オーストラリアの電子機器設計製造企業REDARC Defence & Spaceは2025年5月28日、米国の航空宇宙・防衛電子機器製造サービスプロバイダーであるProjects Unlimited Inc.(PUI)と戦略的チーム協定を締結したと発表した。
この協定はAUKUSパートナーシップの共通目標に直接貢献することを目的としている。REDARC Defence & SpaceはPUIの米国製造拠点を活用し、回路基板組み立て、ボックスビルド統合、ケーブル・配線ソリューションの専門知識にアクセスできるようになる。
REDARC Electronics創設者でREDARC Defence & SpaceのマネージングディレクターのAnthony Kittel氏は、この提携により顧客サポートの効率化とサプライチェーンの回復力強化が可能になると述べた。
PUIの三代目ファミリー社長兼CEOのChris Wyse氏は、オーストラリアの防衛産業の革新的技術をAUKUSの第2の柱を通じて米国プラットフォームに統合できると説明した。この提携は両大陸にわたる防衛プログラムの太平洋横断能力を創出する。
From: REDARC, Projects Unlimited sign deal for AUKUS
【編集部解説】
今回のREDARC Defence & SpaceとProjects Unlimited Inc.の戦略的提携は、AUKUS(オーストラリア・イギリス・アメリカ)防衛協定における技術共有の具体的な実現例として注目すべき動きです。この協定は単なる企業間提携を超えて、三カ国間の防衛産業基盤統合という大きな戦略の一部として位置づけられています。
特に重要なのは、この提携がAUKUSの「第2の柱」と呼ばれる先進技術共有に直接関連している点です。第1の柱が原子力潜水艦技術に焦点を当てているのに対し、第2の柱は人工知能、量子技術、サイバー技術、電子戦技術などの幅広い先端技術を対象としており、今回の電源システム技術もその範疇に含まれます。
REDARC Defence & Spaceは、1979年創業のREDARC Electronicsの防衛・宇宙部門として展開されている企業です。同社の電源ソリューションは過酷な環境下でも動作する堅牢性が特徴で、軍用車両や航空機、宇宙機器などのミッションクリティカルな用途に使用されています。南オーストラリア州ロンズデールに本拠を置き、設計から製造まで一貫した能力を持つことが強みです。
一方、Projects Unlimited Inc.は1951年創業の老舗企業で、現在は創業者の孫にあたるChris Wyse氏が3代目CEOを務めています。同社は米国政府の厳格な規制要件であるITAR(国際武器取引規則)認証を取得しており、機密性の高い防衛技術の製造が可能な数少ない企業の一つです。
この提携により実現される技術的メリットは多岐にわたります。まず、REDARCの電源技術を米国内で製造できることで、米国防総省の調達要件である「Buy American Act」への対応が可能になります。また、地理的に分散した製造拠点を持つことで、サプライチェーンリスクの軽減と納期短縮が実現されるでしょう。
しかし、この動きには潜在的な課題も存在します。技術移転に伴う知的財産権の管理、両国の異なる品質基準や規制要件への対応、そして何より機密技術の適切な管理が重要な課題となります。特に、オーストラリアの防衛技術が米国に移転される際の技術流出リスクは慎重に管理される必要があります。
長期的な視点では、この提携はAUKUS諸国の防衛産業統合のモデルケースとなる可能性があります。成功すれば、他の技術分野でも同様の国際協力が促進され、三カ国の防衛技術力の底上げに寄与するでしょう。一方で、中国をはじめとする他国からの技術獲得競争が激化する中で、AUKUS諸国の技術的優位性を維持できるかが今後の焦点となります。
【用語解説】
AUKUS(オーカス)
オーストラリア、イギリス、アメリカが2021年9月に創設した安全保障枠組み。第1の柱は原子力潜水艦技術共有、第2の柱は人工知能、量子技術、電子戦技術などの先端技術協力を対象とする。
EMS(Electronics Manufacturing Services)
電子機器製造サービスの略で、電子機器の製造を顧客の代わりに受託するサービス。部品調達から基板実装、組立、検査、出荷まで製造プロセス全体を代行する。
Buy American Act(バイ・アメリカン法)
1933年に制定された米国の法律で、政府調達において原則として米国製品を優先購入することを義務付ける。国内コンポーネントのコストが最終製品の50%を超える必要がある。
ITAR(国際武器取引規則)
米国の防衛関連技術の輸出を規制する法律。防衛品目の製造業者、輸出業者はDDTC(国防貿易管理局)への登録が必須で、機密技術の適切な管理が求められる。
【参考リンク】
REDARC Defence & Space(外部)
オーストラリアの防衛・宇宙分野向け電子機器メーカー。ミッションクリティカルな電源ソリューションを提供
Projects Unlimited Inc.(外部)
1951年創業の米国航空宇宙・防衛電子機器製造サービス企業。高精度製造を手がける三代目ファミリー企業
REDARC Electronics(外部)1979年創業のオーストラリア電子機器メーカー。車載用から防衛・宇宙分野まで幅広い電源ソリューション
【参考動画】
【参考記事】
REDARC, PUI sign teaming agreement, citing AUKUS opportunities(外部)
オーストラリア製造業専門メディアによる今回の提携発表の詳細報道と両社幹部コメント
AUKUS Explained: How Will the Trilateral Pact Shape Indo-Pacific Security(外部)
米国外交問題評議会によるAUKUS協定の包括的解説と地政学的意義の分析
REDARC Defence Systems re-brand to REDARC Defence & Space(外部)
REDARC Defence & Spaceの企業沿革と2019年防衛事業部設立から宇宙分野展開までの戦略的成長
【編集部後記】
今回のREDARC Defence & SpaceとProjects Unlimited Inc.の提携は、AUKUS協定における技術共有の具体的な実現例として大変興味深い動きです。防衛技術の国際協力が加速する中で、日本の防衛産業にとってもこうした動向は無視できません。皆さんは、日本がこのような国際的な防衛技術協力にどのように関わっていくべきだと思われますか?また、民生技術と防衛技術の境界が曖昧になる中で、テクノロジー企業が果たすべき役割についてもご意見をお聞かせください。