰がどのような基準で気候操作を決定するのかという地政学的・倫理的な課題も存在します。国際的な規制枠組みがない中での実験は、将来的に国家間の緊張を高める可能性もあります。

テクノロジーの進化は常に新たな可能性と責任をもたらします。太陽光を弱めるという挑戦的な取り組みが、気候危機を乗り越えるための賢明な選択となるか、それとも新たな問題を生み出すことになるのか。私たちは技術の可能性と限界を冷静に見極めながら、この壮大な実験の行方を注視する必要があるでしょう。

【用語解説】

太陽光反射法(SRM: Sunlight Reflection Methods)
太陽放射管理とも呼ばれ、地球に届く太陽エネルギーの量を減らすことで温暖化を抑制しようとする手法です。温室効果ガスを直接減らすのではなく、地球に届く太陽光の量自体を調整する点が特徴です。

成層圏エアロゾル注入(SAI: Stratospheric Aerosol Injection)
火山噴火が自然に引き起こす冷却効果を人工的に再現する方法です。反射性の高い硫酸塩エアロゾルなどの微粒子を地上約20kmの成層圏に散布し、太陽光を反射させます。1991年のピナツボ火山噴火後、地球の平均気温が約0.5℃下がった現象がモデルとなっています。

海洋雲増白(MCB: Marine Cloud Brightening)
海水から微細な塩の粒子を海上の低層雲に噴霧し、雲の反射率(アルベド)を高める方法です。船舶の航跡に沿って形成される「船舶航跡雲」と呼ばれる明るい雲の帯が、この技術のヒントとなっています。

先進研究発明機関(Aria: Advanced Research and Invention Agency)
2023年1月に発足したイギリス政府の研究助成機関です。アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)を参考に設立され、高いリスクを伴うが大きな成果が期待される野心的な研究プロジェクトに資金を提供することを目的としています。当初予算は4年間で8億ポンド(約880億円)です。

自然環境研究会議(NERC: Natural Environment Research Council)
イギリスの環境科学研究を支援する主要な公的資金提供機関です。気候変動、大気科学、海洋学、地球科学などの分野における研究プロジェクトに資金を提供しています。

ジオエンジニアリング(地球工学)
環境を意図的かつ大規模に操作することを目的とした技術の総称です。太陽光反射法(SRM)とCO2除去(CDR)が主な手法です。気候変動対策の「最後の手段」として議論されていますが、地球規模での環境影響をもたらすため、社会的・倫理的な観点からの慎重な検討が必要とされています。

【参考リンク】

先進研究発明機関(Aria)(外部)
イギリス政府が設立した研究助成機関。高リスク・高リターンの革新的研究プロジェクトに資金提供を行っている。

自然環境研究会議(NERC)(外部)
イギリスの環境科学研究を支援する公的機関。気候変動研究を含む多様なプロジェクトに資金提供している。

グリーンピース・ジャパン「ジオエンジニアリング」解説ページ(外部)
ジオエンジニアリングの概要とリスクについて解説している環境NGOの情報ページ。

EICネット「ジオ・エンジニアリング」環境用語集(外部)
ジオエンジニアリングの基本概念と背景、課題について解説している環境情報サイト。

【参考動画】

【編集部後記】

太陽光を弱めるという壮大な実験、皆さんはどう感じられましたか?気候変動対策として「地球の温度調節装置」を人間が操作する時代が、いよいよ現実味を帯びてきました。この技術が実用化されれば、私たちの生活や地球環境はどう変わるでしょうか?また、自然の摂理に人間が介入することの是非について、ご意見をぜひSNSでお聞かせください。テクノロジーと環境の未来について、一緒に考えていきましょう。

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TaTsu
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