Last Updated on 2025-06-02 15:51 by admin
VR市場の逆風が続く今だからこそ、Pimaxの革新に注目すべきだ。テザード型VRが50%減の大打撃を受ける中、同社の「レティナレベル」超高解像度と交換可能な光学エンジンは、PCVR市場の年平均28.2%成長を牽引する注目技術として業界の視線を集めている。
VR業界のイノベーターであるPimax社は、2025年1月に米国ラスベガスで開催されたCES 2025において、新型VRヘッドセット「Pimax Crystal Super」および「Pimax Crystal Light」、そしてワイヤレスPCVRモジュール「Pimax 60G Airlink」を発表した。
Pimax Crystal Super
Crystal Superは、「レティナ(網膜)レベル」を謳う超高解像度VRヘッドセットである。主な特徴は以下の通り。
- 解像度: 片目3840×3840ピクセル。
- ピクセル密度 (PPD): QLED 57PPDモデルと、QLED 50PPDモデルが存在する。
- 視野角 (FOV): QLED 57PPDモデルで水平120度、QLED 50PPDモデルで水平135度。
- ディスプレイ: QLED+ミニLED(ローカルディミング対応)。将来的にはマイクロOLEDオプションも提供予定。
- 光学エンジン交換システム: 世界初となる、ディスプレイとレンズを含む光学エンジンをユーザーが交換可能なシステムを採用。
- アイトラッキング: 搭載(自動IPD調整、ダイナミックフォービエイテッドレンダリング対応)。
- トラッキング: インサイドアウトトラッキング。オプションでLighthouseフェイスプレートに対応。
- 接続: PCVR専用(バッテリー非搭載)。
- 価格: QLED 57PPDモデルの総額は1,684.39ドルから。ベース価格799ドルに、24ヶ月の「Pimax Prime」サブスクリプション(月額40.99ドル)または一括払い885.39ドルが加わる。
Pimax Crystal Light
Crystal Lightは、Pimax Crystalの主要スペックを継承しつつ、一部機能を省略することで価格を抑えたPCVR特化モデルである。
- 解像度: 片目2880×2880ピクセル。
- リフレッシュレート: 最大120Hz。
- レンズ: ガラス非球面レンズ。
- 特徴: バッテリー、XR2プロセッサ、アイトラッキング、ダイナミックフォービエイテッドレンダリング機能を非搭載とすることで軽量化と低価格化を実現。固定フォービエイテッドレンダリングはサポート。
- 価格: 699米ドルから。
Pimax 60G Airlink
60G Airlinkは、WiGig技術を利用して高忠実度なワイヤレスPCVR体験を提供するモジュールである。
- 対応機種: Pimax CrystalおよびCrystal Simヘッドセット専用。Crystal SuperおよびCrystal Lightには非対応。
- 解像度・リフレッシュレート: 片目2880×2880ピクセルを90Hzでサポート。
- 特徴: 低遅延、最小限の圧縮で高品質なワイヤレス伝送を目指す。
- 価格: 299米ドル。
Pimax社は、これらの新製品投入により、ハイエンドからミドルレンジまでのPCVR市場における選択肢を拡大し、ユーザーに多様なVR体験を提供することを目指している。
from:
Pimax Reveals Two New High-End VR Headsets | VRlowdown
【編集部解説】
Pimax社がCES 2025で発表した新製品群は、VR体験の質を押し上げようとする同社の野心的な姿勢を示すものです。特にフラッグシップモデル「Pimax Crystal Super」は、その名の通り「レティナ(網膜)レベル」と称される圧倒的な映像体験の提供を目指しています。
Crystal Super:究極の画質とカスタマイズ性
Crystal Superの注目すべき点は、片目3840×3840ピクセルという驚異的な解像度と、最大57PPD(ピクセル毎度)という非常に高いピクセル密度です。これにより、VR空間内の微細なディテールまで鮮明に表示され、文字の可読性も飛躍的に向上するため、フライトシミュレーターやデザイン業務など、高い視認性が求められる用途での活躍が期待されます。視野角もQLED 57PPDモデルで水平120度、50PPDモデルでは水平135度と広く、没入感を高めます。
