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Disney・A24がMeta独占VRコンテンツ制作交渉中|「Loma」ヘッドセットでApple Vision Pro対抗戦略が本格化

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Metaが『ディズニー』やA24などのハリウッド企業に対し、2026年発売予定の新型VRヘッドセット向けの独占イマーシブビデオコンテンツ制作のため数百万ドルの資金提供を申し出ている。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が6月4日(現地時間、日本時間6月5日)に報じたところによると、マーク・ザッカーバーグ率いるMetaは『ディズニー』やA24を含む複数のエンターテインメント企業および中小規模の制作会社と交渉を行っており、よく知られた知的財産に基づくエピソード形式およびスタンドアロンのイマーシブビデオの制作を求めている。この取り組みは、Metaが2026年に発売予定の新型VRヘッドセットへのユーザー獲得を目的としており、Apple Vision Proとの競争において差別化を図る戦略である。

新型ヘッドセットはコードネーム「Loma」で呼ばれ、超軽量設計でテザード式のコンピュートパックを備え、価格は1000ドル未満に設定される予定である。このデバイスは従来のQuestシリーズとは大きく異なる眼鏡のような外観を持ち、重量は110グラム未満で、視線追跡機能による視線とピンチ操作に対応する。Quest 3の499ドルとApple Vision Proの3499ドルの中間価格帯を狙った戦略的位置づけとなっている。

制作されるイマーシブビデオコンテンツはMetaの独占となるが、一定期間の独占期間後には制作者が他のプラットフォームでも販売可能になる。このコンテンツは新型ヘッドセットだけでなく、同じHorizon OSを搭載する既存のQuestヘッドセットでも視聴できる予定である。

この報道は、Metaとジェームズ・キャメロンがQuestヘッドセット向けの3Dビデオコンテンツ拡充を目的とした独占的複数年パートナーシップを2024年12月5日に発表してから約6ヶ月後に出てきた。キャメロンの会社ライトストーム・ビジョンは、ライブスポーツ、コンサート、テレビ番組を含む革新的な3Dコンテンツの開発に専念し、従来のエンターテインメント制作が簡単かつ低コストで3D撮影と配信を可能にするツールの開発を進めている。

from:
 - innovaTopia - (イノベトピア)Meta “Courting” Disney & A24 To Make Immersive Video For Horizon OS | UploadVR

【編集部解説】

今回のMetaによるハリウッド企業との交渉は、VR業界における決定的な転換点を示しています。これまでVRヘッドセットの普及を阻んできた最大の課題である「キラーコンテンツの不足」に対する、Metaの本格的な解決策と言えるでしょう。

特に注目すべきは、Metaが制作費を全額負担するという前例のない投資スタンスです。従来のライセンス契約とは根本的に異なり、制作会社にとってリスクゼロの魅力的な提案となっています。『ディズニー』のような大手エンターテインメント企業から、A24のような独立系制作会社まで幅広くアプローチしている点も、多様なコンテンツラインナップを狙った戦略的判断と考えられます。

新型ヘッドセット「Loma」の価格設定も巧妙です。Quest 3の499ドルとApple Vision Proの3499ドルの中間となる1000ドル未満という価格帯は、プレミアム機能を求めるユーザーと価格に敏感な一般消費者の両方を狙った絶妙なポジショニングです。眼鏡型デザインと110グラム未満の軽量化により、長時間の映像視聴における快適性も大幅に向上すると予想されます。

技術的な観点では、テザード式のコンピュートパック構成が興味深い選択です。ヘッドセット本体の軽量化を実現しながら、高性能な処理能力を維持できる設計は、イマーシブビデオの高品質再生において重要な要素となります。視線追跡とピンチ操作の組み合わせは、直感的なユーザーインターフェースを提供し、従来のコントローラー操作よりも自然な体験を可能にするでしょう。

Apple Vision Proとの競争という文脈では、Metaのアプローチは明確に差別化されています。Appleが高価格帯でプレミアム体験を提供する一方、Metaはより手頃な価格でアクセシブルなプレミアム体験を目指しています。The WeekndやMetallicaといったアーティストとの独占コンテンツで話題を集めるAppleに対し、Metaは『ディズニー』やA24の知的財産を活用したストーリーテリング重視のコンテンツで対抗する戦略です。

