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SpaceX、最大100万基の軌道上データセンター構想をFCCに申請──AIブームが宇宙インフラ競争を加速

SpaceX、最大100万基の軌道上データセンター構想をFCCに申請──AIブームが宇宙インフラ競争を加速

2026年2月5日、https://carboncredits.com/の報道で、SpaceXが米連邦通信委員会(FCC)に「軌道上データセンター」コンステレーションの申請を提出したことが明らかになった。最大100万基の衛星を低軌道に配置し、太陽エネルギーで駆動してレーザーリンクで接続する計画である。

国際エネルギー機関(IEA)によると、データセンターは2024年に約415テラワット時の電力を消費し、世界の電力使用量の約1.5%を占める。需要は過去5年間で毎年約12%成長している。アナリストは軌道上データセンター市場が2029年の約17.7億ドルから2035年までに約391億ドルに成長し、年平均成長率は約67.4%になると予想している。

SpaceX以外にも、Starcloudが既にNVIDIA GPU搭載衛星を打ち上げ、Axiom Spaceは2027年までにISSへモジュール送付を計画し、GoogleのProject SuncatcherやADA Spaceも参入している。

専門家は熱管理、メンテナンス、軌道混雑、コストを課題として指摘している。

From: 文献リンクElon Musk’s SpaceX Eyes Solar Data Centers in Space to Power the AI Boom

【編集部解説】

SpaceXが米連邦通信委員会(FCC)に提出した「軌道上データセンター」の申請について、FCCが2026年2月4日に受理を公表し、パブリックコメント期間に入りました。この計画は最大100万基という前例のない規模の衛星コンステレーションを提案しています。

現在、地球周回軌道には約15,000基の衛星が存在し、そのうち9,600基以上がSpaceXのStarlink衛星です。100万基という数字は、現在の軌道上の全衛星数の約67倍に相当します。ただし、FCCの公式文書によれば、この数字は「最大要求」であり、最終的な建設計画ではありません。規制当局による承認プロセスはこれから始まる段階です。

この構想の背景には、AI需要による電力消費の急増があります。国際エネルギー機関(IEA)のデータによれば、データセンターは2024年に約415テラワット時の電力を消費しており、これは世界の電力使用量の約1.5%に相当します。

地上のデータセンターが直面する課題は、電力供給だけではありません。冷却のための水資源、土地利用、送電網への負荷など、地域社会との摩擦も増加しています。SpaceXは軌道上であれば、太陽光を24時間近く利用でき、真空の宇宙空間を冷却システムとして活用できると主張しています。

しかし、技術的な課題は決して小さくありません。最大の問題は廃熱管理です。地上では空気や水で熱を運び去ることができますが、宇宙では主に放射によってしか熱を放出できません。そのため、大規模な放熱面が必要となり、衛星の設計を複雑化させます。さらに、軌道上でのハードウェアの故障に対処するメンテナンスは極めて困難で、コストも膨大です。

100万基規模の衛星網は、軌道上の混雑とスペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題も深刻化させます。天文学者のジョナサン・マクダウェル氏は、「100万基の衛星は天文学にとって大きな課題となる」と指摘し、「このような星座には、故障した衛星を除去するための『牽引衛星』が絶対に必要になる」と述べています。衝突の連鎖反応、いわゆる「ケスラーシンドローム」のリスクも懸念されています。

注目すべきは、SpaceXだけがこの分野に参入しているわけではないという点です。

ワシントン州のStarcloudは2025年11月、NVIDIA H100 GPUを搭載したStarcloud-1衛星を既に打ち上げ、GoogleのGemma大規模言語モデルを軌道上で運用することに成功しています。これは宇宙で初めてデータセンター級GPUが動作した例です。同社は将来的に5ギガワットの軌道上データセンター構想を掲げています。

