11月3日 — ライカが宇宙へ向かった日
1957年11月3日、午前5時30分。カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、スプートニク2号が打ち上げられました。カプセルの中には、モスクワの路上で捕獲された野良犬、ライカがいました。約3歳、体重5キログラムの雑種犬。彼女は地球周回軌道に到達した最初の生命体となりましたが、帰還する手段はありませんでした。
ソ連指導者フルシチョフが求めたのは、11月7日のボリシェヴィキ革命40周年記念に間に合う「宇宙の壮観」でした。技術者たちは、わずか4週間で508キログラムのカプセルを準備しました。人間を送る前に、宇宙が生命体に与える影響を知る必要がある——それが当時の科学的合理性でした。
打ち上げの3日前、ライカは狭いカプセルに入れられました。技術者の一人は後に証言しています。「ハッチを閉じる前に、私たちは彼女の鼻にキスをし、bon voyageと言いました。彼女が生き延びられないことを知りながら」。設計者オレグ・ガゼンコは、技術的困難にもかかわらず窓を取り付けるよう主張しました。ライカが、せめて下の世界を見られるように。
後悔という名の告白
打ち上げは成功しました。しかし、加速のピーク時、ライカの心拍数は通常の3倍に跳ね上がり、呼吸は4倍に増加しました。ブロックAコアの分離失敗により熱制御システムが作動せず、カプセル内の温度は急上昇。ライカは打ち上げから5〜7時間後、過熱とパニックで死亡しました。
ソ連政府は長年、ライカが7日間生存したと主張していました。真実が明らかになったのは2002年、打ち上げから45年後のことです。
ライカを選んだ責任者、ウラジーミル・ヤズドフスキーは打ち上げ前、ライカを自宅に連れ帰りました。子供たちと遊ばせるために。「彼女にはもう生きる時間がほとんど残されていなかったので」と、彼は後に書いています。
訓練を担当したガゼンコは、その後の人生をライカへの罪悪感とともに生きました。彼は別の宇宙犬を養子に迎え、14年間ともに暮らしました。そして1998年、ライカの死から41年後、モスクワでの記者会見で告白しました。
「時間が経つほど、申し訳なく思います。私たちはそれをすべきではありませんでした。この任務から得られた知識は、犬の死を正当化するのに十分ではありませんでした」
彼らは冷酷な科学者ではありませんでした。ライカに窓を付け、家族と過ごさせ、最後にキスをした人々です。それでもなお、彼らはライカを死地へ送りました。冷戦の政治的圧力、40周年記念という締め切り、そして「人類の進歩」という大義名分が、ライカの運命を決定しました。
2025年、構造は変わったのか
2023年1月、ChatGPTが世界を驚嘆させました。「AI革命」と称賛されました。しかし、その裏側で何が起きていたのでしょうか。
2021年11月から、OpenAIはケニアのアウトソーシング企業Samaに、数万件のテキストデータのラベリングを委託していました。児童性的虐待、殺人、拷問、自傷行為——ChatGPTから有害コンテンツを取り除くフィルターを作るための作業です。
良い流れです。ここから現代の搾取の具体例を簡潔に提示し、次に変化の萌芽を示します。意味づけは最小限に抑えます。
ケニアの労働者たちは、1日8時間以上、こうした内容を読み、分類しました。OpenAIはSamaに1時間あたり12.50ドルを支払っていましたが、労働者が実際に受け取っていたのは1.32ドルから2ドル。月収にして約170ドル、ケニアの最低賃金を下回る額です。
ある労働者は60 Minutesの取材にこう語っています。「給料日の前日になると、アカウントを閉鎖されて『ポリシー違反』と言われます。苦情を言う手段もありません」。
2024年5月、97人のケニアのデータ労働者が、バイデン大統領への公開書簡を発表しました。「米国のビッグテック企業は、アフリカの労働者を組織的に虐待し搾取しています。私たちの労働条件は現代の奴隷制に等しい」。
あなたが今読んでいるこのデバイスのバッテリーには、おそらくコバルトが含まれています。世界のコバルトの70%以上が、コンゴ民主共和国で採掘されています。2024年の推定では、約40,000人の子供たちがコンゴのコバルト鉱山で働いています。一部は6歳です。1日2ドル以下の賃金で、素手で土を掘り、トンネルに潜ります。
12歳のムントッシュは証言しています。「ある日、地滑りがあって、私の兄を埋めました。彼は死にました。私はその時1年生でした」。
