Last Updated on 2025-02-10 18:39 by admin
元OculusのCTO、現在はKeen Technologies社のCTOであるJohn Carmack氏が、2025年2月7日にX(旧Twitter)でVR市場に関する重要な見解を示した。
「MetaのVR戦略について批判的な投稿をするたびに、古参のユーザーたちが『そうだ!AAA PCゲームこそが成功への道だ!』と言って集まってくるんだよね。はっきり言っておくけど、スタンドアロンVRこそがVR史上最大の成功を収めたんだ。その差は圧倒的だよ。そして、Beat SaberはHalf-Life: Alyxよりもはるかに重要な存在なんだ。
PCを使ってVR体験を提供するのは、ブティック的なニッチ市場なんだよ。価値はあるし、追加機能としてサポートする価値は確実にある。でも、コンソールレベルの成功には至らないし、モバイルレベルにはさらに遠い存在なんだ。
AAAゲーム開発の経済性を考えると、PCの周辺機器としてのVRに大規模な投資は見込めないんだよ。AAコンテンツの『VR追加機能』としての可能性はあるけど、完全なVR向け開発プロジェクトとして同等の努力は期待できないんだ」
市場の現状
Meta Quest製品は2020年10月のQuest 2発売以降、急速に市場を拡大し、2023年3月時点で累計販売台数約2,000万台を達成した。一方、PCベースVRの代表作Half-Life: Alyx(Valve社開発)の販売数は約300万本、Beat Saber(Beat Games社開発)のQuest版は1,000万ダウンロード以上を記録している。
VR開発の方向性
AAAゲーム開発には通常1タイトルあたり1億ドル以上の開発費が必要とされる中、VR向けの大規模開発は現状では採算が取れない。そのため、既存のAAA級ゲームにVR機能を追加する形での展開が現実的とされている。
from John Carmack: PC VR “A Boutique Niche”, Beat Saber “Far More Important Than Half-Life: Alyx”
【編集部解説】
「手軽さ」が切り開く新時代
Carmack氏の指摘は、VR業界における重要な転換点を示唆しています。PCベースVRが「ブティック的なニッチ市場」にとどまる一方、Quest製品の2,000万台という数字は、まさにプラットフォームとしての臨界点を超えつつあることを示しています。
メタバースプラットフォームとしての可能性
この流れは、メタバース構想にも大きな示唆を与えます。高性能なPCベースVRではなく、手軽なスタンドアロン型VRが普及の基盤となることで、より多くのユーザーがメタバース空間にアクセス可能になります。
コンテンツ戦略の転換
Beat SaberとHalf-Life: Alyxの対比は象徴的です。高度なグラフィックスや複雑な操作性よりも、直感的で手軽に楽しめるコンテンツが支持される傾向は、今後のメタバースコンテンツ開発にも大きな影響を与えるでしょう。
日本市場における展望
特に日本では、「手軽さ」と「品質」の両立という観点で、新たな可能性が開けます。例えば、バーチャルライブやソーシャルVRプラットフォームなど、日本発のコンテンツが世界市場で存在感を示す機会が増えると考えられます。
開発者エコシステムの変化
AAAゲーム開発の経済性の問題は、逆に小規模開発者にとってのチャンスとなります。技術的な制約がある分、創造性とゲームデザインの巧みさが重要になり、インディーデベロッパーの活躍の場が広がるでしょう。
プラットフォームビジネスの新展開
Quest製品の成功は、「ハードウェア」「プラットフォーム」「コンテンツ」の三位一体戦略の重要性を示しています。今後は特に、メタバース空間における経済圏の構築や、クリエイターエコノミーの確立が重要な課題となるでしょう。
未来への展望
2025年以降、VR市場はさらなる大衆化フェーズに入ると予測されます。その中で、日本独自のコンテンツ開発力と、メタバース空間における新しいビジネスモデルの創出が、グローバル市場における重要な差別化要因となる可能性があります。
私たちinnovaTopiaは、この変革期における新たなビジネスチャンスと、それがもたらす社会的インパクトについて、読者の皆様と共に考察を深めていきたいと考えています。
【用語解説】
John Carmack
id SoftwareやOculus VRの元CTO。DOOM、Quakeなどの革新的なゲームエンジンを開発した伝説的プログラマー。
スタンドアロン型VR
スマートフォンのように、本体だけで動作する完結型VRヘッドセット。パソコンのような外部機器が不要。
AAAゲーム(トリプルAゲーム)
大手ゲームパブリッシャーが大規模な予算(通常1億ドル以上)と開発チームを投じて制作する大型ゲームタイトルを指します。グラフィックスやゲーム性で最高水準を目指し、マーケティングにも多額の投資を行います。『Call of Duty』や『Grand Theft Auto』シリーズなどが代表例です。