Last Updated on 2025-05-30 07:10 by admin
2025年5月27日午後7時37分(EDT、現地時間午後6時37分)、SpaceXは米テキサス州ブラウンズビル近郊のStarbase施設から高さ403フィート(123メートル)のStarship第9回統合飛行試験(IFT-9)を実施した。この試験では初めてSuper Heavyブースター(B14-2)を再使用し、より急峻な降下角度でのテストを行った。
打ち上げ約6分後にSuper Heavyブースターが着陸燃焼時に13基中12基のエンジンしか点火せず、メキシコ湾上空で通信途絶後に爆発した。上段のStarship(S35)は軌道速度に到達したものの、ペイロードベイのハッチが完全に開かず8基のStarlinkシミュレーター衛星の放出に失敗した。その後推進剤漏れによる姿勢制御喪失で制御不能な回転状態に陥り、打ち上げから約47分後にインド洋上空で大気圏再突入時に通信が途絶え、機体が分解した。
SpaceXのElon Musk CEOは今後の打ち上げ頻度を月1回以下に加速すると発表した。
From:
The World’s Most Powerful Rocket Self-Destructs Mid-Flight
【編集部解説】
今回のStarship IFT-9は、表面的には3回連続の失敗に見えますが、実際には重要な技術的進歩を示しています。特に注目すべきは、Super Heavyブースターの初回再使用が実現したことです。これまでSpaceXは新しいブースターを毎回使用していましたが、今回は過去のIFT-7で使用されたB14を改修して再利用しました。
今回の試験では意図的に極限条件でのテストが実施されました。Super Heavyは通常よりも急峻な降下角度を試験し、着陸燃焼時には意図的に中央エンジン3基のうち1基を無効化するという挑戦的な実験を行いました。これは将来のエンジン故障時の対応能力を検証する重要なデータ収集でした。
Starship上段についても、軌道速度への到達は成功しており、熱防護タイルの剥離問題が大幅に改善されていることが確認されました。Musk氏は「上昇中の熱シールドタイルの大幅な損失がなかった」と評価しています。ペイロードベイの開放失敗は確かに課題ですが、これは機械的な問題であり、根本的な推進システムの問題ではありません。
この事案が宇宙産業に与える影響は多面的です。NASAのArtemis計画では、Starshipの変種であるHLS(Human Landing System)が月面着陸船として選定されており、2027年予定のArtemis 3ミッションまでに信頼性を確立する必要があります。連続する失敗は懸念材料ですが、SpaceXの高速反復開発アプローチにより、問題の特定と解決が加速される可能性があります。
規制面では、FAA(連邦航空局)が迅速に安全審査を完了し、飛行再開を承認したことが重要です。これは規制当局がSpaceXの「失敗から学ぶ」開発手法を理解し始めている証拠といえます。従来の航空宇宙産業では、このような連続失敗は長期間の運用停止を招きがちでしたが、SpaceXは短期間での復帰を実現しています。
技術的観点では、今回の推進剤漏れ問題は宇宙空間での長時間運用における課題を浮き彫りにしました。将来の火星往復ミッションでは軌道上での燃料補給が必要不可欠であり、この技術の確立は人類の宇宙進出における重要なマイルストーンとなります。
長期的視点では、Starshipの成功は宇宙アクセスコストの劇的な削減をもたらし、月面基地建設や火星植民地化を現実的な選択肢に変える可能性を秘めています。現在の挫折は、そうした革命的な未来への必要な学習プロセスとして位置づけられるでしょう。
【用語解説】
IFT(Integrated Flight Test):
Starshipの統合飛行試験の略称。Super HeavyブースターとStarship上段を組み合わせた完全な形での試験飛行を指す。
Super Heavy B14-2:
今回使用されたSuper Heavyブースターの機体番号。B14は過去のIFT-7で使用された機体を改修・再使用したもので、33基中29基のエンジンが飛行経験を持つ。
Ship 35(S35):
今回使用されたStarship上段の機体番号。6基のRaptorエンジンを搭載し、軌道速度到達能力を持つ。
急速予定外分解(Rapid Unscheduled Disassembly):
SpaceXが爆発や破壊的失敗を表現する際に使用する婉曲表現。RUDとも略される。
熱防護タイル:
大気圏再突入時の高温から機体を保護するセラミックタイル。Starshipの機体表面に約18,000枚装着されている。
姿勢制御システム:
宇宙空間で機体の向きを制御するシステム。推進剤漏れにより機能不全に陥ると制御不能な回転状態になる。
軌道速度:
地球周回軌道を維持するために必要な速度。約時速28,000キロメートル(秒速7.8キロメートル)。
ペイロードベイ:
衛星などの積荷を格納・放出する区画。今回はStarlinkシミュレーター8基を搭載していた。
【参考リンク】
SpaceX公式サイト – Starship(外部)
SpaceXによるStarshipの公式技術仕様と開発状況。最新の飛行試験結果と今後の計画を掲載
NASA – Artemis III(外部)
NASAのArtemis III月面着陸ミッション公式情報。StarshipのHLS役割を詳述
SpaceX公式X(旧Twitter)(外部)
SpaceXの公式アカウント。打ち上げライブ配信、技術アップデート、リアルタイム情報を提供
FAA – Commercial Space Transportation(外部)
連邦航空局の商業宇宙輸送部門。打ち上げライセンスと安全審査に関する公式情報
【参考動画】
【編集部後記】
今回のStarship失敗を見て、皆さんはどう感じられましたか?3回連続の挫折に「また失敗か」と思われるかもしれませんが、実は宇宙開発の歴史を振り返ると、こうした試行錯誤こそが革新を生み出してきました。アポロ計画でも無人試験で数々の失敗を重ねて月面着陸を実現しています。SpaceXの「失敗から学ぶ」アプローチは、従来の慎重すぎる開発手法に一石を投じているのかもしれません。皆さんは、この高速反復開発という手法についてどう思われますか?失敗を恐れずチャレンジし続ける姿勢から、私たちが学べることはあるでしょうか?
【参考記事】
CBS News – SpaceX loses contact with its Starship
CNN – SpaceX Starship test flight 9 loses control
Wikipedia – Starship flight test 9