2026年のノーベル賞は、経済学賞を残して5賞の受賞者が出そろいました。日本からは、化学賞に東京理科大学の硤合憲三(そあい・けんそう)名誉教授が選ばれ、個人で31人目の受賞者となりました(米国籍取得者を含む)。硤合氏が受賞対象の反応を発表したのは1995年、共同受賞のカガン氏の発見は1986年です。光で神経を操る光遺伝学、南極の氷でとらえた宇宙からのニュートリノ、古典と対話する詩、国際法を支えてきた法律家と、今年の顔ぶれを並べると、研究が評価されるまでの長い時間が見えてきます。本記事では、受賞者の一覧と研究の要点に加え、6賞を横断して見えること、来年に向けた前哨戦の顔ぶれを整理します。経済学賞は10月12日(月・祝)18時45分以降に発表され、決まりしだい追記します。
目次▼2026年ノーベル賞 受賞者一覧(6賞)▼日本人受賞者:硤合憲三氏(東京理科大学)▼受賞者と研究生理学・医学賞:ダイセロス氏ら3人、光で神経を操る「光遺伝学」物理学賞:ハルツェン氏、南極の氷で宇宙からのニュートリノをとらえる化学賞:カガン氏と硤合氏、鏡像の「わずかな偏り」が増幅される反応文学賞:アン・カーソン氏、ギリシャ古典と遊ぶ詩人平和賞:ナビ・ピレイ氏、国際法の守り手▼6賞を横断して見えること(今年の傾向)▼来年に向けて見ておきたい材料(ノーベル賞の前哨戦)▼よくある質問▼ノーベル賞をどう捉えるか
編集部後記 / 参考リンク
2026年ノーベル賞 受賞者一覧(6賞)
| 賞 | 発表日(日本時間) | 受賞者 | 授賞理由(要旨) |
|---|---|---|---|
| 生理学・医学賞 | 10月5日 | カール・ダイセロス(米スタンフォード大学)、ペーター・ヘーゲマン(独フンボルト大学)、ゲオルク・ナーゲル(独ヴュルツブルク大学) | 光で開閉するイオンチャネルと光遺伝学に関する発見 |
| 物理学賞 | 10月6日 | フランシス・ハルツェン(米ウィスコンシン大学マディソン校) | アイスキューブ・ニュートリノ観測所への決定的な貢献と、宇宙由来の高エネルギーニュートリノの発見 |
| 化学賞 | 10月7日 | アンリ・B・カガン(仏パリ・サクレー大学)、硤合憲三(東京理科大学) | 不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見 |
| 文学賞 | 10月8日 | アン・カーソン(カナダ) | 古典の伝統との遊び心ある対話を通じて、現代文学に新しい形式を生み出した大胆で独創的な作品群 |
| 平和賞 | 10月9日 | ナビ・ピレイ(南アフリカ) | 平和と国際法の推進への尽力 |
| 経済学賞 | 10月12日 18:45以降 | 10月12日に追記予定 | — |
経済学賞(正式にはアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)は、10月12日(月・祝)18時45分以降(現地 同日11時45分)に発表されます。結果が出しだい、この一覧と本文に追記します。
日本人受賞者:硤合憲三氏(東京理科大学)
硤合憲三氏の経歴
化学賞を受けた硤合憲三氏は、1950年広島県生まれの76歳です。東京大学理学部で有機化学を学び、米国の大学での研究を経て、1981年に東京理科大学の講師となりました。以来35年以上にわたって同大学で研究と教育を続け、現在は名誉教授です。これまでに日本学士院賞や紫綬褒章を受けています。
硤合反応とは
硤合反応とは、生成した分子そのものが触媒となって、自分と同じ形の分子を増やしていく反応です(正式には不斉自己触媒反応、1995年発表)。分子には右手と左手のような鏡像の2つの形を持つものがあり、最初は数%だった片方の偏りが、反応を繰り返すと約90%まで増幅されます。
私たちの体をつくるアミノ酸や糖は、ほぼ片方の形だけでできています。硤合反応は、ごく小さな偏りが化学の力だけで大きく育ちうることを示し、この「生命の片寄り」の謎に手がかりを与えました。
