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Enhanced Games – トランプ・ジュニアが支援するドーピングスポーツ大会の是非

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-23 17:42 by admin

2025年5月21日(現地時間、日本時間22日)、アメリカの投資ファンド「1789キャピタル」が、ドナルド・トランプ・ジュニアの主導で、禁止薬物の使用を公認する新たな国際スポーツ大会「Enhanced Games(エンハンスト・ゲームズ)」の開催することを公表した。

この大会はオーストラリア出身の実業家アーロン・ドスーザが2023年に構想し、2026年5月にアメリカ・ラスベガスのリゾーツ・ワールドで初開催される予定である。競技種目は水泳、陸上、ウエイトリフティングなど8競技が予定されている。

選手はドーピング検査を受けることなくパフォーマンス向上薬を使用でき、賞金総額は500万ドルに上る。100m走や50m自由形水泳などで世界記録を更新した選手には100万ドルの賞金が与えられる。

参加選手には厳格な医師の管理と健康監督が義務付けられ、アメリカで合法かつ、医師から処方された薬品のみを使用することができる。また、医師や科学者による専門委員会が設置され、選手の健康状態を継続的に監視し、必要に応じて臨床試験として管理された環境での投与や健康管理を行う仕組みが導入される予定だ。

2025年2月時点で複数の元オリンピック選手が参加を表明している。主催者は「科学とスポーツの融合による人類の限界突破」を掲げており、著名投資家ピーター・ティールも支援者として名を連ねている。

References:
文献リンクTrump Jr. backs Enhanced Games, an Olympic disruptor that would allow doping | AP News
文献リンクTrump-backed ‘Olympics on drugs’ could become reality | DW
文献リンクDonald Trump Jr backs ‘steroid Olympics’ with multi-million dollar investment | Sifted
文献リンクEnhanced Games: Trump Jr. Backs Doping-Friendly Olympics | US News

【編集部解説】

Enhanced Gamesの発表は、スポーツ界の常識を根本から問い直す大胆な試みとして、世界的な議論を巻き起こしています。従来、ドーピングは健康被害や競技の公正性を損なうものとして厳しく禁止されてきました。しかし、Enhanced Gamesは「科学的管理下でのパフォーマンス向上薬の使用」を公式に認めることで、スポーツの進化と人間の限界突破を目指しています。

この大会で認められる薬物の多くは、現在の国際スポーツ界では禁止されていますが、米国など一部の国では医療用途として合法的に使用されています。とはいえ、これらの薬物には心血管系への負担や精神的副作用、依存性などの健康リスクがつきまといます。特に複数の薬剤を併用した場合の長期的な影響については、十分なエビデンスが蓄積されていません。また、抗うつ薬など精神疾患の治療薬とパフォーマンス向上薬の境界も曖昧であり、「治療」と「強化」の線引きが今後の大きな課題となるでしょう。

賞金総額が500万ドルに達し、1競技で世界記録を更新すれば100万ドルが与えられるという仕組みは、選手の挑戦意欲を大きく刺激します。しかし、経済的なインセンティブが過度な薬物使用を招き、短期的な成功のために健康を犠牲にする選手が増える懸念も指摘されています。過去のドーピングスキャンダルでは、国家ぐるみの薬物使用が選手のキャリアや人生に深刻な影響を及ぼした事例もあり、Enhanced Gamesが同じ轍を踏まないための厳格な安全管理体制が求められます。

一方で、この大会は「ドーピングの地下化」を防ぎ、科学的な監視とデータ蓄積によって新たな安全基準や治療法の開発につながる可能性も秘めています。主催者は医師や科学者の監督下で臨床試験を実施し、透明性の高い運営を目指すとしています。これは従来の「隠すドーピング」から「オープンな科学的挑戦」へのパラダイムシフトとも言えるでしょう。

日本国内では2024年にアンチドーピング法が施行され、選手だけでなく関係者全体に厳しい規制が敷かれています。Enhanced Gamesに参加した選手が日本で競技を続ける場合、国内法との整合性が課題となることは避けられません。ただし、医療現場での薬物管理やリハビリテーション技術の発展など、スポーツ科学の新たな応用領域が広がるきっかけになる可能性もあります。

【用語解説】

ドーピング(Doping)
スポーツ選手が競技能力を高める目的で、禁止されている薬物や方法を使用する行為。健康被害や競技の公平性の観点から、国際的に厳しく規制されている。

パフォーマンス向上薬(Performance Enhancing Drugs, PEDs)
筋力や持久力、集中力などを高めるために使用される薬剤の総称。アナボリックステロイド、成長ホルモン、EPO(エリスロポエチン)などが含まれる。

アンチ・ドーピング機関(Anti-Doping Organization, ADO)
スポーツ界においてドーピング防止活動を行う組織。検査や教育、啓発活動を担う。国際的にはWADA(世界アンチ・ドーピング機構)、日本ではJADA(日本アンチ・ドーピング機構)が代表的。

アーロン・ドスーザ(Aron D’Souza)
Enhanced Gamesの創設者であり、オーストラリア出身の実業家。ドーピングを公認したスポーツ大会の開催を推進している。

ドナルド・トランプ・ジュニア(Donald Trump Jr.)
アメリカ大統領ドナルド・トランプの長男。投資ファンド「1789キャピタル」のパートナーとしてEnhanced Gamesへの資金提供を行っている。

ピーター・ティール(Peter Thiel)
米国の著名な起業家・投資家。PayPalやPalantirなどの共同創業者であり、テクノロジー分野で幅広い投資活動を行っている。

【参考リンク】

Enhanced Games(外部)
ドーピングを公認した新しい国際スポーツ大会。科学とスポーツの融合による人類の限界突破を掲げている。

1789 Capital(外部)
ドナルド・トランプ・ジュニアがパートナーを務める米国の投資ファンド。革新的な事業やスタートアップへの投資を行う。

JADA(日本アンチ・ドーピング機構)(外部)
日本国内でアンチ・ドーピング活動を統括する組織。ドーピング検査や啓発活動、教育プログラムを実施している。

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)(外部)
世界規模でドーピング防止活動を推進する国際機関。禁止薬物リストの策定や検査基準の制定を行っている。

Peter Thiel Foundation(外部)
ピーター・ティールが設立した財団の公式サイト。科学技術や社会変革への支援活動を紹介している。

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