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2月10日【今日は何の日?】NYタイムズが掲げた「印刷に値するニュース」の理念 — アルゴリズム時代に問われる編集的価値判断

2月10日【今日は何の日?】NYタイムズが掲げた「印刷に値するニュース」の理念 — アルゴリズム時代に問われる編集的価値判断

1897年2月10日 — ニューヨーク・タイムズ、モットー採用

ニューヨーク・タイムズが”All the News That’s Fit to Print”(印刷に値するニュースのみ)というモットーを一面マストヘッドに恒久採用した。複数の情報源によると、この日付は2月10日とされることが多いが、Britannica百科事典は2月9日と記載しており、諸説ある。

当時はイエロージャーナリズム全盛期で、ウィリアム・ランドルフ・ハーストとジョセフ・ピュリッツァーのセンセーショナリズム戦争が激化していた。オックスが実践したのは、「載せない勇気」を宣言した画期的な差別化戦略であり、編集的価値判断そのものを商品価値として定義した世界初の事例とされている。


1897年2月 — “信頼性”が商品になった瞬間

1896年8月、アドルフ・S・オックスは破産寸前のニューヨーク・タイムズを75,000ドルで買収した。当時の発行部数はわずか9,000部。一方、ライバルのジョセフ・ピュリッツァーのNew York Worldは60万部を誇っていた。

オックスの前には、2つの道があった。

その1: ライバルと同じ土俵で戦う
誇張見出し、扇情的なイラスト、偽装インタビュー——いわゆる「イエロージャーナリズム」で部数を競う。

その2: 対極の価値を提示する
「載せない勇気」を宣言し、品質保証そのものをブランドにする。

オックスは後者を選んだ。

1896年10月、モットー“All the News That’s Fit to Print”は最初、マディソンスクエアの電光掲示板広告として登場した。そして1897年2月(10日とする説が多数だが、9日とする資料もある)、このフレーズは新聞の一面マストヘッドに恒久的に掲載されることになった。

これは単なるスローガンではなかった。「誰が”印刷に値する”を決めるのか」という問いに対する、明確な回答だった。


イエロージャーナリズムへの反旗 — 「何を載せないか」の革新性

1890年代の情報カオス — センセーショナリズムが「売れる」時代

1890年代のニューヨークは、情報の無法地帯だった。

ウィリアム・ランドルフ・ハースト(New York Journal)とジョセフ・ピュリッツァー(New York World)は、激しい部数戦争を繰り広げていた。その手法は徹底したセンセーショナリズム——誇張見出し、偽装インタビュー、煽情的なイラストの氾濫だった。

この「イエロージャーナリズム」という呼称は、両紙が掲載していた人気漫画「イエローキッド」に由来する。しかしその本質は、エンゲージメント至上主義だった。読者の怒り、驚き、恐怖——感情を煽るほど部数が伸びる。これは現代のSNSアルゴリズムの原型とも言える構造だ。

歴史家の間では、この報道合戦が1898年の米西戦争を誘発したという評価もある(ただし、この因果関係については議論がある)。情報が「事実」ではなく「商品」として扱われた時代だった。

アドルフ・オックスの逆張り戦略 — 品質を「差別化要素」にする

こうした環境で、オックスは対極の戦略を選んだ。

戦略の3本柱:

  1. 価格破壊
    3セントから1セントへ値下げ(ライバルと同価格に)
  2. 差別化
    センセーショナリズム排除→富裕層・知識層へのポジショニング
  3. ブランド構築
    モットーを公募で選定(クラウドソーシングの先駆け)し、全面展開

オックスが狙ったのは、「量」ではなく「質」を求める読者層だった。当時としては極めてニッチな市場だったが、そこには明確な需要があった。

「Fit to Print」の本質 — 編集者による価値判断の明文化

このモットーが革新的だったのは、3つの理由による:

① 「載せない」ことを宣言した
多くのメディアが「何でも載せる」ことで部数を競う中、NYタイムズは「載せないニュースがある」ことを明言した。

② 判断基準を編集者に置いた
「誰が”Fit to Print”を決めるのか?」→ 編集者が決めるという権限の所在を明確化した。

③ 配信チャネルを自社で保有していた
紙媒体という物理的な配信チャネルを自社で持つことで、編集判断が読者に確実に届く構造だった。

この3つ目が、127年後の2026年に決定的な意味を持つことになる。


配信権力の移動 — 検索アルゴリズムによる”編集者の死”