電話会見では「人生で最もエキサイティングな日」と喜びを語りました。日本人のノーベル賞は個人で31人目(米国籍取得者を含む)、化学賞では10人目で、昨年の北川進氏に続く2年連続の受賞です。
受賞者と研究
生理学・医学賞:ダイセロス氏ら3人、光で神経を操る「光遺伝学」
藻類のクラミドモナスは、光に向かって泳ぎます。ヘーゲマン氏とナーゲル氏は、その仕組みを調べるなかで、光を受けると開くイオンチャネル「チャネルロドプシン」を見つけました。ダイセロス氏は2005年、この遺伝子を哺乳類の神経細胞で働かせ、光で神経活動をオン・オフできることを示しました。
この手法によって、特定の神経回路が記憶や感情、行動にどう関わるかを、相関ではなく因果として確かめられるようになりました。ノーベル委員会は、この方法が今や世界中の研究室で脳の謎を解くのに使われていると評価しています。臨床応用では網膜色素変性症が最も進んでおり、脳の病気への応用は研究段階です。
研究内容と応用の現在地は、当メディアの野村が詳しく解説しています。
物理学賞:ハルツェン氏、南極の氷で宇宙からのニュートリノをとらえる
ハルツェン氏はベルギー生まれの理論物理学者で、1972年からウィスコンシン大学マディソン校で教えています。1988年に南極の氷をニュートリノの検出器に使う構想を示し、1990年代には前身の実験「AMANDA」で南極点の氷に光センサーを沈めました。その経験をもとに、約1立方キロの氷に5,160個の光センサーを埋め込んだ「アイスキューブ」を率いています。アイスキューブは2011年に本格稼働し、2013年に宇宙由来の高エネルギーニュートリノの証拠を報告しました。
物理学賞が1人に贈られるのは、1992年のジョルジュ・シャルパク氏以来34年ぶりです。アイスキューブには、日本から千葉大学のグループが参加しています。
アイスキューブの仕組みと、日本の研究グループが担ってきた役割は、野村が詳しく解説しています。
化学賞:カガン氏と硤合氏、鏡像の「わずかな偏り」が増幅される反応
カガン氏は1986年、触媒の偏りよりも生成物の偏りのほうが大きくなる「非線形効果」を示しました。硤合氏の自己触媒反応は、この偏りの増幅を、生成物自身が触媒になる形で突き詰めたものです。化学委員会のハイナー・リンケ委員長は、今年の賞を「基礎的な化学」の賞だと説明しました。
ただし、この研究が示すのは、偏りがどう増幅されるかです。生命がなぜ片方を選んだのかという問いには、まだ答えが出ていません。
カガン氏は1930年フランス生まれの95歳で、第二次世界大戦中はナチスから逃れるため、家族とともに偽名で村に身を隠していました。2001年には、野依良治氏、バリー・シャープレス氏とともにウルフ賞化学部門を受けています。
鏡像の偏りが生命の起源の問いとどうつながるのかは、野村が詳しく解説しています。
文学賞:アン・カーソン氏、ギリシャ古典と遊ぶ詩人
カーソン氏は1950年トロント生まれの詩人・古典学者で、76歳です。古代ギリシャ・ローマの文学を素材に、詩、エッセイ、小説を混ぜ合わせた作品を書いてきました。代表作に、韻文で書かれた小説『赤の自伝』(1998年)や、古代ギリシャ文学における欲望を論じた評論『Eros the Bittersweet』があります。『赤の自伝』には、小磯洋光氏による邦訳があります。
女性の文学賞受賞者は19人目で、カナダからは2013年のアリス・マンロー氏以来です。
カーソン氏自身の言葉と作品に触れるなら、米国の文芸誌『パリ・レビュー』の記事が入口になります。2004年に同誌が行ったインタビューから、「何を考えているのかを知るために書く」と語った部分を抜粋しています。受賞にあわせて、同誌に掲載された詩や短編、ラジオドラマを一時的に無料で公開しました(英語)。
Anne Carson Wins the Nobel Prize in Literature — The Paris Review(外部)
