Last Updated on 2025-05-22 11:26 by admin
人気バトルロイヤルゲーム「Fortnite」が、2025年5月20日(現地時間、日本時間5月21日)、約5年ぶりにアメリカのApple App Storeに復帰した。Epic Gamesが開発する同ゲームは、2020年8月にAppleの規約に違反する独自の決済システムを導入したことで、App Storeから削除されていた。
この復帰は、Epic GamesとAppleの長期にわたる法的争いの一環として実現した。2025年4月30日、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のイヴォンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事は、Appleが開発者に対してApp Store外の決済方法へのリンクを含むアプリを拒否できないとする判決を下した。
Epic Gamesは判決後の5月9日にFortniteをApp Storeに再申請したが、Appleは承認を遅らせていた。5月20日(現地時間)の前日、ロジャース判事はAppleに対し、Fortniteを承認するか、拒否する法的根拠を示すよう命じた。これを受けてAppleは最終的にFortniteの復帰を承認した。
現在、FortniteはアメリカのiPhoneとiPadのApp Storeで利用可能になっており、欧州連合(EU)ではEpic Games StoreとAltStoreからダウンロードできる。アメリカ版のFortniteには、Epic Gamesのウェブサイトを通じてゲーム内通貨を購入するオプションが含まれており、App Store内での購入は提供されていない。
Fortniteは世界中で約4億人の登録ユーザーを持つ人気ゲームであり、特にバトルロイヤルモードが最も人気がある。このモードでは最大100人のプレイヤーが最後の一人になるまで戦う。2020年の削除時点で、Appleプラットフォームだけで1億1600万人のユーザーを抱えていた。
References: Fortnite approved by Apple, returns to U.S. App Store after 5 years | CNBC
【編集部解説】
Epic GamesとAppleの長期にわたる法的闘争がついに一つの区切りを迎えました。約5年ぶりにFortniteがiOSデバイスに帰ってきたことは、アプリ配信プラットフォームの在り方に大きな転換点をもたらす出来事といえるでしょう。
この対立は2020年8月、Epic GamesがAppleの規約に反して独自の決済システムをFortniteに導入したことから始まりました。当時Appleは売上の30%を手数料として徴収する仕組みを強制していましたが、Epic Gamesはこれを「不当な独占」と主張し、意図的にAppleの規約に違反する行動を取りました。これは「Project Liberty(自由計画)」と呼ばれる戦略的な挑戦だったことが裁判過程で明らかになっています。
注目すべきは、今回の復帰が単なる和解ではなく、法的判断に基づく結果だという点です。2025年4月30日、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所のイヴォンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事は、AppleがApp Store外の決済方法へのリンクを禁止することはできないとする判決を下しました。これはAppleの「反ステアリング」ポリシー(アプリ内から外部決済へ誘導することを禁じる方針)が反競争的だと認められたことを意味します。
しかし、この判決はEpic Gamesの完全勝利ではありません。裁判所は10の争点のうち9つでAppleの主張を認めており、Appleが独占禁止法に違反しているとは判断しませんでした。つまり、AppleがApp Storeを唯一の配信経路として維持することや、アプリ内課金システムを提供することは認められています。変更を求められたのは、アプリ開発者が外部の支払い方法へのリンクを提供することを禁止できないという点のみです。
今回の復帰に至るまでには、さらなる紆余曲折がありました。Epic Gamesは5月9日にFortniteをApp Storeに再申請しましたが、5月16日にAppleによってブロックされたと発表しました。これを受けてTim Sweeney CEOは裁判所に動議を提出。5月19日、ロジャース判事はAppleに対し、Fortniteを承認するか、拒否する法的根拠を示すよう命じました。この圧力を受けて、Appleは最終的に5月20日にFortniteの復帰を承認したのです。
