Last Updated on 2025-05-21 11:50 by admin
2025年5月20日(現地時間、日本時間5月21日)、イギリス国防省(MOD)は、ジョン・ヒーリー国防相のもとで進めている戦略防衛見直し(Strategic Defence Review, SDR)において、人工知能(AI)の活用を国防の中核方針とすることを明らかにした。MODは既に400件以上のAI関連プロジェクトを推進しており、AIは戦闘現場、情報分析、装備の稼働率向上、業務効率化など多岐にわたる分野で導入が進んでいる。2022年には「Defence AI Strategy(国防AI戦略)」を策定し、「Defence AI Centre(国防AIセンター)」も設立した。今回のSDRは、AIを単なる新技術ではなく国防の基盤と位置づけ、今後の防衛力強化と現代戦への対応力向上を目指す内容となっている。英国軍は規模縮小や人員不足への懸念も抱えており、AI導入による効率化と近代化が急務となっている。SDRの最終結果は今後発表される予定で、MODはAIを活用した現代的な防衛力の確立に向けて具体的な施策を講じていく方針である。
References:
UK armed forces to put AI at heart of defence review | The Guardian
Britain’s shrinking military: Is Labour’s plan enough to fix it? | BBC News
The forthcoming strategic defence review 2025: FAQ | UK Parliament
Rise of the robots: AI to shape UK defense review | Politico Europe
Humanity’s Last Defence Review? | Cassi AI
【編集部解説】
イギリス国防省(MOD)が推進するAI活用と戦略防衛見直し(SDR)は、軍事技術の導入だけでなく、組織や意思決定の根本的な変革を目指す大規模な取り組みです。ジョン・ヒーリー国防相の指導のもと、すでに400件を超えるAIプロジェクトが進行しており、AIは指揮統制、情報分析、装備管理、戦闘現場の支援など多方面で導入が拡大しています。これは英国政府の公式発表や議会報告書でも裏付けられています。
今回のSDRでは、AIを「新しいガジェット」ではなく、国防の基盤インフラと位置づけ、今後の安全保障政策の中心に据えています。ウクライナ戦争などでAIが現代戦の勝敗を左右する事例が増える中、英国も効率化と近代化を急いでいます。しかし、現場では調達や人材確保の遅れ、AI活用の現実と理想のギャップ、リスクを取らない文化など、課題も多く指摘されています。
AI導入のメリットとしては、意思決定の迅速化、人的リソースの有効活用、現場のリスク低減、技術協調による抑止力強化などが挙げられます。一方で、AIの軍事利用には倫理的・法的リスクが伴い、自動化による誤作動や責任の所在不明確化、バイアスによる判断ミスなどが懸念されています。MODは倫理的・法的枠組みの遵守を強調していますが、現場での人間の関与やAIの透明性・説明責任の確保は今後の大きな課題です。
また、英国防省はパランティアを含む複数の民間AI企業と連携していますが、AI技術のグローバルな拡散や軍拡競争も見逃せません。イスラエルや米国、中国などがAIを活用した自動照準・攻撃システムを実用化しており、パランティア社のような企業が世界各地の紛争でAIを提供している現実もあります。ガザ地区でのAIターゲティング事例は、人道的・法的課題の象徴です。
英国の戦略防衛見直しは、こうした国際的な技術競争と倫理的課題の両面を見据え、「AI時代の持続可能かつ責任ある防衛体制」への転換を目指しています。今後はAI導入の加速とともに、透明性や説明責任、国際法遵守、人間中心の安全保障をどう両立させるかが焦点となります。これは英国だけでなく、世界の安全保障政策にも大きな影響を与える転換点です。
【用語解説】
戦略防衛見直し(Strategic Defence Review, SDR):
国家の安全保障環境や軍事技術の進展を踏まえ、防衛政策や軍事力の運用方針を抜本的に見直す政府主導のレビュー。イギリスでは数年ごとに実施される。
ジョン・ヒーリー国防相(John Healey):
イギリスの現職国防大臣。2025年の戦略防衛見直しを主導し、AI活用による国防改革を推進している。
Defence AI Strategy(国防AI戦略):
英国防省が2022年に策定したAI活用の基本方針。研究・開発・実装・倫理指針を含み、軍事分野へのAI導入を戦略的に推進する。
Defence Artificial Intelligence Centre(DAIC, 国防AIセンター):
英国防省が設立したAI推進の中核組織。AI技術の導入・運用・標準化・倫理指針策定などを担う。
【参考リンク】
Ministry of Defence(イギリス国防省)(外部)
イギリスの防衛政策全般を担う政府機関。国防戦略や装備調達、軍の運用などを統括する。
Defence Artificial Intelligence Centre(DAIC, 国防AIセンター)(外部)
英国防省のAI活用推進組織。AI技術の導入・標準化・倫理的運用などを担当する。
Defence AI Strategy(国防AI戦略)(外部)
英国防省が公開するAI戦略の公式文書。AIの研究開発・運用・倫理指針などを網羅する。
Palantir Technologies(外部)
米国のデータ解析ソフトウェア企業。軍事・政府・民間向けに大規模データ統合・解析プラットフォームを提供している。