平和賞:ナビ・ピレイ氏、国際法の守り手
ピレイ氏は1941年、南アフリカのダーバン生まれの85歳です。アパルトヘイト下で弁護士として人権の弁護にあたり、1995年に南アフリカ高等裁判所で初の非白人女性の判事となりました。その後、ルワンダ国際刑事裁判所の判事・所長、国際刑事裁判所(ICC)の判事、国連人権高等弁務官(2008〜2014年)を務めています。
今年の平和賞で、ノルウェー・ノーベル委員会が前面に出したのは、国際法そのものの置かれた状況でした。フリドネス委員長は、国際法が強い圧力にさらされ、その機関が攻撃を受けている「力の政治」への移行と対比させて、ピレイ氏の仕事を位置づけました。委員会は、紛争の時代に国際法を強めたいと考え、今回の授賞を、国際的なルールに基づく体制と機関を損なおうとする者へのメッセージだと説明しています。ピレイ氏は受賞を「国際犯罪のすべての生存者」に捧げると述べました。
一方で、ピレイ氏は、イスラエルがガザでジェノサイドを行ったと認定した国連の調査委員会を率いており、イスラエル外務省は授賞を強く非難しました。発表の前には、米国のトランプ大統領が自分こそ受賞にふさわしいと述べつつ、受賞できるかは疑わしいとも語っていました。受賞者の仕事をどう見るかは、立つ場所によって大きく分かれます。
国際法の専門家がこの授賞をどう読んだかは、欧州国際法学会誌のブログ「EJIL: Talk!」に、英レディング大学のマルコ・ミラノヴィッチ教授が寄せた文章が参考になります。平和賞の歴史のなかで国際法の実務家が受賞するのがいかに稀かを振り返り、今回の授賞を、ピレイ氏個人だけでなく国際法という営みそのものに向けられたものと読み解いています(英語)。
授賞と同じころ、ピレイ氏がかつて判事を務めた国際刑事裁判所(ICC)に対して、米国が前例のない措置に踏み切ったことを、CNNが伝えています(英語)。
6賞を横断して見えること(今年の傾向)
1年分の結果から「傾向」と言い切ることはできません。ここでは、今年の5賞と直近5年を並べて、目に留まった点を挙げます。
研究から受賞までの時間
カガン氏の非線形効果は1986年、硤合反応は1995年で、受賞まで31〜40年かかっています。物理学賞も、南極の氷を検出器にする構想は1988年にさかのぼり、1990年代の前身実験「AMANDA」を経て、宇宙由来のニュートリノの発見に届いたのは2013年でした。光遺伝学は2005年の実証から約21年です。ノーベル賞が届けるのは、多くの場合、何十年か前の成果への評価です。
受賞者の年齢
カガン氏は95歳、ピレイ氏は85歳、ハルツェン氏は82歳です。カガン氏の年齢は、2019年に97歳で化学賞を受けたジョン・グッドイナフ氏の最高齢記録に迫ります。
「道具」と「基礎」
自然科学の3賞は、脳を調べる道具(光遺伝学)、宇宙を見る観測装置(アイスキューブ)、そして化学委員長が「基礎的な化学」と呼んだ研究に贈られました。2024年に物理学賞と化学賞がAI関連の研究に贈られたのと比べると、今年はAIから距離を置いた年でした。ただ、これが選考の方向転換なのか、単に順番の問題なのかは分かりません。
分かち合いと、選ばれなかった名前
物理学賞は34年ぶりの単独受賞でした。生理学・医学賞は3人で分け合いましたが、2021年のラスカー基礎医学研究賞では、同じ光遺伝学に対してダイセロス氏、ヘーゲマン氏とともにディーター・エスターヘルト氏が選ばれていました。1900年に承認されたノーベル財団の規程は、1つの賞を3人より多くで分けることを認めていません。多くの人が関わる研究ほど、誰を選ぶかが問われます。
日本の受賞
日本関連の受賞は、2024年の日本被団協(平和賞)、2025年の坂口志文氏・北川進氏、2026年の硤合氏と、3年続きました。一方で、2022年と2023年はゼロでした。
平和賞の文脈
