X(旧Twitter)、オープンソースのNitterに停止通告|「ログイン不要で読む」自由の行方

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アカウントを持たなくても、誰かの発言を静かに眺めていられる。そんな当たり前だったはずのSNSとの距離の取り方が、また一つ塞がれようとしています。Xの投稿をログインなしで閲覧できるオープンソースの非公式クライアント「Nitter」に対し、Xが法的手段での停止を通告しました。プラットフォームの「塀」は、なぜ繰り返し高くなっていくのでしょうか。


Nitterは、Xの投稿をアカウントなしで閲覧できるオープンソースプロジェクトである。2026年8月24日付でX Corp.から、Nitterインスタンスとプロジェクトのリポジトリの恒久的な停止を求めるcease-and-desistレターが送付された。

開発者「Zedeus」はnitter.netを停止し法的助言を求めていることを明らかにし、レターは2026年8月25日午後5時(米東部標準時)までの停止を要求していたという。TechCrunchが確認したレターによれば、XはNitterがAPIを不正利用してデータを回避し、Xアカウントおよびセッショントークンに不正アクセスしたと主張、テキサス州のコンピュータ不正アクセス法とランハム法違反にあたるとしている。他のNitterインスタンスも同様のレターを受け取ったと、開発者はTechCrunchに説明した。

From: 文献リンクX sends cease-and-desist to open-source project Nitter over alleged scraping

【編集部解説】

経済の壁から法の壁へ

まず整理しておきたいのは、Xが今回選んだ手段の変化です。Xは2023年、無料APIを事実上廃止し、サードパーティ製アプリを軒並み締め出しました。TweetbotやTwitterrificのような、10年以上ユーザーに使われてきたアプリも、この時に姿を消しています。さらに2026年に入ってからは、投稿の読み取り自体に1件あたり0.005ドルという従量課金が課され、大規模な読み取りには事実上「企業契約」しか道が残されていません。つまりXはここまで、経済的な壁でサードパーティを締め出してきました。

今回のNitterへの対応は、その延長線上にありながら、質が異なります。Nitterは料金を支払う代わりに、正規のAPIを介さない方法でXのデータにアクセスしていたとされ、Xはこれを「不正利用」として法的手段に訴えました。経済的な壁の次に、法的な壁が立てられた形です。

この経緯には、ある種の皮肉も含まれています。Xは2023年2月にAPIの無料枠を廃止した際、当初の名目はボット業者や世論操作アカウントへの対策でした。その後同年半ば以降、AI企業によるデータの無断スクレイピングへの対抗という理由づけも重なっていきます。一方のNitterは、営利目的のデータ収集ではなく、個人が広告やトラッキングなしに投稿を読むための非商用ツールです。大規模にデータを持ち出して収益化する主体を念頭に置いていたはずの枠組みが、結果として「ログインなしで読みたいだけ」の個人ユーザー向けツールにも同じ強さで適用されている、という構図が見えてきます。

同様の指摘は、Nitterのコミュニティの外でもされています。あるブログは、プラットフォーム企業自身は大規模にウェブをスクレイピングしながら、同じことを個人にされることには寛容でない、という趣旨の批判を寄せています。この指摘の当否はここでは判断しませんが、「誰によるスクレイピングなら許されるのか」という問いは、AIの学習データをめぐる議論とも地続きです。

もう一つ押さえておきたいのは、これがXだけの現象ではないという点です。2023年にはRedditも同様にAPI価格を引き上げ、人気アプリ「Apollo」が閉鎖に追い込まれました。「公開されている情報」へのアクセス経路をプラットフォーム側が一本化していく動きは、この数年、複数のサービスで並行して進んできました。

読む自由の行方

「公開されている投稿を読むだけなら、法的に問題はないはずだ」という感覚を持つ人もいるかもしれません。米国では『hiQ Labs対LinkedIn』の裁判で、ログインを必要としない公開部分へのアクセスは、コンピュータ不正アクセス防止法(CFAA)が禁じる「無権限アクセス」にはあたらないと、連邦控訴裁判所(第九巡回区)が判断した経緯があります。ただしこの裁判はLinkedIn側の全面敗北で終わったわけではなく、最終的にhiQは損害賠償の支払いとデータ破棄に同意して和解しています。この和解には規約違反(契約上の請求)に加え、偽アカウントを使ってパスワード保護ページにアクセスした行為についてのCFAA関連の責任容認も含まれており、単純な「規約違反のみが残った」という決着ではありませんでした。

さらに今回のケースは、hiQの前例とは前提が異なります。元記事によれば、2024年の制限強化以降、Nitterインスタンスの運営には実際のXアカウントとの連携が必要になっていました。つまりNitterは、認証不要の公開ページだけを読んでいたのではなく、アカウントやセッショントークンを介してXのシステムにアクセスしていたことになります。「認証を必要としない公開データへのアクセス」を前提とするhiQの理屈が、そのままでは通用しにくい可能性がある構造です。Xが今回、テキサス州のコンピュータ不正アクセス法とランハム法を持ち出した背景には、こうした事情が関係している可能性がありますが、その具体的な法的評価は今後の手続きを待つ必要があります。

