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ーTech for Human Evolutionー

『Quantum Threshold』車椅子戦闘システムで実現する、制約を力に変えるVRアクセシビリティデザイン

 - innovaTopia - (イノベトピア)

フィンランドのインディーゲーム開発スタジオであるヴァキ・ゲームズが開発したVRローグライクシューター『Quantum Threshold』について、車椅子を武器として使用する独特なゲームプレイと、アクセシビリティに配慮した座位専用VR体験が注目されている。

ヴァキ・ゲームズが開発した『Quantum Threshold』は、5月22日(現地時間、日本時間5月22日)にMeta Quest プラットフォームおよびPC VRで正式リリースされた。このゲームは座位専用のVRローグライクシューターとして設計されており、プレイヤーは車椅子に乗った生存者として、ローグAI「テクノ・レイス」に支配されたポストアポカリプティックなサイバーパンク世界を舞台に戦闘を繰り広げる。

ゲームの最大の特徴は、アップグレード可能な車椅子を移動手段と武器の両方として使用することである。プレイヤーは車椅子を操作しながら武器を扱う必要があり、従来のFPSとは異なる戦略的アプローチが求められる。各プレイセッションは30分から40分程度で設計されており、ローグライク要素により毎回異なる戦利品、敵、チャレンジが生成される。

死亡時にはハブワールドに戻り、獲得したクレジットを使用して武器と車椅子のアップグレードが可能である。ゲームは『Risk of Rain 2』や『Left 4 Dead』からインスピレーションを得た「ゲームブレイキング」な武器とモジュールのアンロックシステムを採用している。

ヴァキ・ゲームズのクリエイティブディレクターであるテーム・ユルキネンは、「座位VRが同じアドレナリンラッシュを提供できることを証明したかった。車椅子は制限ではなく、最大の武器である」と述べている。

ゲームはMeta Quest 2、Quest 3に対応しており、価格は18.99ポンドで販売されている。また、PC VRでもプレイ可能である。視覚的にはセルシェーディング・グラフィックスを採用し、Quest 3で良好な奥行き感とスケール感を提供している。

from:
 - innovaTopia - (イノベトピア)Quantum Threshold Hands-On: Blending Accessibility With Intense Roguelike VR Combat | UploadVR

【編集部解説】

『Quantum Threshold』の登場は、VR業界におけるアクセシビリティの概念を根本的に変える可能性を秘めています。これまでVRゲームの多くは立位プレイを前提として設計されており、車椅子ユーザーや身体的制約のあるプレイヤーは「対応モード」として後付けで考慮される存在でした。しかし本作は、座位プレイを制約ではなく戦略的要素として昇華させた点で画期的です。

従来のFPSゲームでは、素早いストレイフ移動や360度の視点変更が当たり前でしたが、車椅子を操作手段とすることで、プレイヤーは限られた機動性の中で戦術を練り直す必要があります。

技術的な観点から見ると、Meta Quest 2との互換性を保ちながらQuest 3の性能を活用するバランス調整は、多くのVR開発者が直面する課題でもあります。セルシェーディングによる視覚表現は、リアリスティックなグラフィックスよりも軽量でありながら、サイバーパンクの世界観を効果的に演出しています。

ローグライク要素の実装も巧妙です。30分から40分という比較的短いセッション時間は、VR酔いを避けながら集中力を維持できる適切な長さといえるでしょう。永続的な進歩システムは、プレイヤーのモチベーション維持に寄与し、『Risk of Rain 2』や『Left 4 Dead』からインスピレーションを得た「ゲームブレイキング」な武器システムは、パワーファンタジーの実現を可能にしています。

このゲームが業界に与える影響は多岐にわたります。まず、アクセシビリティを「特別な配慮」ではなく「デザインの核心」として位置づけることで、インクルーシブデザインの新たな可能性を示しています。また、座位VRの市場拡大により、高齢者や身体的制約のあるユーザー層への訴求力が高まることが期待されます。

長期的な視点では、『Quantum Threshold』の成功は、VR業界全体のアクセシビリティ基準向上につながる可能性があります。Meta Questプラットフォームでの展開により、より多くの開発者がインクルーシブデザインの重要性を認識し、多様なプレイヤーのニーズに応える作品が増加することが期待されます。

【用語解説】

ローグライク:1980年のゲーム『ROGUE』に由来するゲームジャンル。ダンジョンやマップがランダム生成され、死亡時にレベルがリセットされる高難易度設計が特徴。毎回異なるプレイ体験が楽しめる。

テクノ・レイス:『Quantum Threshold』に登場するローグAI敵キャラクター。ポストアポカリプティックな世界を支配し、プレイヤーの車椅子サバイバーと敵対する存在として設定されている。

セルシェーディング:3Dグラフィックスをアニメ調の平面的な表現で描画する技術。リアリスティックな表現よりも軽量でありながら、独特の視覚的魅力を持つ。モバイルVRでの最適化にも適している。

ゲームブレイキング:ゲームバランスを意図的に破綻させるほど強力な武器やアイテムのこと。『Risk of Rain 2』などのローグライクゲームで、プレイヤーに圧倒的な力を与える設計手法として使用される。

【参考リンク】

Vaki Games公式サイト(外部)フィンランド・ヨエンスーを拠点とするインディーゲーム開発スタジオ。革新的で没入感のあるVRゲーム体験の創造を目指し、『Quantum Threshold』などを開発している。

Meta Store – Quantum Threshold(外部)『Quantum Threshold』のMeta Store公式ページ。ゲームの詳細情報、価格(£18.99)、対応プラットフォーム、リリース情報などが掲載されている。

【参考動画】

【参考記事】

VR Roguelike Quantum Threshold Makes Your Wheelchair Your Greatest Strength | UploadVR
ヴァキ・ゲームズによる車椅子を武器とするアクセシビリティ重視のVRローグライクシューター発表記事。開発コンセプトとゲームの特徴を詳しく紹介。

Quantum Threshold Blasts onto Meta Quest Soon | XR Source
フィンランドのインディーチームによる座位プレイ専用VRシューターの発表記事。ゲームの主要機能、リリース予定、開発者コメントなどを掲載。

【編集部後記】

『Quantum Threshold』の体験レポートを読んでいると、VRが単なるエンターテインメントを超えて、社会の認識を変える力を持っていることを改めて実感します。車椅子を「制約」ではなく「最強の武器」として描くこのゲームは、私たちの固定観念を根底から覆してくれました。テクノロジーが人間の可能性を拡張する瞬間を目撃している気分です。フィンランドの小さなスタジオが生み出したこの革新が、やがて世界中のVR開発者に影響を与え、より多様で包括的なデジタル世界の扉を開いてくれることでしょう。未来のゲーム業界が、すべての人にとってアクセシブルな場所になる日が楽しみでなりません。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
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