2000年代:Google検索時代 — PageRankが「重要性」を決める

21世紀に入り、情報の配信権力は紙媒体からインターネットへ移行した。

2000年代、GoogleのPageRankアルゴリズムは「何が重要なニュースか」を、被リンク数という客観的指標で判断し始めた。編集者が「重要だ」と判断しても、検索結果の10ページ目に表示されれば、読者には届かない。

メディアは「SEO最適化」という新しいゲームに参加せざるを得なくなった。編集的価値よりも、検索ランキング最適化が優先される時代の始まりだった。

2010年代:ソーシャルメディア時代 — エンゲージメントが「拡散」を決める

Facebook、Twitter(現X)の台頭は、さらに状況を変えた。

これらのプラットフォームのアルゴリズムは、「社会的に重要か」ではなく「ユーザーがクリック・シェアしそうか」で記事の表示を決定した。結果として、怒り、驚き、恐怖を煽る記事が優先的に拡散される——イエロージャーナリズムの再来だった。

クリックベイト、フェイクニュースが大量発生した背景には、この「エンゲージメント至上主義」のアルゴリズムがあった。

2024年〜:AI検索時代 — アルゴリズムが「配信するか否か」を決める

そして2024年5月、Googleは「AI Overviews」をローンチした。検索結果の最上部に、AIが生成した要約を表示する機能だ。ユーザーは元のWebサイトをクリックせずに、回答を得られるようになった。

【データで見るアルゴリズム支配の決定的証拠】

NewzDashが世界400以上のニュースパブリッシャーを分析した調査によると、この2年間でメディアへのトラフィック源が劇的に変化している:

トラフィック源2023年2025年変化率
Google Web Search51.10%27.42%▼46%減
Google Discover37.03%67.51%▲82%増

出典: innovaTopia「Google検索トラフィック激減:Web SearchからDiscoverへの大転換」

この数字が意味するのは、「ユーザーが能動的に検索する」行為そのものの終焉である。

  • Web Search(従来型): ユーザーがキーワードを入力→検索結果から選択
  • Google Discover(AI主導): AIがユーザーの過去行動を分析→「読むべき記事」を自動配信

innovaTopia掲載の分析記事によれば、Discoverのクリックスルーレート(CTR)はWeb検索の約4倍に達しているという。2025年第1四半期のデータでは、Discoverが8%のCTRを記録したのに対し、検索は2%以下にとどまった。

しかし、この高いCTRには致命的な代償が伴う。

【予測不可能な暴力性】

同記事が報じるところによると、2025年12月11日のGoogleコアアップデートでは、「一部のパブリッシャーが48時間以内に、1日30万インプレッションあったDiscoverトラフィックを完全に失った」という事例があった。

1897年のニューヨーク・タイムズが「何を載せるか」を自ら決定できたのに対し、2025年のメディアは「Googleアルゴリズムが配信するか否か」を待つしかない——これが現代の構造だ。

関連記事:
AI時代、新聞は本当に「不要」か? 情報インフラが問う「信頼のコスト」


2026年2月上旬 — 偶然ではない象徴的な1週間

2026年2月の第1週、メディア史において象徴的な2つの出来事が相次いだ。

2月2日〜 Google検索順位の記録的変動

2026年2月2日頃から、Google検索結果の順位が「確認されていないアップデートとしては記憶にない規模」で変動し始めた。Search Engine Roundtableの編集長バリー・シュワルツはこう報じている。

複数の検索順位トラッキングツールが通常のコアアップデート時と同等、あるいはそれ以上の変動を示している。SEOコミュニティでは、検索トラフィックが減少したという報告が相次いでいる