ジェームズ・キャメロンとの既存パートナーシップとの相乗効果も見逃せません。ライトストーム・ビジョンが開発する3D制作ツールと、今回の独占コンテンツ戦略が組み合わさることで、VR業界全体の制作インフラが大幅に向上する可能性があります。特にライブスポーツやコンサートといったリアルタイムコンテンツの3D配信技術は、エンターテインメント業界に革命をもたらすかもしれません。

一方で、Reality Labs部門の継続的な損失という現実も考慮する必要があります。巨額の投資が実際のユーザー獲得と収益化につながるかは不透明で、過去のVRコンテンツ戦略では期待されたほどの成果が得られなかった例もあります。特に日本市場では、VRコンテンツに対する消費者の反応が欧米と異なる傾向があり、グローバル戦略の成功が必ずしも日本での成功を保証するものではありません。

技術的な制約も残されています。イマーシブビデオの制作コストは従来の映像制作よりも大幅に高く、視聴時のVR酔いや長時間装着による疲労といった生理的な問題も完全には解決されていません。どれほど魅力的なコンテンツを用意しても、これらの根本的な課題が解決されなければ、真の大衆化は困難でしょう。

しかし、今回の戦略が成功すれば、VR業界における「ハードウェアが先かコンテンツが先か」という長年の議論に明確な答えを示すことになります。Metaの大胆な投資が業界全体の成長を牽引し、VRが真にメインストリームなエンターテインメントプラットフォームとして確立される可能性を秘めているのです。

【用語解説】

イマーシブビデオ
360度カメラや複数のカメラを使用して撮影された映像コンテンツで、視聴者があたかもその場にいるような没入感を提供する。VRヘッドセットで視聴することで、従来の平面映像とは異なる体験が可能となる。

視線追跡(アイトラッキング)
ユーザーの視線の動きを検出する技術。VRにおいては操作方法の一つとして活用され、見ている場所をクリックするような操作が可能になる。

Reality Labs
MetaのVR・AR事業部門。Quest シリーズの開発や、メタバース関連技術の研究開発を担当している。継続的な投資により損失を計上しているが、長期的な成長戦略の中核を担う。

【参考リンク】

Meta公式サイト(外部)Metaの企業情報、製品情報、最新ニュースを掲載する公式サイト。Quest シリーズやHorizon OSに関する詳細情報、Reality Labs部門の取り組みも確認できる。

Lightstorm Vision公式サイト(外部)ジェームズ・キャメロンが率いる3D技術開発会社の公式サイト。ステレオスコピック技術の開発状況や、Metaとのパートナーシップに関する情報を掲載している。

A24公式サイト(外部)アメリカの独立系映画制作・配給会社A24の公式サイト。『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『シビル・ウォー』などの代表作品情報を確認できる。

【参考動画】

【参考記事】

Meta introduces Horizon OS | BetaNews
Apple Vision Proに対抗するMetaの戦略としてHorizon OSの開放を分析。ASUS、Lenovo、Microsoftとの提携の意義について詳細に解説している。

Meta and James Cameron’s Lightstorm Vision Partner on 3D Entertainment | PYMNTS.com
MetaとLightstorm Visionの複数年パートナーシップの詳細を報告。3Dコンテンツ制作の民主化と、制作コスト削減への取り組みを説明している。

A24 Reportedly Pivoting Away from Arthouse Niche Toward More Commercial Productions | Cinema Daily
USA24の事業戦略転換について詳細に報告。アートハウス映画からより商業的なプロジェクトへの移行と、25億ドルの企業評価額の背景を解説している。

【編集部後記】

映画ファンとして今回のニュースで最も興奮するのは、『ディズニー』やA24といった異なるカラーを持つ制作会社がVRという新しいキャンバスで作品を生み出すことです。A24の『ミッドサマー』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のような独創的な作品がイマーシブ体験として再構築されたら、映画の概念そのものが変わるかもしれません。一方で、映画館の暗闇で他の観客と共有する集合的な体験こそが映画の本質だと考える部分もあり、個人的なVR体験がそれに取って代われるのか疑問も残ります。ただし、ジェームズ・キャメロンという3D映像の革新者が関わっている点を考えると、私たちが想像もしていない新しい映像体験が生まれる可能性に期待せずにはいられません。映画ファンにとって、これは間違いなく注目すべき歴史的な転換点となるでしょう。

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乗杉 海
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