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XRISM衛星が観測した超大質量ブラックホール「弾丸風」の正体 – 光速の3分の1で放出される塊状構造を発見

XRISM衛星が観測した超大質量ブラックホール「弾丸風」の正体 - 光速の3分の1で放出される塊状構造を発見 - innovaTopia - (イノベトピア)

NASA、JAXA、欧州宇宙機関(ESA)が支援する研究により、超大質量ブラックホールから放出される風が従来想定されていた滑らかな流れではなく、弾丸のような塊状構造を持つことが判明した。

X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)を用いて2024年3月11日から17日にかけて地球から約20億光年離れた超大質量ブラックホールPDS 456を観測した結果、風は光速の約20~30%(秒速約6万~9万キロメートル)で移動し、5つの異なる速度成分を持つ複雑な構造を示した。
この風は年間60~300太陽質量の物質を放出し、従来観測されていた銀河規模の風の1000倍以上のエネルギーを持つ。

この発見により、ブラックホールが銀河の星形成に与える影響メカニズムの再評価が必要となり、一部の銀河で星形成が他より早期に停止する現象の説明につながる可能性がある。

From: 文献リンクThese Cosmic Monsters Shoot Projectiles At The Speed Of Light — And It’s Not Science Fiction

【編集部解説】

今回の発見は、宇宙物理学における長年の謎を解く重要な手がかりとなります。従来、超大質量ブラックホールから放出される風は連続的で滑らかな流れと考えられていましたが、実際は弾丸のような塊状構造を持つことが判明しました。

この研究の核心は、XRISM(クリズム)という日本が主導するX線観測衛星の高精度分光能力にあります。従来の観測機器では単一の幅広い吸収線としてしか見えなかった現象を、XRISMは5つの異なる速度成分に分解して観測することに成功しました。これは技術的な大躍進といえるでしょう。

特に注目すべきは、この風が持つエネルギー量です。従来観測されていた銀河規模の風の1000倍以上という数値は、ブラックホールが銀河全体に与える影響力を根本的に見直す必要があることを示しています。

この発見が持つ最も重要な意味は、銀河進化理論の修正を迫ることです。星形成の停止メカニズムについて、これまでは連続的なプロセスとして理解されていましたが、実際は断続的で不均一な影響を与えている可能性が高まりました。

技術的な観点から見ると、XRISMの成功は日本の宇宙技術力の高さを世界に示すものです。JAXAが主導し、NASAとESAが協力するこの国際プロジェクトは、次世代のX線天文学の扉を開いています。

今後の展望として、この観測技術を他の超大質量ブラックホールに適用することで、宇宙における物質循環の全体像がより明確になることが期待されます。また、銀河形成の初期段階における星形成抑制メカニズムの理解が深まれば、宇宙の構造形成史の解明にも大きく貢献するでしょう。

一方で、この発見は既存の理論モデルの大幅な修正を必要とするため、天体物理学界では今後数年間にわたって活発な議論が続くと予想されます。特に、銀河とブラックホールの共進化理論については、根本的な見直しが避けられません。

【用語解説】

超大質量ブラックホール
太陽の100万倍から100億倍の質量を持つブラックホール。銀河の中心に存在し、周囲の物質を吸い込みながら強力なエネルギーを放出する。PDS 456は太陽の約10億倍の質量を持つ。

クエーサー
ブラックホールが活発に物質を吸い込んでいる状態の銀河中心核。非常に明るく輝き、銀河全体よりも明るい場合もある。PDS 456は近傍のクエーサーとして研究対象となっている。

X線分光
X線を波長ごとに分けて分析する技術。プリズムで白色光を虹色に分けるのと同じ原理で、X線の「色」から物質の種類や温度、運動状態を調べることができる。

光速の20~30%
約秒速6万~9万キロメートル。地球を3~5秒で一周できる速度で、新幹線の約800万倍の速さに相当する。

【参考リンク】

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙開発を担う国立研究開発法人。XRISMの開発・運用を主導している。

XRISM公式サイト(外部)
XRISM衛星の詳細な技術情報やミッション概要を提供するJAXAの専用サイト。

NASA(外部)
アメリカ航空宇宙局。XRISMプロジェクトでResolve検出器の開発を担当している。

ESA(欧州宇宙機関)(外部)
欧州の宇宙開発機関。XRISMプロジェクトに参加している国際パートナー。

Nature誌(外部)
今回の研究成果が掲載された国際的な科学雑誌。論文タイトルは「Structured ionized winds shooting out from a quasar at relativistic speeds」。

【参考動画】

【編集部後記】

今回のXRISMによる発見は、私たちが宇宙をどう理解するかの根本を揺るがす内容でした。ブラックホールが「弾丸」のような風を放つという事実は、まさに宇宙の常識を覆すものです。皆さんはこの発見を受けて、他にどんな宇宙の「常識」が実は間違っているかもしれないと思われますか?また、XRISMのような日本発の宇宙技術が今後どのような新発見をもたらすか、一緒に想像してみませんか?宇宙の謎は私たちの想像をはるかに超えているようです。

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TaTsu
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