Axiom Spaceは2027年までに国際宇宙ステーション(ISS)へAxODC Node ISSを送る計画で、2022年からISSでクラウドコンピューティング能力を展開してきた実績があります。2027年までに少なくとも3つの相互運用可能なノードを運用する計画です。

Googleは2025年11月にProject Suncatcherを発表し、Planet Labsと協力して2027年初頭に2つのプロトタイプ衛星を打ち上げる予定です。GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)チップを搭載し、太陽同期軌道で太陽光を最大限活用する設計です。将来的には81基の衛星クラスターを想定しています。

中国のADA Spaceは既に2025年5月、最初の12基の衛星を打ち上げており、最終的には2,800基で構成される「三体計算星座」を構築する計画す。各衛星は80億パラメータのAIモデルを搭載し、100Gbpsのレーザー衛星間通信を実現しています。

市場規模の予測も急速に拡大しています。アナリストは軌道上データセンター市場が2029年の約17.7億ドルから2035年までに約391億ドルに成長し、年平均成長率は約67.4%になると予想しています。

ただし、これらの計画の多くは初期段階にあり、経済性の実証はこれからです。Googleの分析では、打ち上げコストが2030年代半ばまでに200ドル/kg以下に低下すれば、宇宙ベースのデータセンターは地上施設と競争できる可能性があるとしています。しかし、放射線による寿命短縮や早期交換の必要性を考慮すると、経済性は大きく変わる可能性があります。

SpaceXの申請は、AI時代のエネルギー問題がいかに深刻化しているかを象徴しています。短期的には、ほとんどのデータセンター成長は地上に留まり、再生可能エネルギーの調達、蓄電、効率基準の改善が主要な解決策となるでしょう。しかし、宇宙ベースのコンピューティングという選択肢が真剣に検討され始めたこと自体が、デジタルインフラの未来が地球の境界を超えて拡大しつつあることを示しています。

この動きは、人類の計算能力がどこで、どのように構築されるかという根本的な問いを投げかけています。地球のリソースを守りながらAIの進化を支えるには、これまでにない発想と技術革新が必要とされているのです。

【用語解説】

軌道上データセンター(Orbital Data Center)
地球周回軌道上に配置されたデータ処理施設。従来の地上データセンターと異なり、太陽光を直接利用して電力を得られ、宇宙空間の真空を冷却に活用できる。地球の電力網や水資源への負荷を軽減できる可能性がある一方、廃熱管理やメンテナンスに技術的課題を抱える。

低軌道(LEO: Low Earth Orbit)
地球表面から高度約160kmから2,000kmまでの軌道領域。人工衛星や国際宇宙ステーションが運用される主要な軌道帯で、地上との通信遅延が少なく、比較的低コストで到達できる利点がある。

テラワット時(TWh: Terawatt-hour)
電力量の単位。1テラワット時は1兆ワット時に相当する。参考として、日本の年間電力消費量は約1,000テラワット時程度。データセンターの電力消費を表す際に用いられる。

スペースデブリ(Space Debris)
宇宙空間に存在する人工的な残骸物。機能を失った衛星、ロケットの破片、衛星同士の衝突で生じた破片などが含まれる。高速で周回するため、運用中の衛星や宇宙ステーションにとって深刻な脅威となる。

ケスラーシンドローム(Kessler Syndrome)
軌道上の物体密度が臨界点を超えた際に発生する、衝突の連鎖反応。一つの衝突が破片を生み、その破片がさらなる衝突を引き起こし、特定の軌道帯が使用不能になる可能性がある現象。NASAの科学者ドナルド・ケスラー氏が1978年に提唱した。

レーザー衛星間通信(Optical Inter-Satellite Link)
衛星同士がレーザー光を用いてデータ通信を行う技術。従来の電波通信と比較して、大容量・高速(100Gbps以上)のデータ転送が可能で、地上局を経由せずに衛星ネットワーク内でデータをルーティングできる。