さらに革新的なのが、世界初となる「交換可能な光学エンジンシステム」の採用です。ユーザーは、QLEDパネルと将来的にはマイクロOLEDパネルを、レンズごと容易に交換できます。QLEDは高輝度(ピーク輝度280ニト)と広色域、マイクロOLEDは高コントラストと深い黒表現が特徴であり、用途や好みに合わせて最適なディスプレイを選択できるという、これまでにない柔軟性が魅力です。レンズには歪みを抑えたガラス非球面レンズが採用されています。
アイトラッキング機能も搭載し、自動IPD調整やダイナミックフォービエイテッドレンダリングに対応しており、快適性とパフォーマンスの両立を図っています。MR(複合現実)機能も将来的にオプションのフェイスプレートで対応予定です。
価格体系はユニークで、ベース価格799ドルに加えて「Pimax Prime」というサブスクリプション型の支払い(月額または一括)が設定されています。これにより初期費用を抑えつつ、高性能ヘッドセットを手に入れることができます。ただし、最高の体験を得るためには、NVIDIA GeForce RTX 20シリーズ以上、推奨はRTX 4090やRTX 5090クラスの高性能なPCが求められる点に注意が必要です。
Crystal Superは、以前のCrystalモデルと比較して軽量化も図られていますが、それでも一定の重量感はあるでしょう。装着感については改善が試みられていますが、長時間の使用における快適性は個人差が出やすい部分です。また、初期のデモ機では自動IPD調整の不具合や色の過飽和、オーディオ品質に関する指摘もありましたが、Pimaxはこれらの改善に取り組んでいます。コントローラーのトラッキング精度は、競合製品と比較して改善の余地があるとの声も聞かれます。輝度ムラや色収差の程度も、個々の製品やユーザーの感度によって評価が分かれる可能性があります。
Crystal Light:高性能PCVRへの入り口を広げる
「Pimax Crystal Light」は、Crystal Superほどの最高スペックは求めないものの、高品質なPCVR体験をより手頃な価格で実現したいユーザー向けのモデルです。解像度は片目2880×2880ピクセルと依然として高精細で、多くのPCVRゲームやアプリケーションで十分な没入感を得られます。アイトラッキングやスタンドアロン機能を省略することでコストを抑え、軽量化も実現しています。
60G Airlink:ケーブルからの解放、ただしCrystal専用
「Pimax 60G Airlink」は、WiGig技術(60GHz帯無線通信)を利用し、Pimax Crystal(オリジナルモデル)をワイヤレス化するモジュールです。片目2880×2880ピクセルの解像度を90Hzで、低遅延かつ圧縮を最小限に抑えて伝送することを目指しており、ケーブルの煩わしさから解放された自由なVR体験を可能にします。重要な点として、このAirlinkモジュールはPimax CrystalおよびCrystal Simヘッドセット専用であり、Crystal SuperやCrystal Lightには対応していません。これは、SuperとLightがバッテリーを内蔵していないためです。
Pimax製品とVR市場の展望
Pimax社は、これまでも野心的なスペックの製品を市場に投入してきましたが、過去には発表から実際の出荷までに時間がかかったり、初期品質に課題が見られたりしたこともありました。しかし、同社は継続的に製品改善とサポート体制の強化に努めており、最近の資金調達成功もその一助となるでしょう。
Crystal Superのような超ハイエンド製品の登場は、VR技術の限界を押し広げる一方で、アイトラッキングなどが収集する個人データのプライバシー保護といった課題も提起します。ユーザーは技術の進歩を享受するとともに、こうした側面にも注意を払う必要があります。また、米中間の貿易摩擦による関税が最終的な製品価格に影響を与える可能性も考慮に入れるべきでしょう。
Pimaxの最新ラインナップは、PCVR市場においてさらなる高画質化と多様な選択肢を求める動きを加速させることになりそうです。特にCrystal Superのモジュール設計は、将来的な技術進化にも柔軟に対応できる可能性を秘めており、VRハードウェアの一つの方向性を示すものと言えるかもしれません。
【編集部追記】
Pimaxについては改めて、どんな企業なのか紹介したいと思います。