平和賞は、2024年の日本被団協(核兵器)、2025年のマリア・コリナ・マチャド氏(民主主義)、2026年のピレイ氏(国際法)と続きました。今年は平和賞の125周年にあたり、委員会は国際的なルールと制度そのものを守ってきた人を選びました。
女性の受賞者
今年の個人受賞者8人のうち、女性はカーソン氏とピレイ氏の2人です。
来年に向けて見ておきたい材料(ノーベル賞の前哨戦)
ノーベル賞の前には、どの探究が評価され始めているかを映す賞がいくつかあります。ここでは、その代表的な3つを整理します。今年の結果を見ると、前哨戦とノーベル賞の間の時間はまちまちです。光遺伝学はラスカー賞の5年後、カガン氏はウルフ賞の25年後に受賞しました。
ラスカー賞(毎年9月)
米国の医学賞で、ノーベル生理学・医学賞の前哨戦とされます。2026年は9月に発表され、日本から4人が選ばれました。
- 基礎医学研究賞:エマニュエル・ミニョー氏(米スタンフォード大学)、柳沢正史氏(筑波大学)。覚醒を保つ神経ペプチド「オレキシン」の発見と、その欠乏がナルコレプシーを引き起こすことの解明
- 臨床医学研究賞:服部有宏氏、北沢剛久氏、井川智之氏(いずれも発見当時、中外製薬)。血友病A治療薬「ヘムライブラ」(エミシズマブ)の基盤となった二重特異性抗体の開発
- 公共サービス賞:マイケル・J・フォックス氏。マイケル・J・フォックス・パーキンソン病研究財団の創設と、患者のための発信
ウルフ賞(2026年は10月1日発表)
イスラエルのウルフ財団が贈る賞で、物理・化学・医学部門の受賞者の約4分の1が、のちにノーベル賞を受けているとされます。2026年の受賞者は次の通りです。
- 物理学:イマニュエル・ブロッホ氏(独マックス・プランク研究所)、ジュン・イェ氏(米コロラド大学)。極低温の原子系を制御する技術の大きな進展
- 化学:シャンカー・バラスブラマニアン氏、デビッド・クレナーマン氏(ともに英ケンブリッジ大学)、パスカル・メイヤー氏(仏ストラスブール大学)。ゲノム医療のための、低コストで大規模なDNAシーケンシング手法の開発
- 医学:チャールズ・ズーカー氏(米コロンビア大学)
- 数学:デビッド・カジュダン氏(ヘブライ大学)、ジョセフ・バーンスタイン氏(テルアビブ大学)。表現論、保型形式、代数幾何学の基礎的研究
クラリベイト引用栄誉賞(毎年9月)
学術論文の被引用数をもとに、ノーベル賞級とされる研究者を選ぶ取り組みです。これまでの選出者のうち89人が、のちにノーベル賞を受けています。2026年は9月17日に22人が選ばれました。
- 物理学:安達千波矢氏(九州大学)、スティーブン・フォレスト氏、マーク・トンプソン氏(超高効率の有機EL)/ニコラ・スパルディン氏(室温で働くマルチフェロイクスの理論)/薛其坤氏(量子異常ホール効果の観測)
- 化学:デビッド・アララ氏、ラルフ・ヌッゾ氏、ジェイコブ・サギフ氏(自己組織化単分子膜)/ハリー・グレイ氏、ジェイ・ウィンクラー氏(タンパク質内の長距離電子移動)/デビッド・R・リウ氏(塩基編集・プライム編集)
- 生理学・医学:ダニエル・ドラッカー氏、イェンス・ユール・ホルスト氏、スヴェトラーナ・モイソフ氏(GLP-1)/ジェームズ・フジモト氏、デビッド・ファン氏、エリック・スワンソン氏(光干渉断層計)/ティモシー・スプリンガー氏(免疫の細胞接着受容体)
- 経済学:スーザン・エイシー氏、ハル・ヴァリアン氏(情報技術の経済学)/マイケル・ウッドフォード氏(金融政策)/シドニー・ウィンター氏(進化経済学)
2026年のクラリベイトに選ばれた研究者は、今年の5賞の受賞者には入りませんでした。経済学賞の結果は、10月12日に分かります。
3つの賞を並べると、今年の前哨戦で評価された日本の研究者は、ラスカー賞の柳沢正史氏と中外製薬の3氏、クラリベイトの安達千波矢氏です。ただ、硤合氏の例が示すように、研究の評価が育つ道筋は前哨戦だけではありません。
よくある質問
2026年の日本人受賞者は?