今回復帰したFortniteのアメリカ版には、App Store内での購入オプションはなく、Epic Gamesのウェブサイトを通じてゲーム内通貨を購入するオプションのみが含まれています。これはAppleの手数料を回避する戦略であり、Epic Gamesの「勝利」を象徴するものといえるでしょう。
この一連の出来事がテクノロジー業界に与える影響は計り知れません。特に、プラットフォーム事業者と開発者の力関係に大きな変化をもたらす可能性があります。アプリ開発者は外部決済へのリンクを提供できるようになり、プラットフォーム手数料を回避する選択肢を得ました。これにより、消費者はより安価にデジタルコンテンツを購入できる可能性が高まります。
また、この判決は他のプラットフォーム事業者にも波及する可能性があります。GoogleのPlay StoreやMicrosoftのXbox Store、SonyのPlayStation Storeなど、他の「囲い込み型」プラットフォームも同様の法的挑戦に直面する可能性があるでしょう。
一方で、プラットフォーム側の懸念も無視できません。Appleは一貫して、App Storeの厳格な管理はユーザーのセキュリティとプライバシーを守るためだと主張してきました。外部決済へのリンクが増えることで、詐欺やマルウェアのリスクが高まる可能性も否定できません。
さらに、この判決がアプリ経済全体に与える影響も注目されます。現在、多くのアプリ開発者はプラットフォーム手数料を前提としたビジネスモデルを構築していますが、外部決済の選択肢が広がることで、収益構造の見直しを迫られる可能性があります。
テクノロジー業界では「囲い込み型」と「オープン型」のプラットフォームが常に対立してきましたが、今回の判決はその境界線を少し曖昧にするものといえるでしょう。完全なオープン化ではないものの、閉鎖的なエコシステムに一定の風穴を開けた形です。
今後も、Epic GamesとAppleの法的闘争は続く可能性がありますが、少なくともFortniteのiOS復帰という形で、ユーザーにとっては選択肢が増えたことは間違いありません。テクノロジー企業の力と規制のバランス、そしてユーザー体験の最適化という観点から、この事例は長く語り継がれることになるでしょう。
【用語解説】
バトルロイヤルゲーム:多数のプレイヤーが一つのマップ上で最後の一人になるまで戦い続けるゲームジャンル。Fortniteの主要モードの一つで、最大100人のプレイヤーが参加する。
App Store:Appleが運営するiOSデバイス向けアプリケーション配信プラットフォーム。iPhoneやiPadなどのApple製品でアプリをダウンロードするための公式ストア。
反ステアリング(Anti-Steering)ポリシー:アプリ内から外部の決済方法へユーザーを誘導(ステアリング)することを禁止するAppleのポリシー。今回の判決でこの制限が緩和された。
Project Liberty(自由計画):Epic Gamesが2020年に実施した戦略的な挑戦。意図的にAppleの規約に違反する独自決済システムをFortniteに導入し、法的闘争を引き起こした。
AltStore:iOSデバイス向けの代替アプリストア。Apple公式のApp Store以外でアプリをインストールする手段を提供している。
V-Bucks:Fortnite内で使用される仮想通貨。コスメティックアイテムやバトルパスの購入に使用される。
デジタル市場法(Digital Markets Act, DMA):欧州連合が2022年に採択した法律で、大手テクノロジープラットフォームの市場支配力を規制するもの。EUでは、この法律によりApple以外のアプリストアの利用が可能になっている。
【参考リンク】
Epic Games(外部)Epic Gamesの公式サイト。Fortniteの開発元で、Unreal Engineなどのゲーム開発技術も提供している企業。
Fortnite(外部)人気バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」の公式サイト。無料でプレイ可能なクロスプラットフォーム対応のゲーム。
Apple App Store(外部)AppleのApp Store公式サイト。iOSデバイス向けのアプリケーションを配信するプラットフォーム。
Epic Games Store(外部)Epic Games運営のPCゲーム配信プラットフォーム。Fortniteを含む様々なゲームを提供している。