Google、超低電力アイトラッキング技術のAdHawkを1億ドルで買収へ – XRデバイスの未来を変える革新技術

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Googleは超低電力アイトラッキング技術を開発するスタートアップ「AdHawk」を買収する最終交渉段階にあると、Bloombergが2025年3月に報じた。買収額は1億ドルで、特定のパフォーマンス目標達成時には追加で1500万ドルが支払われる予定だ。買収が成立すれば、AdHawkの従業員はGoogleのAndroid XRチームに加わる。

AdHawkの技術はMEMSマイクロミラーを使用して赤外線ビームを目に走査し、光センサーで反射光を測定するという革新的な方法を採用している。この技術により、有線接続時に250Hz、ワイヤレス時に500Hzという高更新レートでのアイトラッキングが可能で、レイテンシーも4ミリ秒と低く抑えられている。

精度は1度で、これはInseye Lumiの2度よりも優れているが、カメラベースのアイトラッキングの精度(10分の1度単位)には及ばない。この技術は将来の低コストAndroid XRヘッドセットやARグラスに適している可能性がある。

GoogleのAndroid XRプラットフォームは2025年後半にSamsungのスタンドアロンヘッドセットでデビューする予定だ。なお、2024年10月の報道によれば、Googleの本格的なARグラスはまだかなり先の話であり、同社は当面Samsungのよりシンプルなスマートグラスのサポートに注力しているとのことだ。

from Google Set To Acquire Ultra-Low-Power Eye Tracking Startup For Headsets & Glasses

【編集部解説】

GoogleがカナダのアイトラッキングスタートアップAdHawk Microsystemsを買収する最終段階にあるというニュースは、XR(拡張現実・仮想現実)業界において重要な動きです。複数の報道によれば、この買収額は1億ドルから1億1500万ドルの間とされており、パフォーマンス目標達成時には追加で1500万ドルが支払われる予定です。

AdHawk Microsystemsは2017年に設立された企業で、従来のカメラベースのアイトラッキングとは一線を画す技術を開発しています。同社の技術の最大の特徴は、MEMSマイクロミラー(微小電気機械システム)を使用した超低電力のアイトラッキングシステムにあります。

従来のアイトラッキングシステムは、目に向けられた複数のカメラと赤外線イルミネーターを使用し、コンピュータービジョンアルゴリズムで瞳孔の位置や大きさを分析するという方法を採用していました。しかし、この方法は電力消費、計算処理能力、部品コストの面で非効率でした。

一方、AdHawkのシステムは、MEMSマイクロミラーを使って赤外線ビームを目に素早く走査し、シンプルで安価な光センサーで反射光の強度を測定するという革新的な手法を採用しています。この技術により、有線接続時に250Hz、ワイヤレス時に500Hzという高更新レートでのアイトラッキングが可能になり、レイテンシーも4ミリ秒と非常に低く抑えられています。

この買収は、Googleの拡張現実(AR)および仮想現実(VR)戦略において重要な意味を持ちます。Googleは2023年にGoogle Enterprise用スマートグラスの販売を中止しましたが、今回の買収はスマートグラス市場への再参入を示唆しています。

特に注目すべきは、AdHawkの技術がもたらす低電力化の可能性です。XRデバイスの課題の一つはバッテリー持続時間ですが、AdHawkの技術はこの問題の解決に貢献する可能性があります。また、部品点数の削減によるコスト低減も期待でき、より手頃な価格のXRデバイスの実現につながるかもしれません。

Googleは今年後半にSamsungと共同でAndroid XRプラットフォームを搭載したスタンドアロンヘッドセットを発表する予定です。AdHawkの技術がこのヘッドセットに直接採用されるかどうかは不明ですが、将来的なXRデバイスへの統合は十分考えられます。

アイトラッキング技術はXRデバイスにおいて非常に重要な役割を果たします。例えば、フォーベイテッドレンダリング(ユーザーが見ている部分のみを高解像度でレンダリングする技術)を可能にし、処理負荷とエネルギー消費を大幅に削減できます。また、視線によるインターフェース操作や、仮想空間でのアバターの自然な目の動きの再現なども実現します。

AdHawkの技術は精度では従来のカメラベースシステムに劣るものの、その低電力・高更新レート特性から、特に長時間使用を想定したARグラスなどに適していると考えられます。インターフェース要素を大きめにするなどの工夫で精度の問題を補えば、実用的なシステムとなるでしょう。

この買収は、AppleのVision Proの発売やMetaのQuest 3の成功など、XR市場が活性化する中での動きであり、Googleが本格的にこの分野に参入する意思を示すものと言えます。今後のGoogleのXR戦略、特にスマートグラスの開発動向に注目していく必要があるでしょう。

【参考用語】

MEMSマイクロミラー
MEMSとは「Micro Electro Mechanical Systems」の略で、微小な電気機械システムのことです。MEMSマイクロミラーは、半導体製造技術を使って作られた極小の可動式ミラーで、電気信号によって動きを制御できます。スマートフォンのカメラ手ぶれ補正やプロジェクターなどにも使われている技術です。

フォービエイテッドレンダリング
人間の目の特性を活かした描画技術で、視線が向いている部分だけを高解像度で描画し、周辺視野は低解像度にすることで処理負荷を大幅に削減します。これは人間の目が中心視野は鮮明に見えるが周辺視野はぼやけて見えるという特性を利用しています。例えるなら、スポットライトが当たっている部分だけを詳細に描き、周囲は簡略化して描くようなものです。

アイトラッキング技術
人の視線の動きをリアルタイムに追跡する技術です。従来は目に向けたカメラと赤外線を使用して瞳孔の位置や大きさを分析していましたが、AdHawkの技術はMEMSマイクロミラーを使って赤外線ビームを目に走査し、反射光を測定するという革新的な方法を採用しています。

Android XR
Googleが開発したXR(拡張現実・仮想現実)向けの新しいオペレーティングシステムです。既存のAndroidをベースにしており、2025年内にSamsungのヘッドセットで初めて搭載される予定です。

【参考リンク】

AdHawk Microsystems(外部)MEMSベースの革新的なアイトラッキング技術を開発するカナダの企業。低電力・高速・小型のアイトラッキングソリューションを提供。

Google Android XR(外部)GoogleのXRデバイス向けプラットフォーム。開発者向けの情報やSDKを提供している。

Samsung Electronics(外部)Android XRを搭載したヘッドセットを2025年に発売予定。

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