innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

フェリハイドライトが明かす火星の赤い謎 — 湿潤な過去を示す新発見

フェリハイドライトが明かす火星の赤い謎 — 湿潤な過去を示す新発見 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-20 22:01 by admin

2025年2月25日、ブラウン大学とベルン大学の研究チームが、火星の赤い色の原因が従来考えられていたヘマタイト(赤鉄鉱)ではなく、水分を多く含む「フェリハイドライト」という鉱物であることを突き止めた研究結果を科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表した。

研究チームは、欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機マーズ・エクスプレスやトレース・ガス・オービター、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星偵察オービターからの軌道データと、キュリオシティ、パスファインダー、オポチュニティなどの探査車から収集したデータを分析した。さらに地球上で火星の塵を模倣したサンプルを作成し、様々な条件下で酸化鉄を生成する比較実験を実施した。

その結果、火星の赤い色の主な原因は水分を多く含むフェリハイドライトであることが示唆された。フェリハイドライトは冷たい水が存在する環境で形成されやすい特性を持ち、火星の特性と一致することが確認された。研究によれば、火星の砂塵には約20〜33重量%のフェリハイドライトが含まれている可能性がある。

研究論文の筆頭著者であるブラウン大学のアドマス・バランティナス博士は「フェリハイドライトは水がまだ火星表面に存在していた時期にのみ形成されたと考えられる。これは火星が以前考えられていたよりも早い時期に酸化したことを示している点で重要だ」と説明している。

この発見は、火星の表層が何十億年も前から乾燥していたというこれまでの仮定を覆すものであり、かつての火星が湿潤で生命が存在する可能性があった水の惑星だったことを示唆している。

References:
文献リンクWe Finally Know Why Mars is Red — Scientists Have Just Uncovered A Game-changing Discovery

【編集部解説】

長年の謎だった火星の赤い色の原因が、水を含んだ鉱物「フェリハイドライト」である可能性が示されました。この発見は、火星の過去の環境や生命の存在可能性を考察する上で、非常に重要な転換点となる可能性があります。これまで科学者たちは、火星の赤色の主原因はヘマタイト(赤鉄鉱)であると考えてきましたが、今回の研究によって、その定説が覆されるかもしれません。

フェリハイドライトは、冷たい水が存在する環境下でのみ生成される水和鉱物です。この発見は、火星がかつて考えられていたよりも寒冷で湿潤な環境であった可能性を示唆しており、過去の火星の環境に関する理解を大きく変えるかもしれません。

研究チームは非常に緻密な方法で検証を行っています。彼らはベルン大学の氷実験室の特殊な反射率測定機能を活用し、火星の砂塵と様々な鉱物組成のスペクトル特性を比較しました。その結果、フェリハイドライト、玄武岩、硫酸塩の混合物が火星で見られる赤い色を最もよく説明することを発見しました。

この研究の重要性は単に火星の色の謎を解明しただけではありません。フェリハイドライトの存在は、火星の表面が何十億年も前から乾燥していたという従来の仮説に疑問を投げかけています。研究によれば、火星の表面の酸化は乾燥した環境ではなく、冷たく湿った環境で起こったことが示唆されています。

さらに興味深いのは、この研究がベルン大学が開発したカラー・ステレオ・サーフェス・イメージング・システム(CaSSIS)によって初期の発見がなされた点です。ニコラス・トーマス教授によれば、「CaSSISは2018年4月から火星を観測しており、火星表面の高解像度カラー画像を提供しています。CaSSIS画像が繰り返し研究に使用されるという事実は、ベルンのカメラシステムの印象的な科学的能力を物語っています」と述べています。

また、フェリハイドライトの研究は火星の生命探査にも新たな視点をもたらします。生命の存在に必要な液体の水が火星表面に長期間存在していた可能性が高まったことで、火星における生命の可能性についての議論も活発になるでしょう。

火星の砂塵に含まれるフェリハイドライトの量も注目に値します。研究によれば、火星の砂塵には約20〜33重量%のフェリハイドライトが含まれている可能性があります。これはMSL(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)によって測定された非晶質成分の鉄含有量とも一致しており、研究の信頼性を高めています。

【用語解説】

フェリハイドライト :
水を含む酸化鉄鉱物(水酸化鉄)で、化学式はFe₅O₈H・nH₂O。結晶性が低く、冷たい水環境で形成される。地球では湖底の堆積物や温泉地帯などで見られる。

ヘマタイト(赤鉄鉱):
これまで火星の赤色の主原因と考えられていた酸化鉄鉱物。化学式はFe₂O₃。乾燥した環境で形成される。日本では「ベンガラ」という顔料の原料としても知られている。

マーズ・エクスプレス :
欧州宇宙機関(ESA)が2003年に打ち上げた火星探査機。火星の鉱物マッピングなどを行っている。

トレース・ガス・オービター :
ESAが2016年に打ち上げた火星周回衛星。火星大気中の微量ガスを調査している。

CaSSIS(カラー・ステレオ・サーフェス・イメージング・システム):
ベルン大学が開発した高解像度カメラシステム。トレース・ガス・オービターに搭載されている。

キュリオシティ探査車 :
NASAが2011年に打ち上げ、2012年に火星に着陸した探査車。現在も活動中である。

パスファインダー探査車 :
NASAが1996年に打ち上げ、1997年に火星に着陸した探査車。

オポチュニティ探査車 :
NASAが2003年に打ち上げ、2004年に火星に着陸した探査車。2018年に活動を終了した。

【参考リンク】

ブラウン大学 地球環境惑星科学部(外部)
今回の研究を主導したアドマス・バランティナス博士が所属する研究機関。

ベルン大学 宇宙研究惑星科学部(外部)
研究に参加したニコラス・トーマス教授とアントワーヌ・ポメロール博士が所属する研究機関。

ESA マーズ・エクスプレス(外部)
欧州宇宙機関による火星探査機マーズ・エクスプレスの公式サイト。

【参考動画】

【編集部後記】

皆さん、火星の赤い色の謎が解明されたことで、私たちの太陽系に対する理解はまた一歩前進しました。この発見を聞いて、あなたは火星についてどんな疑問を持ちましたか?もし火星に水が長く存在していたとしたら、生命の痕跡も見つかる可能性があるのではないでしょうか?科学者たちは今、フェリハイドライトが最も多く集まっている場所を特定し、将来のサンプルリターンミッションの着陸地点候補にしようとしています。火星の赤い砂塵の中に、私たちはどんな過去の秘密を見つけることができるでしょうか?

【関連記事】

スペーステクノロジーニュースをinovatopiaでもっと読む

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com
ホーム » スペーステクノロジー » スペーステクノロジーニュース » フェリハイドライトが明かす火星の赤い謎 — 湿潤な過去を示す新発見