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ーTech for Human Evolutionー

Kizuna AI、バレエとの邂逅が生むイマーシブ体験の新境地 ― 『SWAN LAKE』カンヌで世界へ

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-08 18:26 by admin

世界初のバーチャルYouTuber、Kizuna AIが復活する舞台は、チャイコフスキーの「白鳥の湖」だった。3年間の活動休止中にバレエと出会った彼女は、EVISIONの最先端技術を身に纏い、カンヌ映画祭でバーチャルビーイング初のバレエ作品に主演する。空中映像とハプティクスが創る没入体験は、かつて「親分」と呼ばれた伝説的VTuberが、人間の身体性が求められる古典芸術とどう対峙するのかを示す。これは単なる技術デモではなく、デジタルアイデンティティの新たな可能性を問いかける実験である。


伝説的なバーチャルYouTuber(VTuber)であり、現在はアーティストとして活動するKizuna AIが、2022年からの無期限活動休止期間中にバレエという新たな表現と出会った 。活動休止は「キズナアイがより成長していくことを目標としたアップデートのため」と発表されていた 。  

この出会いと成長が結実し、Kizuna AIはバーチャルビーイングとして史上初となるバレエ作品、Immersive film 『SWAN LAKE〜starring KizunaAI』に主演する 。本作は、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの音楽による不朽のクラシック・バレエ「白鳥の湖」を題材としている 。  

注目すべきは、この意欲作が2025年5月13日よりフランスで開催されるカンヌ国際映画祭にてワールドプレミア上映されることである 。これは、バーチャルアーティストによる作品が、世界的な映画の祭典で披露されるという画期的な出来事であり、Kizuna AIの挑戦が国際的な芸術分野においても注目されていることを示している。日本国内での一般公開は2025年冬が予定されている 。  

製作はImmersive film「SWAN LAKE〜starring Kizuna AI」製作委員会が担当し 、演出は株式会社EVISIONが手掛ける 。EVISIONは、「VR能 攻殻機動隊」などでイマーシブ技術の先進的な活用実績を持つ企業である 。  

作品は、空中映像装置とハプティクスデバイス(触覚提示装置)を駆使したイマーシブディスプレイによる特設劇場バージョン、一般劇場版に加え、Apple Vision Pro、Meta QuestシリーズといったVRゴーグル、さらには各種ARグラスにも対応したマルチフォーマットでのリリースが計画されており、多様な環境で新しい没入体験を提供することを目指している 。この多角的なアプローチは、Kizuna AIの「アップデート」が単なる技術的な更新に留まらず、芸術表現の幅を大きく広げるものであったことを物語っている。

References: KizunaAIが活動休止中の3年間に出会ったのはバレエだった…?!

【編集部解説】

Kizuna AIさんの新たな挑戦となるバレエプロジェクト『SWAN LAKE〜starring KizunaAI』。このニュースに触れて、未来のエンターテインメントの可能性に胸を躍らせている方も多いのではないでしょうか。私たちinnovaTopia編集部も、この画期的な試みに大きな注目を寄せています。ここでは、このプロジェクトが持つ意味や、それを支えるテクノロジーについて、少し掘り下げて解説してみたいと思います。

1. Kizuna AIさんの新たな挑戦:バーチャルとクラシックの融合

Kizuna AIさんといえば、2016年に登場し、「バーチャルYouTuber」という言葉を世に広め、一大ムーブメントを巻き起こした、まさにパイオニア的存在です 。ゲーム実況や音楽活動など多岐にわたる分野で活躍し、バーチャルタレントの可能性を切り拓いてきました。そんな彼女が、2022年2月のオンラインライブ「Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”」をもって、「アップデートのため」無期限活動休止に入りました 。  

その休止期間中にバレエと出会い、今回、バーチャルビーイングとして初のバレエ作品に主演するというニュースは、多くのファンにとって驚きとともに、大きな期待を抱かせるものでしょう。この「アップデート」が、単なる技術的な改良ではなく、Kizuna AIさん自身の芸術的探求、新たな表現領域への挑戦であったことが伺えます 。  

これまでVTuberの活動は、主にゲーム実況、雑談配信、オリジナル楽曲の発表などが中心でした。クラシックバレエという、人間の身体性と高度な技術、深い感情表現が求められる伝統芸術に、バーチャルな存在であるKizuna AIさんが挑む。これは、バーチャルアーティストが持つ表現のポテンシャルを飛躍的に押し広げる試みと言えます。デジタルな存在が、人間の文化遺産とも言える古典芸術とどのように向き合い、新たな解釈や価値を生み出していくのか。Kizuna AIさんの挑戦は、デジタルアイデンティティの進化の新たな一歩を示しているのかもしれません。それは、単なるエンターテイナーから、人間の文化や芸術を深く探求し、再解釈する能力を持つ存在へと進化する可能性を示唆しています。