しかし、Googleは公式コメントを出していない。何が変わったのか、なぜ変わったのか——判断基準はブラックボックスのままだ。

出典: innovaTopia「Google検索順位大変動 — 確認されていないアップデートが記録的規模に」

2月4日 — Washington Post、編集部門の3分の1(300人以上)を解雇

そしてわずか2日後の2月4日、The Washington Postは約800人のジャーナリストのうち300人以上を解雇すると発表した。

エグゼクティブ・エディターのマット・マレーはこの動きを「戦略的リセット」と呼んだ。しかしその実態は、編集部門の解体だった:

  • スポーツ・書籍部門: 完全廃止
  • メトロデスク(地域報道): 40人→12人へ縮小
  • 全フォトジャーナリスト: 解雇

【数字が語る構造的崩壊】

指標データ出典
オーガニック検索トラフィック過去3年で約50%減少WaPo社内メール
年間損失2024年に1億ドルWSJ報道
デジタル訪問者数2020年11月: 1億1,400万人
2024年11月: 5,400万人(半減
CBS報道
ベゾスの資産※約2,600億ドル(世界第4位)Forbes

出典: innovaTopia「Washington Post、編集部門の3分の1を解雇 — AI検索がメディアを壊す日」

ジェフ・ベゾスの資産額・順位は市場変動で日々入れ替わる。ForbesのReal-Time Billionaires(2026年2月9日時点)では、ベゾスの純資産は約2243億ドルで世界5位と推計されている。

世界第4位の富豪ジェフ・ベゾスは、理論上は年間1億ドルの損失を何十年も吸収できる財力を持つ。しかし彼が選んだのは、報道機関としての骨格を破壊する道だった。

元エグゼクティブ・エディターのマーティ・バロンはNPRを通じてこう述べた:

「世界最高峰の報道機関の一つの歴史における最も暗い日の一つ

この2つの出来事が示すもの — 同じ構造の別の側面

2月2日のGoogle順位変動と、2月4日のWashington Post解雇。この2つは偶然の一致ではなく、同じ構造の別の側面を示している:

視点Google側Washington Post側
現象アルゴリズム変更で配信先を決定トラフィック消失で収益崩壊
権力の所在Googleエンジニア編集者(無力化)
判断基準アルゴリズム(非公開)ジャーナリズム的価値(無視される)
透明性公式コメントなし「戦略的リセット」という表現
結果プラットフォーム支配強化300人解雇

【1897年との決定的な対比】

要素1897年 ニューヨーク・タイムズ2026年 Washington Post
配信チャネル紙媒体(自社保有)Google検索(依存)
判断権の所在編集者アルゴリズム
“Fit to Print”の決定編集者が決めるGoogleが決める
判断が届く確率100%(印刷されれば届く)不明(アルゴリズム次第)
品質戦略の結果購読者増→ビジネス成功トラフィック半減→解雇300人

1897年2月10日、ニューヨーク・タイムズは「All the News That’s Fit to Print」というモットーで、「何を載せるか」の決定権を編集者が持つことを宣言した。

2026年2月4日、その決定権は完全にアルゴリズムに移譲された瞬間として、歴史に刻まれることになるだろう。


揺り戻しの兆候 — 群衆と透明性への模索

アルゴリズムによる支配が極限に達したとき、興味深い「揺り戻し」の動きが複数のプラットフォームで始まっている。

X (Twitter) の Community Notes — 群衆による編集判断

2021年、当時まだTwitterと呼ばれていたXは、「Birdwatch」という実験的機能を導入した。これが後に「Community Notes」と改名され、2023年にプラットフォーム全体に展開されることになる。

【仕組み】

  • ユーザーが誤解を招く可能性のある投稿に「文脈情報」を付与
  • アルゴリズムが「政治的に異なる立場のユーザー間で合意が得られた」ノートのみを表示
  • 投稿の削除や表示制限は行わず、情報を追加するのみ

これは「専門家の編集判断」から「群衆の編集判断」への転換を意味する。

研究によれば、Community Notesは従来の専門家によるファクトチェックよりも信頼度が高いと評価されている。政治的スペクトラムの両側から支持を得やすい構造だからだ。

しかし課題もある。NBCニュースの報道によると、2025年にはCommunity Notesへの投稿数が激減したという。カバレッジの不足が指摘されている。

Meta の方針大転換 — 専門家から群衆へ

そして2025年1月7日、Meta CEOのマーク・ザッカーバーグは衝撃的な発表を行った:

「ファクトチェッカーは政治的に偏っている。第三者ファクトチェックプログラムを終了し、Community Notesモデルに移行する」

Metaは2016年から第三者ファクトチェック機関と提携し、Facebook、Instagram、Threads上の誤情報に対応してきた。しかしザッカーバーグは、このアプローチが「検閲」として批判されてきたことを認め、方針転換を決断した。

2025年3月18日、Metaは米国でCommunity Notesのパブリックベータ版を開始した。現在、約20万人の潜在的貢献者が登録しているという。

出典: innovaTopia「Meta、ユーザー参加型のファクト検証機能『Community Notes』導入」

【批判的検証の結果】

ただし、この転換には懐疑的な見方もある。Washington Postの技術コラムニストが実際に65件のCommunity Notesを作成して検証したところ、「偽情報に対する影響はほとんどなかった」と報告している(2025年8月)。

群衆による編集判断は、専門家による判断よりも「公平」に見えるかもしれないが、有効性には疑問符がつく。

X のアルゴリズム公開宣言 — 透明性への挑戦

2026年1月10日、イーロン・マスクは新たな一手を打った:

「7日以内に、オーガニック投稿と広告投稿をレコメンドするすべてのコードをオープンソース化する。これを4週間ごとに繰り返し、包括的な開発者ノートとともに提供する」

これは「ブラックボックス化」への対抗策だ。アルゴリズムの判断基準を外部から検証可能にしようという試みである。

Xは2023年3月に初めてレコメンドアルゴリズムをGitHub上で公開していたが、専門家からは「コードの構造は見えても、モデルの重みやトレーニングデータが公開されていないため、真の透明性とは言えない」という批判が続いていた。

今回の発表で広告投稿のレコメンドコードも含まれるという点は、従来プラットフォームが企業秘密として保護してきた領域だ。これはSNS業界において前例のない透明性への一歩と言える。

出典: innovaTopia「Musk、Xのレコメンドアルゴリズム全公開を宣言」

ただし、過去の経験から慎重に見守る必要もある。コードが公開されても、それが本番環境で実際に動作しているコードと同一かどうか、検証は困難だ。

Google Preferred Sources — 権限の部分的返還

皮肉なことに、Googleもまた2025年8月、ユーザー自身が「信頼するメディア」を選べる「Preferred Sources」機能を米国とインドで導入した。

【仕組み】

  • ユーザーが「Top Stories」ボックスで優先表示したいニュースソースを選択
  • 設定は数クリックで完了
  • アルゴリズムランキングにユーザーの意思を反映

これは「アルゴリズム主導→ユーザー主導」への部分的な揺り戻しである。

出典: innovaTopia「Google新機能『Preferred Sources』|ニュース情報源を自分で選ぶ時代へ」

しかし、この機能には限界がある:

  • 機能するのは「Top Stories」セクションのみ
  • Google DiscoverやAI Overviewsには適用されない
  • メディア側の根本的な問題(トラフィック減少)は解決しない

Googleは「判断権をユーザーに返した」と言うが、実際には配信チャネルの支配権はGoogleが維持している。これは1897年の「紙媒体=自社保有」とは根本的に異なる構造だ。


未来の”Fit to Print” — 誰が価値判断を担うのか

127年前、アドルフ・オックスが提示した問いは、今も変わらない。

「誰が”印刷に値する”を決めるのか?」

しかし、その答えは時代とともに変わり続けている。

3つのシナリオ

現在、情報の価値判断をめぐって、3つの方向性が競合している。

シナリオ①「AI編集長」モデル — Constitutional AIの可能性

Anthropicなどが研究する「Constitutional AI」は、AIに人間の価値観や倫理基準を組み込む試みだ。

もし「何がFit to Printか」をAI自身が学習し、判断できるようになれば:

  • 人間の編集者よりも客観的で一貫した判断が可能
  • 24時間365日、膨大な量のコンテンツを処理できる
  • C2PA(Content Authenticity Initiative)のような技術標準と組み合わせれば、コンテンツの来歴証明も可能

