Last Updated on 2025-06-20 17:29 by admin
ニューヨーク拠点のXR企業Kinnetaが、カリフォルニア州ロングビーチで6月10日(現地時間、日本時間6月11日)から開催中のAugmented World Expo(AWE)2025において、VRフィットネス技術を活用した革新的なトレッドミルおよびサイクリングアプリケーションの大幅な機能拡張を発表した。
Kinnetaは、単調な有酸素運動を魅力的な体験に変換するXRソリューションを開発している。同社のアプリケーションでは、ユーザーが世界各地の美しいロケーションでエリートトレーナーとパーソナライズされたワークアウトを行うことができる。また、専門トレーナーを実物そっくりのホログラムとして自宅やジムに招くことも可能である。
このアプリは著名なフィットネス機器メーカーWoodwayとの協業により開発された。共同創設者兼フィットネス責任者のジェナ・アーント氏によると、インタラクティブバイク体験では、参加者がサイクリング中に音楽のリズムに合わせて腕と体でターゲットをパンチしたり避けたりするゲームが特徴となっている。ユーザーのペダリング強度が直接ワークアウトスコアに影響するコネクテッドモードも搭載されている。
AWE 2025では、XrealグラスとMeta Quest 3、Quest 3Sの両方でデモンストレーションが実施されている。新機能として、トレーナーガイド付きシーニックワークアウトが紹介され、トレーナーがユーザーをセントラルパークを通じてガイドする体験が提供される。
Meta Questヘッドセット向けのVR技術では、ユーザーがWoodway 4Frontトレッドミルの速度と傾斜の自動調整と共に、セントラルパークを通る実物そっくりの3Dランニングを体験できる。このシミュレーションはフィットネスマシン上でのユーザーの動きを正確に反映し、上り坂のチャレンジなどワークアウトの難易度調整が可能である。
そしてTrueForm社製トレッドミルとの互換性開発を進めている。現在のユーザーの大部分は在宅XR愛好家だが、著名なジムチェーンEquinoxが多数の店舗での展開を検討している。
Kinnetaは共同創設者兼CEOのイリヤ・ポロキン氏、チーフエンジニアのデビッド・ウェン氏、共同創設者兼ビジネス開発責任者のナヒヤン・アフマド氏、共同創設者兼フィットネス責任者のジェナ・アーント氏らによって運営されている。ポロキン氏は2014年にVRモーションシミュレーター分野に参入し、2017年にHubneo(Hub VR Lab)を設立、2020年にウェン氏とOctonicを共同設立した経歴を持つ。
同社は8人のチームで構成され、サブスクリプションベースで月額9.99ドルまたは年額99.99ドルの料金体系を採用している。現在50以上のユニークな環境を提供しており、これまでに150万ドルの資金調達を実施、フィットネスブランドWoodwayからの最近の25万ドルの投資も含まれている。
from:Kinneta shows off VR fitness workouts that take the boredom out of exercise | VentureBeat
【編集部解説】
今回のKinnetaの発表は、VRフィットネス業界における重要なマイルストーンとして注目すべき内容です。同社が2024年12月にWoodway社製トレッドミル向けのVRアプリをリリースした後、わずか半年でAWE 2025において大幅な機能拡張を発表したことは、この分野の技術革新の速さを物語っています。
特に注目すべきは、Kinnetaが単なるVRフィットネスアプリの域を超えて、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を統合したマルチモーダルなエクササイズプラットフォームへと進化を遂げている点です。Xrealグラスを使用したARワークアウトでは、現実空間にデジタル要素を重ね合わせることで、従来のVRが抱えていた完全な没入による空間認識の問題を解決しています。
技術的な観点から見ると、Kinnetaの最大の強みは、フィットネス機器との「ワイヤレス接続」と「リアルタイム同期」にあります。Woodway 4Front対応トレッドミルでは、VR環境内での地形変化に応じて速度と傾斜が自動調整される仕組みを実現しており、これは従来のVRフィットネスアプリでは困難だった物理的なフィードバックを提供しています。
市場環境を見ると、VRフィットネス市場は急成長が予測されており、Kinnetaはこの成長市場において先駆的なポジションを確立しつつあります。月額9.99ドル、年額99.99ドルという価格設定は、Pelotonなどの既存サービスと比較して競争力があり、特に在宅フィットネス需要の高まりを背景に魅力的な選択肢となっています。
