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パルサー・フュージョン「サンバード」核融合ロケット、火星到達を4ヶ月に短縮へ|2027年軌道実証予定

パルサー・フュージョン「サンバード」核融合ロケット、火星到達を4ヶ月に短縮へ|2027年軌道実証予定 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-27 09:02 by admin

英国の航空宇宙企業パルサー・フュージョン(Pulsar Fusion Ltd、2011年設立、本社ミルトンキーンズ)が2025年3月6日、10年間の秘密開発を経て核融合推進システム「サンバード」を発表し、3月11日にロンドンExCeL centerで初公開した。

同システムはデュアル・ダイレクト・フュージョン・ドライブ(DDFD)技術を採用し、重水素とヘリウム3を燃料とする無中性子核融合反応により高速プラズマを生成する。従来の化学推進では火星到達に7〜9ヶ月を要するが、サンバードは4ヶ月未満での到達を可能とし、冥王星への到達時間も4年に短縮できる。

軌道上タグボート型モジュールとして設計され、最大2MWの電力供給も実現する。同社は2025年後半に静的テスト、2027年に軌道実証を予定している。

References:
文献リンクRevolutionary new rocket could reach Mars in just 4 months

【編集部解説】

パルサー・フュージョンが10年の歳月をかけて開発したサンバードは、宇宙推進技術における真のゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。2025年3月のSpace-Comm Expoでの初公開は、宇宙業界に大きな衝撃を与えました。

核融合推進の革新性

サンバードの最大の特徴は、地上の発電用核融合炉とは根本的に異なるアプローチにあります。従来の核融合炉では反応を封じ込めてエネルギーを取り出しますが、サンバードでは意図的にプラズマを外部に放出して推力を得る設計です。この「欠陥」とされていた現象を逆手に取った発想の転換は、まさに技術革新の真髄といえるでしょう。

重水素とヘリウム3による無中性子核融合反応は、従来の核推進システムと比較して放射線リスクを大幅に軽減します。比推力10,000〜15,000秒という性能は、化学推進の約450秒を圧倒的に上回る数値です。

宇宙タグボートという新概念

全長約30メートルのサンバードは、従来の大型ロケットとは異なる運用モデルを採用しています。軌道上に常駐し、必要に応じて宇宙船とドッキングして推進力を提供する「宇宙タグボート」という概念は、宇宙開発のパラダイムシフトをもたらす可能性があります。

この方式により、打ち上げ時の燃料負荷を大幅に削減でき、打ち上げコストの劇的な低減が期待されます。また、最大2MWという大容量電力供給能力により、従来は電力不足で実現困難だった大規模な科学観測機器の運用も可能になります。

実現可能性と技術的課題

英国宇宙庁(UKSA)からの資金提供を受け、2025年後半の静的テスト、2027年の軌道実証という具体的なロードマップが示されています。しかし、一般的に指摘されるようにコンパクトな装置での核融合制御には依然として大きな技術的ハードルが存在します。

地上でさえ実用的な核融合発電が実現していない現状を考えると、宇宙環境での核融合推進は極めて挑戦的なプロジェクトです。プラズマ制御技術、磁場閉じ込め、長期運用の信頼性など、解決すべき課題は少なくありません。

宇宙探査への革命的インパクト

成功すれば、宇宙探査の歴史が大きく塗り替わることになります。火星への移動時間が4ヶ月に短縮されることで、宇宙飛行士の被曝リスクや心理的負担が大幅に軽減され、有人火星探査の実現可能性が飛躍的に高まります。

さらに重要なのは、冥王星到達時間の4年への短縮です。これまで9.5年を要していた外惑星探査が現実的な期間で実施できるようになれば、太陽系全体の科学的理解が加速度的に進展するでしょう。

長期的展望とリスク

パルサー・フュージョンが描く太陽系ドッキングステーションネットワークのビジョンは、真の「宇宙交通網」の構築を意味します。これが実現すれば、2030年代の有人火星探査や木星・土星系の本格的な探査が現実味を帯びてきます。

一方で、核融合推進システムの実用化は、宇宙活動に関する国際的な規制枠組みにも大きな影響を与えるでしょう。核物質の宇宙利用に関する新たな安全基準や、軌道上での核融合反応に関するガイドラインの策定が急務となります。

サンバードプロジェクトは、人類の宇宙進出における新たな章の始まりを告げるものです。2027年の軌道実証が、この革新的技術の真価を問う重要な試金石となるでしょう。

【用語解説】

パルサー・フュージョン(Pulsar Fusion)
英国航空宇宙スタートアップ企業。本社はミルトンキーンズにあり、英国宇宙庁(UKSA)から資金提供を受けている。CEOはリチャード・ディナン氏。

デュアル・ダイレクト・フュージョン・ドライブ(DDFD)
核融合反応で生成されたプラズマを直接推進力として利用する革新的なエンジンシステム。従来の核融合炉が反応を封じ込めるのとは逆に、意図的にプラズマを外部に放出して推力を得る。

無中性子核融合
重水素とヘリウム3の組み合わせによる核融合反応で、中性子をほとんど生成しないため放射線リスクが大幅に軽減される。ヘリウム3は地球上では稀少だが、月面に豊富に存在するとされる。

比推力(Specific Impulse)
ロケットエンジンの効率指標。サンバードの10,000〜15,000秒は、化学ロケットの約450秒、イオン推進の3,000〜10,000秒を大きく上回る。

【参考リンク】

Pulsar Fusion公式サイト(外部)
同社の技術開発状況、サンバードプロジェクトの詳細情報、核融合推進システムの技術仕様を掲載

UchuBiz(宇宙ビジネス情報サイト)(外部)
日本の宇宙ビジネス専門メディアで、パルサー・フュージョンの動向を詳細に報じている

World Nuclear News(外部)
核融合技術の最新動向を報じる国際的な専門メディア、サンバードプロジェクトの技術的詳細を掲載

【参考動画】

【編集部後記】

10年の秘密開発を経て発表されたサンバードは、私たちが生きているうちに宇宙旅行の常識を根本から変える可能性を秘めています。火星への4ヶ月到達、冥王星への4年到達という数字は、もはやSFの世界ではなく現実的な目標となりつつあります。皆さんはこの技術革新により、どのような新しい宇宙ビジネスや科学発見が生まれると思いますか?また、核融合推進が実現した時代の宇宙探査をどのように想像されますか?2027年の軌道実証が人類の宇宙進出史における重要な転換点となるかもしれません。

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TaTsu
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