課題: 誰が「倫理基準」を決めるのか? その基準自体が新たな権力の源泉になる。

シナリオ②「購読経済」への回帰 — 1897年型モデルの復活

The New York Timesは有料購読者1,000万人超を達成し、Substack、The Informationなど「直接課金」モデルも成功している。

これは本質的に1897年型モデルの復活だ:

  • 配信チャネルを自社保有(デジタル版)
  • アルゴリズムに依存しない直接的な読者関係
  • 「品質」に対価を払う読者層の存在

課題: これは一部のエリートメディアのみが生き残る構造を生む可能性がある。地域報道や調査報道を担う中小メディアは?

シナリオ③「信頼性経済」の台頭 — ブロックチェーン検証とTaaS

C2PAのようなコンテンツ来歴証明、Fact Protocolのようなブロックチェーン型ファクトチェック——これらは「検証済みコンテンツ」という新しい市場を生み出す可能性がある。

「Trust as a Service(TaaS)」ビジネスモデル:

  • コンテンツに暗号署名を付与
  • 編集履歴をブロックチェーンに記録
  • AI生成コンテンツに「栄養成分表示」的なラベル付与

課題: 技術標準の確立、コストの負担者、既存メディアとの統合方法。

読者への問い

これらのシナリオは、どれか1つが「正解」というわけではない。おそらく、複数のモデルが共存する未来になるだろう。

しかし、あなた自身に問いたい

あなたは誰に「Fit to Print」を決めてほしいですか?

  • ✅ 専門編集者(1897年型)
  • ✅ 検索アルゴリズム(Google型)
  • ✅ 群衆(Community Notes型)
  • ✅ AI(Constitutional AI型)
  • ✅ 自分自身(購読経済型)

利便性と質のトレードオフをどう考えますか?

  • Google Discoverは「読むべき記事」を自動で届けてくれる便利さがある
  • しかしその代償として、Washington Postは300人のジャーナリストを失った
  • あなたはこのトレードオフを受け入れますか?

「信頼のコスト」を誰が払うべきだと思いますか?

  • 調査報道、ファクトチェック、現地取材——これらには高額なコストがかかる
  • プラットフォーム企業か、広告主か、読者自身か、それとも社会全体か?

127年越しの問いは、今も答えを待っている

2026年2月10日(今日)に振り返る1897年2月10日は、単なるスローガン採用の記念日ではない。

「誰が”印刷に値する”を決めるのか」という127年越しの問いが、Washington Post 300人解雇(2026年2月4日)という形で再び突きつけられている。

あなたが今この記事を読んでいるデバイスで、次にどのニュースを読むかは、誰が決めていますか?

あなた自身ですか?
それとも、アルゴリズムですか?

その答えが、未来のジャーナリズムの形を決める。

【用語解説】

イエロージャーナリズム
1890年代の米国で流行した、誇張見出しや扇情的な内容で部数を伸ばす報道手法である。ウィリアム・ランドルフ・ハーストとジョセフ・ピュリッツァーの部数戦争が代表例。現代のクリックベイトやエンゲージメント至上主義のSNSアルゴリズムの原型と言える。

PageRank
Googleの検索エンジンが使用する、ウェブページの重要度を判定するアルゴリズムである。被リンク数と質を基に順位を決定する仕組みで、2000年代初頭から検索結果のランキングに大きな影響を与えてきた。

AI Overviews
Googleが2024年5月にローンチした機能で、検索結果の最上部にAI生成の要約を表示する。ユーザーは元のウェブサイトをクリックせずに回答を得られるため、メディアサイトへのトラフィック減少の主要因とされている。

ゼロクリック検索
検索エンジンで検索を行った後、どのウェブサイトのリンクもクリックせずに検索結果ページ内で完結する検索行動である。AI Overviewsの導入により、2024年5月の56%から2025年5月には69%へと急増した。

クリックスルーレート(CTR)
表示された検索結果やコンテンツに対して、実際にユーザーがクリックした割合を示す指標である。例えば100回表示されて5回クリックされた場合、CTRは5%となる。

