Last Updated on 2025-05-30 07:45 by admin
中国国家航天局(CNSA)は2025年5月29日午前1時30分(北京時間)、西昌衛星発射センターから長征3B遥110ロケットで天問2号を打ち上げた。
天問2号は中国初の小惑星サンプルリターンミッションで、地球近傍小惑星469219カモオアレワ(2016 HO3)からサンプルを採取し、2027年末に地球へ帰還する予定である。
カモオアレワは直径数十メートルの地球準衛星で、月の破片である可能性が指摘されている。サンプル回収後、探査機は地球の重力を利用したスイングバイで軌道を変更し、火星と木星の間の主小惑星帯にある彗星311P/PANSTARRSへ向かう。
この彗星は直径480メートルで、複数の塵の尾を持つ活動的小惑星として知られ、2035年頃に到達予定である。天問2号には分光計、磁力計、レーダー、粒子分析器などの科学機器が搭載されている。
成功すれば中国は日本、アメリカに続く3番目の小惑星サンプルリターンを達成する国となる。
From:
China’s New Space Mission Aims to Uncover Solar System’s Deepest Secrets
【編集部解説】
天問2号が挑む最大の技術的難易度は、カモオアレワの極めて特殊な物理特性にあります。直径40-100メートルという小ささに加え、28分で1回転する高速自転が、サンプル採取を困難にしています。これまでの小惑星探査ミッション(はやぶさ2、OSIRIS-REx)と比較しても、ターゲットとしては最も小さく、最も高速回転する天体です。
この二重ミッションは、中国の宇宙開発戦略における重要な転換点を示しています。単一目標から複数目標への展開は、限られた予算とリソースで最大の科学的成果を得る効率的なアプローチといえるでしょう。
またカモオアレワが月の破片である可能性は、地球-月系の形成史に新たな知見をもたらす可能性があります。もし月起源が証明されれば、大規模衝突イベントの詳細や、地球近傍空間での物質循環メカニズムの理解が大幅に進展するでしょう。
国際競争の新局面
中国が3番目の小惑星サンプルリターン国になることで、宇宙探査における技術的優位性の競争が新たな段階に入ります。特に、アメリカと日本が先行する分野で中国が追随することは、今後の深宇宙探査における多極化を示唆しています。
長期的な影響と展望
311P/PANSTARRSの探査は、小惑星と彗星の境界領域に関する理解を深める重要な機会となります。この「活動的小惑星」の研究成果は、太陽系初期の物質分布や、地球への水の供給源に関する議論に新たな視点を提供する可能性があります。
一方で、10年にわたる長期ミッションには技術的リスクが伴います。特に、2027年のサンプル回収後から2035年の彗星到達まで8年間の宇宙空間での機器維持は、これまでの中国の深宇宙探査経験を超える挑戦といえるでしょう。
【用語解説】
準衛星(quasi-satellite):
地球の周りを回っているように見えるが、実際には太陽を公転している天体。地球と似た軌道を持ち、地球との相対位置が長期間安定している。
タッチアンドゴー方式:
探査機が天体表面に短時間接触してサンプルを採取する手法。はやぶさ2やOSIRIS-RExで使用された。
アンカーアンドアタッチ方式:
探査機が天体表面に着陸し、アンカーで固定してからドリルでサンプルを採取する新しい手法。天問2号で初めて小惑星に使用される。
活動的小惑星:
小惑星のような軌道を持ちながら、彗星のように塵の尾を持つ天体。311P/PANSTARRSがその代表例。
主小惑星帯:
火星と木星の間に位置する小惑星が密集している領域。太陽系形成時の原始物質が残存している。
スペクトル解析:
天体からの光を波長ごとに分析して、表面の鉱物組成や化学成分を特定する手法。
重力アシスト:
惑星の重力を利用して探査機の軌道を変更し、速度を増減させる航行技術。
【参考リンク】
中国国家航天局(CNSA)(外部)
中国の民間宇宙開発を統括する政府機関。天問シリーズの管理運営を行う
NASA OSIRIS-REx(外部)
NASAの小惑星ベンヌからのサンプルリターンミッション公式サイト
JAXA はやぶさ2プロジェクト(外部)
日本の小惑星リュウグウ探査ミッション。小惑星探査技術の先駆け
sorae 宇宙ポータルサイト(外部)
日本の宇宙関連ニュースサイト。天問2号の詳細情報も掲載
【編集部後記】
天問2号の10年間にわたる壮大な旅路を見ていると、宇宙探査の醍醐味は単なる技術力の誇示ではなく、太陽系の謎を一つずつ解き明かしていく知的冒険にあることを改めて感じます。カモオアレワが本当に月の破片なのか、311P/PANSTARRSはなぜ小惑星と彗星の両方の性質を持つのか。これらの答えが私たちの地球の成り立ちや、生命の起源にどう繋がっていくのでしょうか。みなさんはどの発見に最も期待されますか?
【参考記事】
Science Magazine: China sets out to sample an unusual near-Earth asteroid
The New York Times: China Launches Mission to Capture Pieces of an Unusual Asteroid
Space.com: China launches Tianwen 2 mission to snag samples of a near-Earth asteroid