Pimax Innovation Inc.は、2015年11月に設立された、VRハードウェア製品に特化した中国の技術企業です。本社は上海にあり、日本ではAppleやMetaほど知名度が高くありませんが、VR業界では「技術革新のトップランナー」として重要な地位を占めています。
創業者兼CEOのRobin Weng(翁志斌)氏は、VRハードウェアエンジニアリングの専門家で、BYD(2007-2012年)でチーフエンジニア、GTK(2012-2014年)でR&Dディレクターを務めた経験を持ちます。90年代後半にオンラインゲームコミュニティに没頭した経験から、バーチャル世界の可能性に魅了され、現実と仮想の境界を曖昧にすることを目標にPimaxを設立しました。「人間の自然な視覚に限りなく近づけること」「高性能MRによる仮想と現実の融合」を将来ビジョンとして掲げています。
ユーザー共創のアプローチ
他社とは異なり、製品開発の早期段階からロードショーや展示会でユーザーからの直接フィードバックを収集し、オンラインコミュニティやベータテストを通じて継続的に改善を行う「ユーザーとの共創」を企業理念としています。
「世界初」へのチャレンジ精神
2016年、Pimax 4Kで世界初の商用4K解像度VRヘッドセットを発売。CES 2016でアジア最優秀VR製品賞を受賞しました。その後も:
・世界初の8K解像度VRヘッドセット
・世界初の200度視野角VRヘッドセット
・世界初のガラスレンズ採用VRヘッドセット
など、常に業界の技術的限界に挑戦し続けています。
ハイエンドPCVR市場に特化し、圧倒的なスペック追求
解像度:Vision 8K Xは世界初の消費者向けデュアルネイティブ4K VRヘッドセット
視野角:200度という超広視野角を実現
互換性:SteamVRとOculusソフトウェアの両方に対応
プロフェッショナルユーザー(シミュレーション、設計業務)とVRエンスージアストに焦点を当て、フライトシミュレーターやレーシングシミュレーターの愛好家に特に人気があります。
特許・知的財産
15件の特許、6件の商標、9件のソフトウェア著作権を保有し、10年以上のVR・AR技術研究の蓄積があります。
Pimaxは、大手が敬遠する「技術的に困難だが革新的」な領域に果敢に挑戦し続ける、VR業界の技術革新リーダーです。日本での知名度は低いものの、VRの技術的可能性を追求する姿勢は、業界全体の発展に大きく貢献している重要な企業と言えるでしょう。
【用語解説】
QLED (Quantum Dot Light Emitting Diode):
量子ドット技術を利用したディスプレイ。バックライトの光を受け量子ドットが特定の色を高純度で発光し、広色域・高輝度を実現する。主に液晶ディスプレイに利用される。
Micro-OLED (Micro Organic Light Emitting Diode):
シリコン基板上に形成される超小型・超高精細な有機ELディスプレイ。高ピクセル密度、高コントラスト、高速応答性、低消費電力が特徴。AR/VRデバイスに適する。
FOV (Field of View):
視野角。VRヘッドセットではユーザーが見渡せる映像範囲の広さ。広いほど没入感が増す。Pimax Crystal SuperではQLED 57PPDモデルで水平120度、QLED 50PPDモデルで水平135度。
PPD (Pixels Per Degree):
視野角1度あたりのピクセル数。高いほど映像がきめ細かくなる。Pimax Crystal Superは最大57PPDを謳う。
IPD (Interpupillary Distance):
瞳孔間距離。左右の瞳の中心間の距離。VRではクリアな立体視のため調整が重要。Crystal Superは自動調整に対応。
ダイナミックフォービエイテッドレンダリング (Dynamic Foveated Rendering):
アイトラッキングでユーザーの視線中心を高解像度、周辺を低解像度で描画し、GPU負荷を軽減する技術。
固定フォービエイテッドレンダリング (Fixed Foveated Rendering):
画面中心を常に高解像度、周辺を低解像度で描画する技術。アイトラッキング不要。
インサイドアウトトラッキング (Inside-out Tracking):
ヘッドセット本体のカメラ等で自己位置やコントローラーを追跡する技術。外部センサー不要。
Lighthouseトラッキング (Lighthouse Tracking):
Valve社開発の外部ベースステーションを用いる高精度VRトラッキングシステム。Crystal Superはオプションで対応。