2. イマーシブ技術が織りなす新しい「白鳥の湖」体験

本作のタイトルにも冠されている「Immersive film(イマーシブフィルム)」とは、一体どのようなものなのでしょうか。イマーシブとは「没入する」という意味で、観客が単に映像を受動的に「見る」のではなく、物語の世界に「入り込む」ような体験を目指すものです 。  

このプロジェクトでは、その没入感を実現するために、いくつかの最先端技術が用いられています。

空中映像装置: プレスリリースには「空中映像装置」という言葉が登場します 。これは、株式会社EVISIONが「VR能 攻殻機動隊」などで培ってきた「GHOSTGRAM」のような、空間に映像を浮かび上がらせる技術の系譜を引くものかもしれません 。もしそうであれば、例えばバレエの舞台では、白鳥たちが観客の目の前を本当に飛び交うように見えたり、悪魔ロットバルトの呪いが劇場空間全体を覆うような、幻想的で迫力のある演出が期待できます。従来の舞台装置やスクリーン映像では難しかった、魔法のような視覚体験が実現する可能性があります。  

ハプティクスデバイス(触覚提示装置): 本作では、視覚情報だけでなく「触覚」にも訴えかけるハプティクス技術が活用されます 。これは、例えばKizuna AIさん演じるオデット姫の繊細な羽ばたきが微細な振動として観客に伝わったり、チャイコフスキーの壮大な音楽の重低音が身体で直接感じられたりすることで、より深い感情移入を促すことを目指すものでしょう 。美術館で絵画の質感を再現する試みなどもありますが 、ここではダイナミックなパフォーマンスと連動し、物語への一体感を高める役割が期待されます。  

イマーシブディスプレイとマルチフォーマット展開: これらの技術を統合し、観客を物語の中心に置く映像体験を提供するのが「イマーシブフィルム」です 。特設劇場では専用のイマーシブディスプレイが用いられるほか、Apple Vision ProやMeta QuestといったVRゴーグルでは360度の完全な仮想空間へ 、ARグラスでは現実の風景にバレエの世界が重なり合う拡張現実体験へと、多様なフォーマットで提供される予定です。  

これを分かりやすく例えるなら、従来の映画鑑賞が「窓の外の美しい景色を眺める」ようなものだとすれば、イマーシブフィルムは「その景色の中に実際に自分が足を踏み入れる」ような体験です。さらにハプティクス技術は、その世界の空気の震えや、登場人物の息遣い、地面の感触といったものまで伝えてくれるような、五感を刺激する体験を目指していると言えるでしょう。このプロジェクトは、単一の目新しい技術を導入するのではなく、空中映像、触覚フィードバック、そしてVR/ARといった複数の先端技術を有機的に組み合わせることで、これまでにない多感覚的な物語体験を創出しようとしている点が重要です。

3. 製作を支える株式会社EVISIONの技術力

この野心的なプロジェクトの演出を担当するのが、株式会社EVISIONです 。同社は、映画監督であり舞台演出家でもある奥秀太郎氏が代表取締役を務め、取締役には東京大学先端科学技術研究センター教授で人間拡張工学の世界的権威、「光学迷彩」の開発者としても知られる稲見昌彦氏や、慶應義塾大学理工学部情報工学科教授でVR/AR、ハプティクス研究の第一人者である杉本麻樹氏といった、錚々たるメンバーが名を連ねています 。アカデミアと産業界の強力な連携が、同社の強みの一つと言えるでしょう。  

EVISIONは、VRゴーグルなしで仮想空間を現実の舞台上に出現させる「GHOSTGRAM」技術を実装した『VR能 攻殻機動隊』を製作し、国内外で高い評価を獲得しました 。伝統芸能である「能」とSF作品「攻殻機動隊」の世界観を、最新テクノロジーで見事に融合させたこの実績は、『SWAN LAKE〜starring KizunaAI』が単なる話題性だけでなく、技術的にも芸術的にも極めて質の高い作品となることへの大きな期待を抱かせます。EVISIONの参加は、このプロジェクトが単なる技術のショーケースではなく、真に芸術的な革新を目指すものであることを示唆しています。  