オーガニック検索トラフィック
検索エンジンの検索結果から広告を経由せずに直接ウェブサイトに流入する訪問者数である。多くのメディアにとって最大の外部トラフィック源であり、通常は全体の20〜40%を占める。

Constitutional AI
Anthropicが研究開発する、AIに人間の価値観や倫理基準を組み込む手法である。人間のフィードバックではなく、明文化された原則(Constitution)に基づいてAIの振る舞いを調整する。従来の「ブラックボックス」的なAIに対し、透明性と説明可能性を高める試みとして注目されている。

C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)
デジタルコンテンツの来歴と真正性を証明するための技術標準を策定する国際団体である。Adobe、Microsoft、BBCなど500社以上が参加し、画像・動画・音声に暗号署名を埋め込むことで、編集履歴や生成元を追跡可能にする仕組みを推進している。

エコーチェンバー効果
同じ意見や価値観を持つ人々の間だけで情報が共有され、異なる意見に触れる機会が減少し、既存の考えが強化される現象である。SNSのアルゴリズムやGoogle Discoverのパーソナライズ機能が、この効果を助長する懸念が指摘されている。


【参考動画】

【参考リンク】

The New York Times
1851年創刊の米国日刊紙。1897年に「All the News That’s Fit to Print」をモットーとして採用し、品質重視の報道姿勢を確立した。現在は有料購読者1,000万人超を達成し、デジタル購読経済モデルの成功事例として知られる。

The Washington Post
1877年創刊の米国日刊紙。ウォーターゲート事件の報道で知られ、数十のピューリッツァー賞を受賞。2013年以来Amazon創業者ジェフ・ベゾスが所有。2026年2月4日に編集部門の約3分の1(300人以上)を解雇し、本記事で取り上げた象徴的事件となった。

C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)
デジタルコンテンツの来歴と真正性を証明する技術標準を策定する国際団体。Adobe、Microsoft、Intel、Arm、Truepicなど500社以上が参加し、Content Credentialsと呼ばれる暗号署名システムを推進している。

Content Authenticity Initiative (CAI)
2019年11月にAdobe、New York Times、Twitter(現X)によって設立された団体。C2PA標準の普及を目的とし、オープンソースツールや教育プログラムを提供。デジタルメディアの信頼性と透明性を高める国際的な運動を展開している。

NewzDash
ニュースパブリッシャー向けのリアルタイム分析プラットフォーム。Google検索、Google News、Google Discoverからのトラフィックを追跡し、SEO最適化を支援する。本記事で引用した「Web Search 51%→27%」などの調査データを提供した。

Reuters Institute for the Study of Journalism
オックスフォード大学に設置されたジャーナリズム研究機関。世界のメディア動向を調査し、年次「Digital News Report」を発行している。AI検索によるメディアトラフィック減少など、本記事のテーマに関連する研究を多数実施している。

Anthropic
AI安全性研究に特化した米国企業。対話型AI「Claude」を開発し、Constitutional AI(倫理原則を組み込んだAI)の研究で知られる。本記事で言及した「AIに価値判断を学習させる」技術的アプローチの先駆者である。

X Community Notes
X(旧Twitter)が提供するクラウドソース型ファクトチェック機能。2021年に「Birdwatch」として開始され、2023年に「Community Notes」に改名。政治的に異なる立場のユーザー間で合意されたノートのみを表示する独自のアルゴリズムを採用している。

Meta Community Notes
2025年1月にMetaが発表した、Facebook、Instagram、Threadsでのクラウドソース型コンテンツモデレーション機能。Xのオープンソースアルゴリズムを基盤とし、従来の第三者ファクトチェックプログラムに代わるものとして導入された。


【関連記事】

この記事で言及したinnovaTopia内の記事:


【編集部後記】

この記事を書いている間も、Google Discoverのアルゴリズムは世界中で動き続け、何千ものメディアのトラフィックを増減させている。

1897年、アドルフ・オックスが「All the News That’s Fit to Print」を掲げたとき、彼は自分の判断が読者に届くことを確信していた。紙という物理的な媒体が、その保証だった。

2026年の私たちには、その保証がない。

しかし、だからこそ問い続ける価値がある——「誰が決めるべきなのか」を。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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