ベルギーのルーヴァンに本社を置くSwave Photonics社が開発した革新的なホログラフィックディスプレイ技術「HXR(Holographic eXtended Reality)」の最新進展を報告する。
2025年1月、同社は次世代ARグラス向けの画期的なディスプレイ技術の量産化に向けた取り組みを加速させている。HXR技術は、相変化材料(PCM)を用いた新しいアプローチにより、従来のARグラスが抱える課題を解決する。
主な技術仕様
- 解像度:最大64ギガピクセル
- 視野角:最大120度
- 解像度密度:60ピクセル/度
- 輝度:2,000ニット以上
- ピクセルピッチ:300ナノメートル未満
- バッテリー駆動時間:10時間以上
- 想定重量:50グラム未満
- 部品コスト:片目あたり50ドル
from This breakthrough holographic display could make AR glasses a reality in 2026
【編集部解説】
ARグラスの歴史に、Swaveが革命的な一石を投じました。
従来のARグラスが抱えていた視野角の制限、重量、コストの問題。これらをHXR技術は相変化材料(PCM)という新アプローチで一気に解決しようとしています。
最大の特徴は300ナノメートル未満という驚異的な微細ピクセルピッチです。人間の目が認識できる光の波長の半分以下というこのサイズが、光の回折を利用した自然な3D表示を可能にしています。
さらに、従来のARデバイスで問題となっていた目の疲れや吐き気の原因、輻輳調節コンフリクト(VAC)も解決。人間の視覚系に合わせた自然な奥行き表現を実現しました。
ただし課題もあります。2024年5月に公開されたフルカラープロトタイプは2平面表示に限定されており、量産化に向けてはPCM材料の長期安定性や製造コストの最適化が必要です。
市場戦略も興味深いものとなっています。Swaveは自社製品を作らず、技術のライセンス供与に徹します。これにより既存AR/VRメーカーの参入障壁を下げ、市場全体の発展を促す狙いです。
応用範囲は広いものとなっています。ARグラスに限らず、車載ヘッドアップディスプレイや大型ボリューメトリックディスプレイにも展開可能です。特にAIと組み合わせたスペーシャルコンピューティングは、人とコンピュータの関係を一変させる可能性を秘めています。
もちろん、新技術には新たな課題も付きまといます。常時処理される高解像度の視覚情報をどう保護するのか。長時間使用による生体への影響はどうか。技術の進化に合わせた研究や規制の整備も欠かせません。
【用語解説】
- ホログラフィック・ディスプレイ
- 光の干渉を利用して立体映像を空間に投影する技術。従来の3D映像と異なり、特殊なメガネなしで自然な立体視が可能。
- 相変化材料(PCM)
- 電気的な刺激により結晶構造が変化する材料。DVD-RWなどの記録媒体にも使用されている技術を応用。
- 輻輳調節コンフリクト(VAC)
- 目の焦点距離と視線の交差位置が一致しないことで起こる違和感。従来のVR/ARの大きな課題の一つ。