Last Updated on 2025-06-16 12:45 by admin
ガーディアン紙の調査により、英国の大学でChatGPTなどのAIツールを使用したカンニングが急増していることが判明した。
2023-24年度に約7,000件のAI不正使用が確認され、学生1,000人あたり5.1件となった。これは2022-23年度の1.6件から3倍以上の増加である。2025年度(今年度)は7.5件/1,000人に達する見込みだ。
調査は情報公開法に基づき155の大学に要請し、131校が回答した。回答した大学の27%以上がAI悪用を独立した不正行為カテゴリーとして記録していない状況が判明した。一方、従来型の盗用は2019-20年度の19件/1,000人から2023-24年度は15.2件に減少し、今年度は8.5件まで低下する予想だ。
レディング大学の研究では、AI生成作品の94%が検出されずに提出可能だった。高等教育政策研究所の調査では学生の88%が評価にAIを使用している。英国政府は国家スキルプログラムに1億8,700万ポンドを投資している。
From: How do we protect the truth? It starts with you
【編集部解説】
今回のガーディアン紙の調査結果は、英国の高等教育界が直面している新たな現実を浮き彫りにしています。ChatGPTが2022年11月に一般公開されてから約2年半が経過し、学生のAI利用は既に日常的な行為となっているのです。
注目すべきは、AI不正使用の急増と従来型盗用の減少が同時に起きている点です。これは単なる「カンニング手法の変化」ではなく、学習そのものの概念が根本的に変わりつつあることを示唆しています。
検出の困難さが最大の課題となっています。レディング大学の実験では94%のAI生成作品が検出を逃れており、従来の盗用とは異なり「証拠」を特定することが極めて困難です。Turnitinが2023年4月に導入したAI検出ツール「Originality」も98%の精度を謳っていますが、偽陽性のリスクが指摘されています。
大学間の対応格差も深刻な問題です。調査に回答した131校のうち27%以上がAI悪用を独立したカテゴリーとして記録していないことは、教育機関の認識や対応にばらつきがあることを示しています。
長期的な影響として、教育評価システム全体の再構築が避けられません。UCLの研究者らが提案する「サンプル口述試験」のような新しいアプローチが注目されており、AI時代に適応した評価手法の模索が始まっています。
この現象は日本の教育界にとっても他人事ではありません。AI技術の進歩により、知識の暗記よりも情報を適切に活用し、批判的思考を働かせる能力がより重要になってくるでしょう。教育機関は禁止から共存へと方針転換を迫られる時期に差し掛かっているのです。
【用語解説】
ChatGPT
OpenAIが開発した対話型AI。2022年11月に一般公開され、自然言語での質問に対して人間のような回答を生成する。学生の課題作成やアイデア出しに広く利用されている。
生成AI(Generative AI)
学習したデータから新しいテキスト、画像、音声などのコンテンツを自動生成するAI技術。ChatGPTやGoogle Geminiなどが代表例である。
情報公開法(Freedom of Information Act)
英国の法律で、公的機関に対して保有する情報の開示を請求できる制度。今回の調査では大学の学術不正データ取得に活用された。
学術的誠実性(Academic Integrity)
学術活動において求められる倫理的な行動規範。盗用や不正行為を避け、正当な方法で研究や学習を行うことを指す。
AIパラフレーズツール
AI生成テキストを人間が書いたように「人間化」し、AI検出ツールを回避するためのソフトウェア。TikTokなどで学生向けに宣伝されている。
【参考リンク】
OpenAI ChatGPT(外部)
OpenAIが提供する対話型AIサービス。文章作成、学習支援、アイデア出しなど多様な用途で無料利用可能。
Google Gemini(外部)
Googleが開発したAIアシスタント。画像生成、動画作成、リアルタイム会話機能を提供。
高等教育政策研究所(HEPI)(外部)
2002年設立の英国の独立系研究機関。高等教育政策に関する証拠に基づいた研究を実施。
インペリアル・カレッジ・ロンドン(外部)
1907年設立のロンドンの公立研究大学。工学、医学、自然科学、ビジネスの4学部を持つ名門校。
レディング大学(外部)
1926年に大学認定を受けた英国の研究大学。AI検出実験で94%の検出回避率を実証した研究で注目。
【参考動画】
【参考記事】
Nearly 7000 UK University Students Caught Cheating Using AI – NDTV
ガーディアン紙の調査結果を基に、英国大学でのAI不正使用が急増していることを報告。学生1,000人あたり5.1件のAI関連不正が確認され、前年の1.6件から大幅増加したと伝えている。
Student Generative AI Survey 2025 | HEPI
2025年2月発表の学生AI利用調査報告書。学生の88%が評価にAIツールを使用していることが判明。デジタル格差や倫理的使用に関する課題も指摘している。
An experiment using a prestigious university exam revealed that cheating on ChatGPT was 94% undetectable
レディング大学が実施したAI検出実験の詳細を報告。ChatGPTで作成された回答の94%が不正として検出されず、人間の平均点を上回る結果を示したことを解説している。
【編集部後記】
この記事を読んで、皆さんはどのように感じられたでしょうか。AIと教育の関係は、私たち一人ひとりにとって身近な問題になりつつあります。学生時代を振り返ってみると、課題に取り組む際の「正しさ」とは何だったのか、改めて考えさせられませんか。
もし皆さんが教育に関わる立場にいらっしゃるなら、AI時代の学習をどのように支援していけばよいのか。また、これから学ぶ世代の方々は、AIをパートナーとして活用しながらも、自分らしい思考力をどう育んでいけばよいのでしょうか。
この変化の波は、日本の教育現場にも必ず訪れます。皆さんの体験や考えをぜひお聞かせください。一緒に未来の学びについて考えていければと思います。