化学賞の硤合憲三氏(東京理科大学名誉教授)です。
日本人のノーベル賞受賞者は何人?
硤合氏で個人31人目です(米国籍取得者を含む数え方)。このほか、団体として2024年に日本被団協が平和賞を受けています。
賞金はいくら?日本円では?
2026年は各賞1,200万スウェーデン・クローナで、昨年の1,100万クローナから引き上げられました。日本円では約1億9,000万円です(2026年9月時点の報道による換算)。複数人の受賞では分け合います。
授賞式はいつ?
アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日です。平和賞はノルウェーのオスロ、それ以外の賞はスウェーデンのストックホルムで授与されます。
発表の日程や、賞の仕組みは?
日本時間の発表日程、選考の仕組み、直近5年の受賞者は、こちらの記事にまとめています。
ノーベル賞をどう捉えるか
ノーベル賞は、人類の進歩を測る「ものさし」なのでしょうか。それとも、人類が何を「進歩」や「貢献」と呼んできたかを映す「鏡」なのでしょうか。今年の5賞には、この問いを考える手がかりがいくつも含まれています。
ひとつは、時間です。今年の受賞研究の多くは、1980年代から1990年代に始まりました。発表は一瞬で世界を駆けめぐりますが、祝われている中身は、数十年をかけて確かめられ、受け継がれてきた探究です。アイスキューブがとらえたニュートリノが宇宙の彼方から長い旅をへて地球に届いたように、受賞の知らせもまた、何十年も前に放たれた光がいま届いたようなものかもしれません。
もうひとつは、問いの素朴さです。藻はどうやって光を感じているのか。海の中で試みられていた観測を、南極の氷でできないか。分子は、生き物のように自らを増やせないか。今年の自然科学3賞の受賞研究をたどると、その出発点にはこうした問いがあります。そこから、脳の働きを因果として確かめる道具が生まれ、宇宙を見る新しい目が開かれ、生命の起源に迫る化学が育ちました。素朴な問いが人類をこれほど遠くまで連れていくことを、今年の顔ぶれは示しています。
名前についても、考えさせられます。規程のうえでは、1つの賞に刻まれる名前は多くても3人分です。けれど、アイスキューブは多くの国の研究機関が支える国際共同研究であり、光遺伝学も、チャネルロドプシンの発見から臨床応用まで、多くの研究者の手で育てられてきました。刻まれた名前は探究の歩みを指し示す目印であって、歩いた人すべての名簿ではありません。受賞者の仕事をたどるほど、その向こうに広がる研究の裾野が見えてきます。
そして、評価の幅です。今年は、2000年以上前のギリシャの言葉と対話し続けてきた詩人と、人類が自らに課したルールである国際法を支え続けてきた法律家が、科学の3賞と同じ週に称えられました。自然を知ろうとする営みも、言葉や法によって人と人との間を形づくろうとする営みも、ともに「人類への貢献」として並んでいます。ノーベル賞が見ているのは、科学の内側だけではありません。
ノーベル賞が何を測り、何を映しているのか。一つの答えに収める必要はないと、私たちは考えています。今年の受賞を手がかりに、みなさんの捉え方を見つけていただければと思います。
【編集部後記】
私たちがノーベル賞に注目するのは、人がどんな問いに何十年も向き合い、その探究によって人類がどこまで歩みを進めたのかを、国際的な場で確かめられる賞だからです。
今年の5賞からは、光に向かって泳ぐ藻の研究が脳の理解を変え、南極の氷が宇宙を見る目になり、鏡像のわずかな偏りから生命の起源を問う化学が育ってきたことが見えてきます。月曜には経済学賞が加わります。みなさんは、今年の受賞のどこに人類の歩みを感じましたか。


