WiGig (Wireless Gigabit):
60GHz帯の電波を利用する高速無線通信規格(IEEE 802.11ad)。大容量データ伝送に適し、低遅延VRに利用される。
XR2チップ (Qualcomm Snapdragon XR2 Platform):
クアルコム製のXRデバイス向けハイエンドプロセッサ。Pimax Crystal(オリジナル)に搭載。Crystal Super/Lightには非搭載。
パンケーキレンズ (Pancake Lens):
複数のレンズ素子と偏光技術で薄型化を実現したレンズ。VRヘッドセットの小型軽量化に貢献。
非球面レンズ (Aspheric Lens):
少なくとも一面が球面でないレンズ。球面収差等を効果的に補正しシャープな像質を実現。Crystal Superに採用。
ミニLED (Mini-LED):
微細なLEDチップを高密度にバックライトとして使用する技術。ローカルディミングと組み合わせ高コントラストを実現。Crystal SuperのQLEDモデルに採用。
ローカルディミング (Local Dimming):
バックライトを複数ゾーンに分割し輝度を個別に制御、コントラストを高める技術。
CES (Consumer Electronics Show):
毎年1月に米国ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市。
VAT (Value Added Tax):
付加価値税。商品の販売やサービス提供の各段階で課される間接税。
MR (Mixed Reality):
複合現実。現実空間と仮想空間を融合させ、相互に影響し合う情報を提示する技術。Crystal Superは将来的にMRフェイスプレートで対応予定。
レティナディスプレイ (Retina Display):
Apple社が定義した高精細ディスプレイの呼称。人間の網膜では個々のピクセルを識別できないほど高密度であることを意味する。Pimax Crystal Superも「レティナレベル」を謳う。
【参考リンク】
Pimax公式サイト(外部)
VRヘッドセットメーカーPimaxの公式サイト。製品情報、ニュース、サポート、グローバルストアへのリンクなどを提供している。(日本語サイトは こちら )
Pimax Crystal Super 製品情報(外部)
PimaxのフラッグシップVRヘッドセット『Crystal Super』の製品ページ。スペック、特徴、価格体系(Pimax Prime含む)などが詳細に記載されている。
Pimax 60G Airlink 製品情報(外部)
Pimax Crystal(オリジナル)をワイヤレス化する『60G Airlink』モジュールの製品ページ。対応機種、スペック、価格、出荷予定などが確認できる。
Pimax Crystal Light 製品情報(外部)
『Pimax Crystal』の主要スペックを継承しつつ価格を抑えたPCVRヘッドセット『Crystal Light』の製品ページ。(実際のURLを確認する必要あり)
【参考動画】
【参考記事】
Pimax Crystal Super VR Headset Retina Clarity & Modular Design | Geeky Gadgets
Sync FAQ: Crystal Super, Light, 60G Airlink, Prime, and 12K Trade-in | Pimax Official Blog
Pimax Announces Crystal Super and Crystal Light, 60G Airlink | FS Elite
【編集部後記】
医療や軍事、運転シミュレーターやゲームなど……、VRは様々な場面で活躍しており高いポテンシャルと注目を秘めております。VRがもたらす映像や操作感がリアルであればリアルであるほどその世界に没入しやすく、運転の事故や防災訓練、予行練習などが安全かつ高い質で行うことが可能です。そういった点から最先端の技術がVRに集められています。筆者は本記事を執筆している間に既視感がありました。それは携帯電話やパソコンの進化と似ている点です。携帯電話ガラパゴスからスマートフォンへ。パソコンはより情報処理やツールの発展により多様な活用法を獲得したり……など操作感やシルエットが変わり現代に浸透していきました。VRも後々は形や新たな用途が見つかっていくのではないかと、未来の技術力に期待を高められる。そんな気持ちにさせる製品発表でした。