コンゴのコバルト産出量の80%は中国企業が所有しています。中国で精製され、世界中のバッテリーメーカーに販売されます。Apple、Tesla、Samsungは、すべてこのサプライチェーンに接続されています。2024年3月、米国控訴裁判所は、グローバル・サプライチェーンの一環としてコバルトを購入することは、児童労働を「促進する」行為には当たらないと判決を下しました。
ライカには選択肢がありませんでした。ケニアの労働者には、ほとんど選択肢がありません。コンゴの子供たちには、選択肢がありません。決定権を持つ者と、犠牲を払わされる者は、分離されています。
声を上げ始めた人々
しかし、変化の兆しがあります。
2024年3月、ケニアでRemotas(Scale AI運営)が突然閉鎖されました。労働者たちがSNSで待遇を公に批判し始めたからです。同年、184人のコンテンツモデレーターがMeta、Sama、Majorelを提訴しました。
2024年9月、米国の上下院議員8名が、Alphabet、Amazon、Meta、MicrosoftのCEOに書簡を送りました。「データラベリング労働者の労働条件について深い懸念を抱いている」と。
コンゴでは、Save the Childrenが児童鉱山労働者の学校復帰プログラムを実施しています。2024年には6,200人以上の子供たちが児童労働監視・是正システムに登録されました。米国議会は2024年8月、「中国によるコンゴの児童・強制労働搾取」公聴会を開催しました。
1990年代、ナイキはアジアの工場での児童労働で批判されました。NGO、学生団体、消費者が団結してボイコット運動を展開。ナイキは方針転換を迫られました。完璧ではありませんが、構造は変わりました。
1996年、PETAの働きかけによりNASAはBion計画——霊長類を宇宙に送る実験——から撤退しました。2024年4月、米国下院議員らがSPARE法案を提出。連邦政府資金による動物実験を3年以内に段階的に廃止する法案です。まだ成立していませんが、議論が始まっています。
岐路に立つ私たち
2025年11月3日、スプートニク2号打ち上げから68年後の今日。
ガゼンコは41年後に後悔しました。私たちは、2066年に後悔するのでしょうか?
ChatGPTを使い、スマートフォンを持ち、電気自動車に乗る。私たちは、この構造に組み込まれています。しかし、組み込まれているからこそ、私たちには力があります。巨大資本は、私たちの労働を、消費を、沈黙を必要としています。ということは、私たちが声を上げれば、構造は変わらざるを得ないのです。
ケニアの労働者は、一人では無力です。しかし、184人が提訴し、97人が大統領に書簡を送り、何千人もが声を上げ始めたとき、企業は動揺します。歴史が証明しているように、団結した人々の力は、最終的には勝利します。
進歩は、犠牲の上に築かれるべきでしょうか?
【Information】
参考リンク:
- Smithsonian Magazine – The Sad Story of Laika
- TIME – OpenAI Used Kenyan Workers on Less Than $2 Per Hour
- CBS News – Labelers training AI say they’re overworked, underpaid
- NPR – ‘Cobalt Red’ describes the ‘horror show’ of mining in the DRC
- Humanium – Child labour in cobalt mines in the DRC
用語解説:
スプートニク計画(Sputnik Program): 1957年から1961年にかけてソ連が実施した一連の人工衛星打ち上げ計画。スプートニク1号は人類初の人工衛星、スプートニク2号は初めて生命体を軌道に乗せた衛星。
データラベリング(Data Labeling): AI訓練のために、画像、テキスト、音声などのデータに正解ラベルを付ける作業。例えば、画像に「猫」「犬」とタグ付けすることで、AIが猫と犬を区別できるようになる。
コバルト(Cobalt): 原子番号27の金属元素。リチウムイオン電池の正極材料として不可欠。高温下での安定性と高エネルギー密度を実現する。
テラフォーミング(Terraforming): 他の惑星や衛星の環境を、地球のように人間が住める状態に改造する惑星工学的概念。火星の場合、大気を厚くし、温度を上げ、水を液体として存在させることを目指す。
グローバル・サウス(Global South): かつて「発展途上国」と呼ばれた地域を指す用語。地理的には南半球に多いが、経済的・政治的な立場を示す概念。植民地主義の歴史や現在の経済格差を考慮した表現。

























