Last Updated on 2025-04-21 10:59 by admin
2025年4月16日、アメリカ内務長官ダグ・バーガム(Doug Burgum)は、ノルウェーのエネルギー企業Equinorと英BPが共同で開発中だったニューヨーク州沖の洋上風力発電プロジェクト「Empire Wind 1」(出力810MW、約50万世帯分の電力供給予定)の建設停止を命じた。Empire Windは2段階で開発予定で、最終的には合計約2,100MW(約210万kW)、100万世帯分以上の電力供給を目指していた。建設地はロングアイランド南方24~48km沖合で、サウスブルックリン・マリンターミナルを洋上風力専用の港湾ハブとして整備する計画も進行していた。
バーガム長官は「バイデン政権による環境審査が不十分」として停止を命じたが、Equinor側は法的措置を含めて対応を検討している。Empire Windはニューヨーク市の電力網に直接再生可能エネルギーを供給する米国初の洋上風力発電所となる予定だった。建設・運用で3,500人規模の雇用創出や16億ドル規模のサプライチェーン投資も見込まれていた。
from:https://www.theverge.com/news/650974/offshore-wind-donald-trump-empire-new-york-halt
【編集部解説】
政治とエネルギー政策の複雑な相互作用
今回の洋上風力プロジェクト停止命令は、単なる政策変更にとどまらず、米国のエネルギー戦略が政権交代によって大きく揺れ動く現実を示しています。2025年1月に発足したトランプ政権は、前政権の再生可能エネルギー重視から一転し、化石燃料の開発促進と規制緩和を中心とする路線へ大きく舵を切りました。これは2017年のパリ協定離脱や、過去の政権時代から一貫してきた「エネルギー・ドミナンス(優勢)」政策の延長線上にあります。
特に注目すべきは、既に承認されていた大型洋上風力プロジェクトが政権の判断で停止されたという点です。これは、再生可能エネルギー分野への投資や事業推進にとって、政策の一貫性や予見性がいかに重要かを改めて浮き彫りにしています。内務省は「環境審査の不備」を理由に挙げていますが、背景には化石燃料産業との強い結びつきや、再生可能エネルギーへの慎重な姿勢があると多くの専門家が指摘しています。
国際エネルギー市場への波及効果
米国の洋上風力市場は2030年までに数百億ドル規模への成長が期待されていましたが、今回のような政策転換は投資家のリスク認識を大きく変える要因となります。実際、業界団体や専門家からは「政策の一貫性なき政治判断がクリーンエネルギー移行の障害となる」との声が上がっています。一方、EUは2030年までに60GWの洋上風力導入を目標に掲げており、米国の方針転換が国際的な脱炭素化の流れに影響を与える可能性も指摘されています。
日本への示唆——持続可能なガバナンスの構築
今回の事例は、日本にとっても他人事ではありません。日本でも洋上風力の導入が進められていますが、政策の一貫性や長期的なエネルギー計画の策定、技術革新と環境保護のバランス、透明性の高い合意形成などが今後ますます重要になるでしょう。再生可能エネルギーの社会実装には、技術だけでなく、政治やガバナンスの安定性が不可欠です。
パリ協定離脱との政策的連関性
トランプ政権は1期目(2017年)にパリ協定から離脱し、2025年の再登板でも再び脱退を表明しました。その背景には「米国産業の競争力維持」や「エネルギーコスト低減」を掲げる一方で、化石燃料産業との強い結びつきが根底にあると分析されています。このような方針は、再生可能エネルギーへの投資リスクを高める要因となっています。
技術革新とガバナンスの新たな地平
今回の事案が示すのは、技術の進展と政策決定のスピードや方向性が必ずしも一致しないという現実です。洋上風力などの新技術が社会実装段階に入る中で、マルチステークホルダーによる合意形成や、デジタル技術を活用した透明性の高い政策運営が求められています。
【用語解説】
洋上風力発電:海上に設置した大型風車で発電する方式。陸上より安定した強い風を利用でき、1基で数千世帯分の電力を供給可能。
Equinor:ノルウェー国営のエネルギー企業。石油・ガスから再生可能エネルギーへの転換を進めている。
BP:英国を拠点とする世界的なエネルギー企業。石油・ガス、再生可能エネルギー分野でグローバルに事業展開。
Empire Wind:ニューヨーク州沖で進行中の大規模洋上風力発電プロジェクト。2段階で最大約2,100MWの発電能力を目指す。
サウスブルックリン・マリンターミナル:ニューヨーク市ブルックリンにある港湾施設で、Empire Windの建設・運用拠点として再開発予定。
【参考リンク】
Empire Wind公式サイト(Equinor):Empire Windはノルウェーのエネルギー大手Equinorが主導するニューヨーク沖の大規模洋上風力発電プロジェクトです。全体で2段階(Empire Wind 1・2)に分かれ、最終的に100万世帯以上に電力を供給する計画です。Empire Wind 1は54基の風車で、2027年の稼働開始を目指しています。
Empire Wind 1 許可プロセス詳細(Article VII):ニューヨーク州のArticle VIIプロセスは、主要な送電インフラ建設のための厳格な審査制度です。Empire Wind 1はこの審査を経て、2023年12月に環境適合性証明書を取得し、2024年から本格的な建設が認可されました。公聴会や市民参加の仕組みも整備されています。