太陽同期軌道(Sun-Synchronous Orbit)
衛星が常に同じ太陽角度で地表を通過するように設計された極軌道。日の出または日没時刻に地表を通過するため、太陽光をほぼ24時間受けることができ、太陽光発電に適している。

大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)
膨大なテキストデータで学習されたAIモデル。人間のような文章生成や質問応答が可能。パラメータ数(モデルの複雑さを示す指標)が数十億から数千億に及ぶものが主流で、高い計算能力を必要とする。

GPU(Graphics Processing Unit)
元々はグラフィックス処理用に設計されたプロセッサだが、並列計算に優れるため、AI・機械学習の計算にも広く利用される。NVIDIAのH100は現在最高性能クラスのデータセンター向けGPU。

カルダシェフスケール(Kardashev Scale)
文明の技術的進歩度をエネルギー消費能力で分類する仮説的な尺度。タイプIは惑星全体のエネルギーを利用、タイプIIは恒星全体のエネルギーを利用できる文明を指す。ソ連の天文学者ニコライ・カルダシェフが1964年に提唱した。

【参考リンク】

SpaceX(外部)
イーロン・マスク創業の民間宇宙企業。再利用ロケットやStarlinkを展開。

Starcloud(外部)
軌道上データセンター企業。2025年11月にH100搭載衛星を打ち上げ。

Axiom Space(外部)
商業宇宙ステーションを開発中。2022年から軌道上データセンター技術を実証。

Google – Project Suncatcher(外部)
Googleの宇宙AI構想。2027年初頭にTPU搭載衛星を打ち上げ予定。

Planet Labs(外部)
地球観測衛星を運用。GoogleのProject Suncatcherに技術協力。

NVIDIA(外部)
AI・GPU技術のリーディングカンパニー。H100は宇宙プロジェクトで採用。

ADA Space(外部)
中国のAI衛星技術企業。2025年5月に12基の衛星を打ち上げ。

連邦通信委員会(FCC)(外部)
米国の独立政府機関。SpaceXの軌道上データセンター申請を審査中。

国際エネルギー機関(IEA)(外部)
エネルギー政策の国際機関。データセンター電力消費量のデータを公表。

【参考記事】

SpaceX seeks FCC nod to build data center constellation in space | Fortune(外部)
SpaceXの100万基衛星申請とダボス会議でのマスク発言を報道。

FCC Opens Review of Elon Musk’s SpaceX Plan for Orbital AI Data Centers – Decrypt(外部)
FCCの受理公表とxAI統合後のタイミングについて詳述。

SpaceX files plans for million-satellite orbital data center constellation – SpaceNews(外部)
申請の技術的詳細と軌道設計、Ka帯バックアップ使用を報告。

Nvidia-backed Starcloud trains first AI model in space, orbital data centers – CNBC(外部)
Starcloud-1による初の軌道上LLM運用成功と5GW構想を報告。

Axiom Space, Spacebilt Announce Orbital Data Center Node Aboard International Space Station(外部)
2027年のISS上AxODC Node設置計画と3ノード運用構想を発表。

Project Suncatcher: Google to launch TPUs into orbit with Planet Labs – DCD(外部)
Googleの2027年打ち上げ計画と200ドル/kg打ち上げコスト分析。

China launches first of 2,800 satellites for AI space computing constellation – SpaceNews(外部)
中国ADA Spaceの12基打ち上げと2,800基構想、5POPS計算能力を報告。

【編集部後記】

AIの進化が地球のエネルギーと水資源を圧迫し始めた今、私たちは計算能力をどこに置くべきなのでしょうか。SpaceXの100万基という数字は荒唐無稽に聞こえますが、既にStarcloudやGoogleが実際に衛星を打ち上げ、中国は12基の運用を開始しています。

一方で、軌道上の混雑や天文観測への影響、ケスラーシンドロームのリスクも無視できません。地球を守るために宇宙を使うという発想は、新たな問題を生むのか、それとも持続可能な未来への鍵となるのか。みなさんはこの壮大な実験をどう捉えますか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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