ノルウェーのVR開発スタジオBreachが、心理ホラーゲーム『FYR: The Lost Island』のプリクエルデモを2025年5月26日にSteam上で無料配信を開始した。
本作は、PCVRを利用するユーザーをターゲットに制作された心理ホラーゲームであり、プレイヤーはノルウェーの島民である漁師のハンスの視点で物語を進めていく。ハンスは故郷に帰るが、島にはフードを被った謎の存在が徘徊しており、町は無人で活気も無く、かつての面影はなかった。今回配信されたプリクエルデモでは本編の前日譚として扱われており、島に降りかかった謎を覗き込む。といったストーリーが展開される。
from: Psychological Horror Game FYR: The Lost Island Gets Prequel Demo On Steam | UploadVR
【編集部解説】
今回のBreachによる『FYR: The Lost Island』デモリリースは、VRホラーゲーム市場において新たな潮流を生み出す可能性を秘めていると注目されています。。これまでVRホラーは技術的制約から短時間の体験や単発的な驚かしに留まることが多かったのですが、本作は物理演算とインタラクション技術を活用した本格的な体験を目指している点が注目されます。
特に興味深いのは、開発スタジオBreachの背景です。同社はノルウェーのトロンハイムに拠点を置くXR専門スタジオで、公開情報によるとこれまで受託開発、オーダーメイドを中心に事業を展開してきました。今回の自社IPへの挑戦は、VR業界における開発スタジオの事業モデル転換の一例として捉えることができるでしょう。
注目すべきは、「ルモグラフ」と呼ばれるゲームシステムです。開発者チームの説明によると、光を使って過去の記憶や出来事を可視化する仕組みであり、従来のVRゲームにありがちな単純な謎解きを超えた没入感のある体験を実現しています。Unreal Engineベースの物理演算エンジンと組み合わせることで、プレイヤーの行動がゲーム世界に直接的な影響を与える設計となっており、VRならではの体験価値を追求していることが分かります。
市場への影響という観点では、PCVRエクスクルーシブという開発方針が重要な意味を持ちます。現時点ではMeta QuestシリーズやPSVR2への展開を見送り、ハイエンドPC環境に特化することで、VRゲームの技術的可能性を最大限に引き出そうとする姿勢は、業界全体の品質向上に寄与する可能性があると考えられます。
一方で、PCVRユーザーベースの限定性という課題も存在します。Steamの最新統計によるとSteam VRユーザー数は全体のゲーマー人口と比較すると依然として小規模であり、開発コストの回収や持続的な事業展開といった不安要素も残ります。
長期的な視点では、本作のような高品質なVRコンテンツの登場が、VR市場全体の成熟度向上に寄与することが期待されます。特にナラティブホラーというジャンルは、VRの没入感と相性が良く、新たなエンターテインメント体験の創出につながる可能性を秘めています。
【用語解説】
PCVR(PC Virtual Reality):
パソコンに接続して使用するVRヘッドセットの総称。Meta Quest等のスタンドアロン型と比較して、より高画質で複雑な処理が可能。
ルモグラフ(Lumographs):
『FYR: The Lost Island』独自のゲームシステム。光を使って過去の記憶や出来事を可視化する幽霊のような残響現象。
OpenXR:
VRプラットフォーム間の互換性を実現するオープンスタンダード。異なるVRヘッドセットで同じゲームをプレイ可能にする技術仕様。
ステルスホラー:
敵から隠れながら進行するホラーゲームのジャンル。戦闘よりも回避と探索に重点を置く。
XR技術:
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を総称した次世代没入技術の呼称。
【参考リンク】
Breach公式サイト(外部)
ノルウェー・トロンハイムに拠点を置くXR専門開発スタジオ。VR、AR、MRプラットフォーム向けの研究開発とゲーム制作を手がける。
FYR: The Lost Island Steam公式ページ(外部)
『FYR: The Lost Island』の公式Steamストアページ。ゲーム詳細、システム要件、ウィッシュリスト登録が可能。
FYR: The Lost Island デモ Steam公式ページ(外部)
『FYR: The Lost Island』プリクエルデモの公式Steamページ。無料でダウンロード可能。
FYR: The Lost Island プレスキット(外部)
開発元Breachが提供する公式プレスキット。ゲームの詳細情報、開発背景、メディア向け素材を包括的に掲載。
【参考動画】
【参考記事】
FYR: The Lost Island Gets a Prequel Demo | XR Source
FYR: The Lost Island | SteamDB
FYR: The Lost Island Press Kit | Notion
【編集部後記】
『ホラー』というジャンルと『VR』という媒体は非常に相性がよく、モニターで見るよりも断然臨場感が増します。筆者もVRでのホラーを経験したことがありますが、『物を手に取って調べる』というアクションをベースに『ジャンプスケアによる突然のビックリ』『物を調べ終わると不気味な存在が現れる』というようなパターンがほとんどでした。逆を言えばVRを使用してのホラーはVRを生かし切れていない状態であるとも言えます。そこに一石を投じたのが本ゲームであり、『ルモグラフ』というゲームシステムをVRでどう生かすか、どれほどの没入感をプレイヤーに与えられるか。といった点が注目すべき点であると思われます。