xAI vs ミネソタ州「ヌーディファイ」禁止法の攻防|緊急差し止めは却下も8月19日審尋へ

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AI企業が生成した性的画像が社会問題化するなか、それを規制しようとする法律と、規制される側の企業の攻防が始まっています。焦点は「規制の中身が妥当か」ではなく、もっと手前の一点でした。裁判所が実際に何を判断したのかを整理します。


ミネソタ州の『ヌーディファイアプリ』禁止法(H.F. 1606)は、xAIの差し止め請求が退けられる形で、2026年8月1日に予定通り施行された。ミネソタ州地区連邦地裁のフランク判事は7月31日、xAIが求めた緊急差し止め命令(TRO)を却下した。

判事が重視したのは法律の中身ではなく提訴のタイミングで、xAIが同命令を申し立てたのは法律の署名からおよそ3か月後、施行のわずか3日前の7月29日だったと指摘し、こうした遅延は被害が差し迫ったものではないことを示唆すると述べた。xAIは訴訟の中で、同法(全米初の同種規制)が「過度に広範」であり、より制限的でない代替手段が存在すると主張している。この主張自体への司法判断はまだ示されておらず、審尋は8月19日に設定された。訴訟は継続しており、今回の決定は法律の施行を止めなかったにとどまる。

From: 文献リンクJudge denies xAI’s request to block Minnesota ban on ‘nudify’ apps

【編集部解説】

「差し止めが却下された」の中身

今回フランク判事が却下したのは、xAIが求めた「緊急差し止め命令(TRO)」という、法律の施行を数日単位で止めるための応急的な手続きです。米国の訴訟実務では、こうした緊急の差し止めが認められるには「このまま放置すれば回復不能な損害が生じる」という切迫性を示す必要があります。判事が着目したのは、xAIが提訴したのが法律の署名から約3か月後、施行のわずか3日前だったという事実で、これは「本当に切迫した被害があるなら、もっと早く動けたはずだ」という推論を成り立たせます。判決文は類似の理由づけをした過去の判例(Kohls v. Ellison)も引用しており、目新しい法理ではなく、差し止め命令の実務における定石的な判断です。

重要なのは、この判断が「xAIの言い分は間違っている」という評価を含んでいない点です。裁判所は法律の中身にほぼ触れず、xAIの主張を「今は審理しない」という形で先送りしました。訴訟自体は続き、xAI側の主張の当否は8月19日の審尋以降に持ち越されています。

xAIは何を「行き過ぎ」だと主張しているのか

xAIの訴状は、H.F. 1606を「表現の自由に対する、内容に基づいた過度に広範な規制」だと表現しています。この主張の核心は、法律が定める責任の構造にあります。H.F. 1606は、プラットフォーム運営者が利用規約でヌーディファイ機能を禁じ、実際にフィルターで大部分をブロックしていたとしても、ユーザーが一件でも生成に成功すれば運営者の過失や認識の有無を問わず最大50万ドルの罰則対象になり得る、厳格責任に近い構造を取っています。つまり「対策をしていたか」が免責事由にならない設計です。xAIはこの点を捉え、2025年に成立した連邦のTAKE IT DOWN法(非同意性的画像の拡散を規制するが、非同意性の立証や実際の拡散を要件とする、より狭い設計)をモデルにすべきだったと主張しています。

この「行き過ぎ」という評価は、xAI一社の言い分にとどまりません。マスク氏やxAIの擁護とは立場を異にする論者からも、H.F. 1606の文言が「本人の同意がある画像編集」や「水着姿・上半身裸の写真」まで技術的には対象に含みうるほど広いという指摘が出ています。法案提出者側も、同意のある画像編集を対象に含めたのは意図的だったと認めているとされ、これが立法の設計判断なのか、条文の粗さなのかという評価は割れています。

法律が生まれた文脈も無視できない

一方で、この法律は抽象的な規制強化への衝動から生まれたわけではありません。発端は、ミネソタ州の女性が、身近な人物にSNS上の写真から自分を含む80人近い女性の非同意性的画像を生成されていたと知った実際の事案でした。彼女が2年近くにわたり州議会に働きかけた結果、H.F. 1606は下院132対1という圧倒的多数で可決され、上院でも反対票なしで可決されています。連邦レベルでは、被害者に損害賠償請求権を認めるDEFIANCE法が上院を2度通過しながら下院で止まっており、州が独自に法整備を進める動機にもなっています。

つまりこの訴訟は、「実害を訴える被害者側の政治的成果」と「技術的に広すぎる規制文言への懸念」という、どちらも軽視できない二つの主張が正面から衝突している構図です。