しかし、VRフィットネスには解決すべき課題も存在します。モーションシックネス(VR酔い)や長時間使用による視覚疲労は、ユーザー体験を大きく左右する要因です。また、安全な運動スペースの確保や、高品質なVRヘッドセットの普及率も普及の障壁となっています。
Kinnetaが注目される理由の一つは、これらの課題に対する技術的なアプローチです。高品質なキャプチャ技術による写実的なビジュアルは没入感を高める一方で、ARモードの提供により完全な視覚遮断を避けることができます。さらに、Equinoxなどの大手ジムチェーンとの連携により、商業施設での展開も視野に入れています。
長期的な視点では、Kinnetaのアプローチは「フィットネスの民主化」を推進する可能性があります。地理的制約や時間的制約を超えて、世界トップクラスのトレーナーによる指導を受けられる環境は、特に地方在住者や多忙なビジネスパーソンにとって革新的なソリューションとなるでしょう。
また、生成AIとXRの融合という業界トレンドの中で、Kinnetaが今後どのようにAI技術を統合していくかも注目ポイントです。個人の運動データを基にしたパーソナライズされたワークアウト提案や、リアルタイムでの運動フォーム修正など、AI活用の可能性は無限大です。
ただし、規制面では今後注意が必要です。VRフィットネスが普及するにつれて、運動中の安全基準や健康データの取り扱いに関する規制が強化される可能性があります。特に、心拍数や運動強度などの生体データを収集・分析する機能については、プライバシー保護の観点から慎重な対応が求められるでしょう。
Kinnetaの成功は、VRフィットネス業界全体の発展を加速させる触媒となる可能性が高く、今後の動向から目が離せません。
【用語解説】
XR(エクステンデッドリアリティ):VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(混合現実)を包括する総称。現実世界とデジタル世界を融合させる技術全般を指す。
ホログラム:3次元映像を空中に投影する技術。KinnetaではVRのパススルー機能を使ってトレーナーを立体的に表示し、実在するかのような体験を提供する。
パススルー:VRヘッドセットのカメラを使って現実世界を映し出す機能。完全な仮想空間ではなく、現実とバーチャルを組み合わせた体験が可能。
コネクテッドモード:フィットネス機器とアプリが連動し、ユーザーの運動データがリアルタイムでゲームスコアに反映される機能。
【参考リンク】
Kinneta公式サイト(外部)VRフィットネスアプリKinnetaの公式サイト。製品情報、対応機器、料金プランなどの詳細情報を提供している。
Woodway公式サイト(外部)高品質なトレッドミルとフィットネス機器を製造するドイツ系企業。Kinnetaとのパートナーシップを発表し、4Frontモデルが対応機器。
Xreal公式サイト(外部)軽量ARグラスを開発する中国企業。KinnetaがARワークアウト体験のデモで使用している。
AWE公式サイト(外部)世界最大級のAR・VR・XR技術展示会の公式サイト。2025年6月10-12日にロングビーチで開催中。
Equinox公式サイト(外部)高級フィットネスクラブチェーン。Kinnetaの技術導入を検討している大手ジム企業。
【参考記事】
Woodway Announces New Partnership with Kinneta | Athletic Business
2024年12月のWoodwayとKinnetaのパートナーシップ発表記事。3年間の共同開発期間やMeta Quest対応などの詳細情報を提供。
XR Trends 2025: What’s Next for the Industry? | XRvalley
2025年のXR業界トレンド分析記事。市場規模3000億ドル予測やAR・VRの企業導入加速について解説している。
Top XR Trends for 2025: Shaping the Future of Immersive Technology | Cebirra
XR市場の2025年予測記事。拡張現実技術の進化と企業ソリューション、教育分野での活用拡大について詳述。
【編集部後記】
Kinnetaの発表にはワクワクしています。これまでBeat SaberやFitXRで汗を流してきましたが、どうしても「ゲーム感」が強くて本格的なワークアウトとは言えませんでした。
でもKinnetaは違います。実際のトレッドミルとVRが連動して、セントラルパークを走る体験ができるなんて夢のようです。月額9.99ドルでエリートトレーナーと一緒にワークアウトできるのも魅力的。自宅にいながら世界中の美しい場所で運動できるって、まさに私たちが求めていた未来のフィットネスです。
ただ、長時間のヘッドセット装着や汗による曇りなど、VRフィットネス特有の課題もあります。それでも、この技術が普及すれば運動習慣が劇的に変わりそうで、今から体験するのが楽しみです。