Last Updated on 2025-05-29 14:24 by admin
ドイツのゲッティンゲン大学のニルス・メスリング率いる研究チームが、地球のコアから金などの貴金属が漏出している証拠を発見したとNature誌で発表した。
研究チームはハワイのカウアイ島とキラウエア・イキ溶岩湖から採取した火山岩を分析し、ルテニウム同位体¹⁰⁰Ruの異常に高い濃度を検出した。この同位体は地球のコアに多く含まれるが、マントルには少ないため、火山岩の起源が地下2900キロメートルのコア-マントル境界にあることを示している。
地球のコアには全金の99.999パーセントが含まれていると推定されており、45億年前の惑星形成時に閉じ込められたとされていた。共著者のマティアス・ヴィルボルドによると、数百京メートルトンの超高温マントル物質がコア-マントル境界から上昇し、ハワイのような海洋島を形成している。
この発見により、地球のコアが従来考えられていたほど孤立しておらず、貴金属が表面に到達する可能性が示された。
References:
Earth’s Core Is Leaking Gold — And Scientists Just Found It in Hawai‘i
【編集部解説】
今回の発見は、地球科学の常識を根底から覆す可能性を秘めています。これまで地球のコアは完全に密閉された「金庫」のような存在と考えられてきましたが、実際には貴金属が漏出している動的なシステムだったのです。
この研究の核心は、新しい同位体分析技術の開発にあります。従来は区別が困難だったルテニウム同位体¹⁰⁰Ruを精密に検出できるようになったことで、地球深部からの「化学的指紋」を読み取ることが可能になりました。これは地球化学分野における重要な技術的ブレークスルーです。
この発見により、地球内部の物質循環に関する理解が大きく変わります。マントルプルームが単なる熱対流ではなく、コア由来の物質を運ぶ「地球深部からの宅配便」のような役割を果たしていることが明らかになったのです。
短期的には、火山活動や地震予測の精度向上に貢献する可能性があります。長期的には、惑星形成理論の見直しや、他の惑星における類似現象の理解につながるでしょう。また、この現象が地球の磁場生成メカニズムにも関連している可能性があり、地球環境の長期安定性を理解する上で重要な手がかりとなります。
一方で、この発見を過度に商業的な観点から解釈することは危険です。コアからの金の漏出は地質学的時間スケールで起こる現象であり、人間の経済活動に直接的な影響を与えるものではありません。むしろ、地球内部の動的変化を示すシグナルとして、長期的な地球環境監視の重要性を示唆しています。
【用語解説】
ルテニウム同位体¹⁰⁰Ru：
プラチナ族の希少金属ルテニウムの同位体の一つ。原子核に含まれる中性子数が異なる「兄弟」のような関係にある。地球のコアに多く存在するが、マントルには少ないため、この物質が火山岩から発見されることは極めて稀である。
マントルプルーム：
地球内部の高温岩石が煙突のように上昇する現象。「地球内部のエレベーター」と例えることができる。深さ2,900キロメートルのコア-マントル境界から地表まで、数百京トンという膨大な量の物質を運ぶ。
同位体分析技術：
原子の「指紋」を読み取る技術。従来は区別が困難だった極めて似た構造の原子を精密に識別できるようになった。これにより地球深部からの「化学的メッセージ」を解読することが可能になった。
コア-マントル境界：
地球の中心核（コア）とマントルの境目で、地表から約2,900キロメートル下に位置する。地球内部で最も極限的な環境の一つで、温度は約4,000度、圧力は地表の約140万倍に達する。
【参考リンク】
ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン（外部）
1737年創立のドイツの名門大学。数学・物理学分野で世界的な研究実績を持つ。
Nature誌（シュプリンガー・ネイチャー）（外部）
1869年創刊の世界最高峰の科学学術誌。権威ある週刊科学ジャーナル。
ハワイ火山観測所（HVO）（外部）
ハワイの4つの活火山を監視する世界的に著名な火山観測所。
【編集部後記】
地球の深部から金属が地表に届くという驚きの発見について、皆さんはどう感じられますか？この現象が地球の内部構造や火山活動の理解にどんな新たな可能性をもたらすのか、一緒に考えてみませんか？私たちinnovaTopia編集部も皆さんと共に、未来のテクノロジーと地球科学の発展を見守っていきたいと思います。