4. 「Tech for Human Evolution」:テクノロジーが拓く芸術の未来

Kizuna AIさんのバレエへの挑戦、そしてそれを実現するイマーシブ技術の数々は、まさに私たちinnovaTopiaが掲げる「Tech for Human Evolution(人間の進化のためのテクノロジー)」を体現する事例と言えるのではないでしょうか。

表現の拡張: バーチャルな存在であるKizuna AIさんが、人間の複雑な感情や身体性を豊かに表現するクラシックバレエに挑む。これは、AIやアバターを通じた新たな自己表現の可能性や、他者とのより深い精神的な繋がり方を模索する試みです。

体験の深化: イマーシブ技術やハプティクス技術は、観客が芸術作品に対して、より能動的に、そして五感を通じて深く関わることを可能にします。公式サイトには「Kizuna AIと実際に触れ合い、踊ることができる未来」という言葉もあり 、これは芸術鑑賞のあり方そのものを変革し、参加型の新たなエンターテインメントを生み出す可能性を秘めています。  

伝統の継承と革新: 「白鳥の湖」という1世紀以上も愛され続ける古典名作が、最新テクノロジーと融合することで、これまでクラシックバレエに馴染みの薄かった新しい世代の観客にもリーチし、伝統文化に新たな息吹を吹き込むことが期待されます。例えば、モーションキャプチャー技術 を活用し、熟練したバレエダンサーの精緻な動きや表現をKizuna AIさんに反映させることで、伝統の技とバーチャルならではの表現が融合した、かつてないパフォーマンスが生まれるかもしれません。  

このような先進的な試みは、芸術へのアクセスをより多くの人々に開かれたものにし(民主化)、新たな創造性を刺激するという大きな「Promise(約束)」に満ちています。一方で、テクノロジーの活用が表層的な目新しさや奇抜さにとどまらず、真に芸術的な感動や理解を深めるものとなるか、また、バーチャルとリアルの境界がますます曖昧になる中で、個人のアイデンティティや現実認識にどのような影響を与えるのかといった点は、慎重に見守り、議論していく必要のある側面(Peril)も存在します。しかし、Kizuna AIさんとEVISIONによるこの挑戦は、そうした未来に向けた重要な問いを私たちに投げかける、大きな一歩であることは間違いありません。テクノロジーが人間の創造性を拡張し、文化体験を豊かにする未来への期待を感じさせます。

【用語解説】

VTuber (バーチャルYouTuber): 2Dまたは3Dのアバターを用いて、主にインターネット上で動画配信やライブストリーミングなどの活動を行うタレントやキャラクターの総称。Kizuna AIはその草分け的存在とされる 。  

イマーシブフィルム (Immersive Film): 観客が物語の世界に深く没入するような体験を重視して制作された映像作品。VR/AR技術、インタラクティブ要素、特殊な劇場設備などを活用することが多い 。  

ハプティクス (Haptics): 利用者に力、振動、動きなどを与えることで触覚フィードバックを伝える技術。ゲームコントローラーの振動やスマートフォンの触覚フィードバックなどに応用され、リアリティや操作感を向上させる 。  

モーションキャプチャー (Motion Capture): 人間や物体の動きをセンサーなどで捉え、デジタルデータとして記録・再現する技術。映画のCGキャラクターやVTuberのアニメーション、スポーツ科学など幅広い分野で活用される 。  

バーチャルビーイング (Virtual Being): AI(人工知能)やCG(コンピュータグラフィックス)などによって創り出された、独自の個性や人格を持ち、活動する仮想的な存在。Kizuna AIもその一人として位置づけられる 。  

AR (Augmented Reality / 拡張現実): 現実世界の風景や物体に、コンピュータが生成したデジタル情報を重ねて表示する技術。スマートフォンのカメラアプリや専用のARグラスを通じて体験できる 。  

VR (Virtual Reality / 仮想現実): CGなどで創り出された3次元の仮想空間を、あたかも現実であるかのように体感させる技術。専用のヘッドマウントディスプレイ(ゴーグル)などを装着することで、高い没入感を得られる 。  

【参考リンク】

Immersive film 『SWAN LAKE〜starring KizunaAI』公式サイト
Kizuna AI主演バレエ作品『SWAN LAKE』の公式ウェブサイト。プロジェクト概要、ニュース、関連情報などを掲載。

Kizuna AI Official Website
アーティストKizuna AIの公式サイト。プロフィール、ディスコグラフィー、最新活動情報、お知らせなどを掲載。

株式会社EVISION 公式サイト:
本作の演出を手掛ける株式会社EVISIONの公式サイト。企業情報、事業内容、過去の実績(VR能 攻殻機動隊など)を紹介。

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乗杉 海
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