もう一段大きな文脈:州によるAI規制と連邦の思惑

この訴訟は、xAIとミネソタ州だけの話にとどまらない可能性があります。トランプ政権は州ごとのAI規制に対して否定的な姿勢を示しており、単一の連邦基準を志向しているとされます。ミネソタ州は予測市場の規制でも訴訟を受けて差し止められたばかりで、州が独自に新興技術・市場を規制する権限の範囲そのものが、複数の訴訟を通じて試されている局面にあります。
8月19日の審尋は、H.F. 1606一本の帰趨だけでなく、こうした州対連邦・州対テック企業のより大きな綱引きの一断面としても注目に値します。

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【編集部後記】

実害を訴える被害者の声から生まれた法律と、文言の粗さを指摘する声。どちらも根拠のない主張ではありません。8月19日の審尋で問われるのは、xAIの主張の当否だけでなく、急いで書かれた規制が意図せず何を巻き込んでしまうかという設計の問題でもあります。切迫した被害への対応と、精緻な条文づくりは、時に両立が難しいのかもしれません。同種の規制は、日本を含む各地でこれから増えていくはずです。


【用語解説】

ヌーディフィケーション技術(Nudification Technology)
実在の人物の写真・動画を加工し、身につけていない状態の身体部位をリアルに描写する生成AI技術。H.F. 1606はこの技術の提供・広告を禁じる、全米初の法規制。

TRO(緊急差止命令/Temporary Restraining Order)
訴訟の本審理を待たずに、数日〜数週間の短期間、相手方の行為を差し止める緊急の司法手続き。「回復不能な損害の切迫性」の立証が要件。

予備的差止命令(Preliminary Injunction)
本案判決が出るまでの間、現状を維持するために発する差止命令。TROより時間をかけて審理する手続き。

厳格責任(Strict Liability)
行為者の過失や故意の有無を問わず、結果が生じた事実のみで法的責任を負わせる法理論。

セーフハーバー条項(Safe Harbor)
一定の条件(対策の実施など)を満たした事業者を、法的責任から免除する規定。H.F. 1606にはこの規定がないことがxAI側の主張の核。

TAKE IT DOWN法
2025年5月に米連邦法として成立。非同意性的画像(実写・AI生成問わず)の削除要請の仕組みをプラットフォームに義務付ける。FTCが執行を担当。

【参考リンク】

xAI公式サイト(外部)
当事者企業の公式情報。

ミネソタ州司法長官(Keith Ellison)公式サイト(外部)
被告側の公式見解・プレスリリースを確認できる。

H.F. 1606 法案ステータスページ(ミネソタ州議会Revisor’s Office)(外部)
法案の正式な条文・審議経過を確認できる一次資料。

判決文原文(CourtListener/RECAP)(外部)
今回のTRO却下命令の全文。

FTC「TAKE IT DOWN法」執行開始の公式発表(外部)
連邦レベルの規制の現在地を知りたい読者向け。

TakeItDown.ftc.gov(外部)
非同意性的画像の削除を申請できる窓口。

【参考記事】

xAI Challenges Minnesota Nudification Law With No Safe Harbor, No Scienter — Tech Times(外部)
xAIの主張(セーフハーバー不在・厳格責任)の詳細と、法案の発端となった被害者の経緯を報じる。

Elon Musk’s xAI Sues Minnesota to Kill the US’s First AI Nudification Law — Decrypt(外部)
xAI訴状の主張文言、下院の採決結果、TAKE IT DOWN法との比較を報じる。

The Worst Person You Know Just Filed A Good First Amendment Lawsuit Against A Very Badly Drafted Nudify App Ban — Techdirt(外部)
xAI擁護とは独立した立場から、法案の文言が過度に広範であるとする批判。

Minnesota passes first nudify app ban — The 19th(外部)
法案成立の経緯と、連邦DEFIANCE法の停滞を報じる。

xAI sues Minnesota over the first US ‘nudify’ ban — The Next Web(外部)
トランプ政権の州AI規制への姿勢、ミネソタ州の予測市場規制訴訟との並走を報じる。

Musk’s SpaceXAI Challenges Minnesota Ban on Image ‘Nudification’ — IBTimes UK(外部)
xAIのSpaceX統合の経緯、上院公聴会での証言、罰則額の試算を報じる。

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためることとゲームをすること(ソシャゲや音楽ゲームが大好きです)。最近はAIの情勢や地政学の問題を勉強中。時折記者として会見や発表に赴いたり、インタビューを行ったりもしています。