この種のツールを実際に使っていたのは、SNS依存から距離を置きたい個人だけではありません。特定のアカウントの発言を継続的に確認したいジャーナリスト、公開データを収集する研究者、あるいは公式クライアントの重い実装を避けたいアクセシビリティ上の理由から、Nitterを選んでいた利用者もいます。それぞれの利用が正当かどうかは個別に議論の余地がありますが、少なくとも「アカウントを作ってログインし、アルゴリズムに接続する」以外の選択肢が、また一つ消えたことは確かです。

Nitterがこの状況にどう対応するかは、まだ分かりません。開発者のZedeus氏は法的助言を求めている段階で、プロジェクトの今後は未定です。今後注目すべき点はいくつかあります。Zedeus氏がXの主張を法廷で争う道を選ぶのか、それとも7年続いたプロジェクトをここで畳むのか。他のNitter系サービスが、レターを受けてもなお存続を試みるのか。そして何より、テキサス州法とランハム法という、CFAAとは異なる法的枠組みを使った今回の主張が実際に通用するのか。これが認められれば、非営利のオープンソースツールに対しても、プラットフォーム側が「認証済みトークンの利用」を根拠に強い法的手段を取れる前例になり得ます。

今回の一件が示しているのは、「アカウントを作らなくてもインターネットの一角を眺めていられる」という、かつては当たり前だった自由が、技術的な障壁だけでなく、法的な主張によっても閉じられうる時代に入った、ということです。読む側に残された選択肢は、この先さらに狭まっていくのかもしれません。

【関連記事】

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プラットフォームが閉じていく今回の動きとは対照的に、プロトコルとして「開く」道を模索する事例。

【編集部後記】

アカウントを作らずに情報を追う自由は、当たり前だと思っていたぶん、失われて初めて気づく類のものかもしれません。Nitterを使ったことがなくても、「読むためだけに、なぜログインしなければならないのか」という違和感には、覚えがある方も多いのではないでしょうか。プラットフォームとの距離の取り方を、私たちはこれからどう選び直していくことになるのでしょう。


【用語解説】

cease-and-desist(差止警告状)
権利侵害とされる行為の即時停止を求め、応じない場合の法的措置を予告する通知文書。

API(Application Programming Interface)
外部のソフトウェアが、決められた手順でサービスのデータや機能にアクセスするための窓口。

スクレイピング(Scraping)
プログラムを用いてウェブサイトやサービスから自動的にデータを収集する行為。

セッショントークン(Session Token)
ログイン状態を維持するために発行される一時的な認証情報。

CFAA(Computer Fraud and Abuse Act)
コンピュータへの「無権限アクセス」を禁じる、米国の連邦アンチハッキング法。

テキサス州コンピュータ不正アクセス法(Texas Harmful Access by Computer Act)
無権限アクセスを禁じるテキサス州法。連邦法のCFAAとは別に、州単位で同種の規制を持つ例の一つ。

ランハム法(Lanham Act)
商標権侵害・出所表示の誤認防止を目的とする米国の連邦商標法。

オープンソース(Open Source)
ソースコードが公開され、誰でも閲覧・改変・再配布できるソフトウェア開発の形態。

従量課金(Pay-Per-Use)
利用量に応じて料金が発生する課金方式。

【参考リンク】

Nitter公式サイト(外部)
現在はcease-and-desist通告を受けた声明のみを表示している。今回の通告文の一次情報源。

Nitter GitHubリポジトリ(外部)
プロジェクトのソースコードと開発履歴。技術的な仕組みを確認できる。

Nitterインスタンス一覧(GitHub Wiki)(外部)
Nitterをベースにした派生サービスの一覧。

EFF Deeplinks(外部)
プラットフォームの責任・データアクセス権をめぐる議論を継続的に追う電子フロンティア財団のブログ。

【参考記事】

Why Is the Twitter API So Expensive? The Real Reasons Behind X’s Pricing(外部)
2023年のAPI有料化でTweetbot・Twitterrificが閉鎖に追い込まれた経緯を数値とともに解説。

X (Twitter) API Pricing: Complete Guide for 2026(外部)
2026年時点の従量課金体系(投稿読み取り1件0.005ドル等)を解説。

X Increases Its API Access Fees(外部)
2023年のAPI有料化がAI企業のスクレイピング対策を名目としていたことを報じる。

Popular third-party Reddit app Apollo is shutting down as a result of Reddit’s new API pricing(外部)
Redditも同時期に同様の値上げを行い、人気アプリApolloが閉鎖に追い込まれた経緯。

Nitter’s Developer Says X Sent a Cease and Desist(外部)
プラットフォーム自身のスクレイピングと個人によるそれの扱いの非対称性を指摘する批評。

Scraping the Web: Practical Implications From the hiQ v. LinkedIn Opinion(外部)
公開データのスクレイピングがCFAA上の「無権限アクセス」にあたらないとした判決の解説。

The hiQ Labs v. LinkedIn Case Explained(外部)
hiQ対LinkedIn訴訟が最終的に和解に至った経緯とその後の構造の解説。

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためることとゲームをすること(ソシャゲや音楽ゲームが大好きです)。最近はAIの情勢や地政学の問題を勉強中。時折記者として会見や発表に赴いたり、インタビューを行ったりもしています。

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