Last Updated on 2025-06-13 18:50 by admin
2025年6月10日から12日(現地時間)にロングビーチで開催されたAugmented World Expo(AWE)にて、VRバンジージャンプシミュレーション『Anywhere Bungee』がデモンストレーションされた。
『Anywhere Bungee』は、株式会社Logilicityの野々村哲也氏(チーフバンジージャンパー)が開発したもので、Meta社の『Quest 3』ヘッドセットと特定の物理装置を組み合わせ、東京の超高層ビルからの落下体験をリアルに再現する。このシミュレーションは、送風による風やモーター駆動のアームによる身体の揺れ、パッド付き装置による衝撃といった感覚を伴い、体験者に強烈な没入感を提供する。現在、既に『Anywhere Bungee』システムは東京タワーやあべのハルカスなど、日本国内の施設に導入されており、Logilicity社は今後、その展開を拡大する計画である。また、AWE 2025ではSandbox VRがNetflixと提携し、『ストレンジャー・シングス』のVR体験を開発していること、およびその他のVR/AR技術に関する最新情報も報じられた。
from:VR Bungee Jumping Simulation At AWE 2025 Is Horrifyingly Real | UploadVR
【編集部解説】
VRバンジージャンプシミュレーション『Anywhere Bungee』がAugmented World Expo(AWE)2025で披露され、大きな注目を集めました。ただのVRコンテンツに留まらず、物理的な装置と連動することで、極めてリアルな落下体験を提供することを可能としています。
『Anywhere Bungee』が特筆すべき点は、単に視覚や聴覚だけでなく、身体感覚、つまりモーションと重力感を伴うフィジカルな要素をVR体験に組み込んでいることです。ヘッドセットで視覚を塞ぎ、聴覚も遮断する一方で、送風機で風を再現し、モーター駆動のアームで身体を揺さぶり、パッド付きの装置で落下時の衝撃を模倣する。これにより、脳が「本当に落下している」と錯覚するほどの没入感を実現しています。これは、VRが目指す「現実と区別のつかない体験」への、非常に重要な一歩と言えるでしょう。
この技術は、高所恐怖症の克服や、危険を伴う体験の安全なシミュレーションといった分野に応用が可能です。また、エンターテイメント施設においては、これまで物理的な制約で実現不可能だった、よりスリリングで没入感の高いアトラクションの提供を可能にします。例えば、深海へのダイブや宇宙空間での浮遊、あるいは歴史的な建造物からの視点など、想像力次第で無限の体験が生み出される可能性を秘めています。
一方で、このような極めてリアルなVR体験がもたらす潜在的なリスクについても考える必要があります。あまりにリアルな恐怖体験は、特に心理的に敏感な人々に、ストレスや不安反応を引き起こす可能性があります。また、身体が装置に固定される性質上、万が一のシステムエラーが発生した場合の安全性確保も重要な課題となります。現状では、これらの体験は専門の施設で管理者が常駐する環境下で提供されるため、安全対策は講じられていると考えられますが、将来的に一般家庭に普及するようなことになれば、より厳格な規制や安全基準の策定が求められるかもしれません。
『Anywhere Bungee』のような身体連動型VRは、エンターテイメント業界に新たな波をもたらすだけでなく、VRが人間の感覚をどこまで拡張できるかという問いに対する答えの一つを示しています。これは、VRが単なるゲームや映像視聴のツールではなく、人間の知覚や経験そのものを変革し、新たな可能性を切り拓く「未来のテクノロジー」であることを示唆しています。
【用語解説】
VR (Virtual Reality):
コンピュータによって作られた仮想的な空間を、まるで現実のように体験できる技術のこと。専用のヘッドセットを装着することで、視覚や聴覚を通してその世界に没入できる。
AR (Augmented Reality):
現実世界に、コンピュータによって生成されたデジタル情報を重ね合わせて表示する技術のこと。VRのように完全に仮想世界に入るのではなく、現実を拡張する形で情報を提供する。
XR (Extended Reality):
VR、AR、MR(Mixed Reality:複合現実)といった先端技術の総称。現実世界と仮想世界を融合させることで、より多様な体験を生み出す技術領域全体を指す。
ヘッドセット:
VRやAR、MR体験において、ディスプレイやセンサー類を内蔵し、頭部に装着する機器のこと。視覚や聴覚を通じてユーザーを仮想空間に没入させたり、現実世界に情報を重ね合わせたりする役割を担う。
Auggie Award(オウギー・アワード):
Augmented World Expo (AWE) が主催する、XR(拡張現実、仮想現実、複合現実)業界で最も権威ある賞の一つ。優れたXR技術やアプリケーション、コンテンツを表彰し、業界のイノベーションを推進している。
【参考リンク】
Augmented World Expo (AWE) 公式サイト(外部)
XR業界最大のイベントであるAugmented World Expoの公式サイト。イベント情報や過去のセッション、Auggie Awardに関する詳細が掲載されている。
Meta Quest (旧Oculus Quest) 公式サイト(外部)
Meta社が開発・販売するVRヘッドセット『Quest 3』を含むMeta Questシリーズの公式サイト。製品情報や対応するVRコンテンツなどが確認できる。
Sandbox VR 公式サイト(外部)
VR体験施設を世界展開している企業。映画や人気IPとコラボレーションし、全身を使った没入感の高いVRアトラクションを提供している。
Netflix 公式サイト(外部)
世界最大手の動画配信サービス。オリジナルコンテンツの制作にも力を入れており、『ストレンジャー・シングス』などの人気作品を配信している。
【参考動画】
【参考記事】
XR Just Went Mainstream – AWE Releases Game-Changing News Highlights from AWE USA 2025 | PR Newswire
AWE USA 2025の主要な発表とハイライトをまとめたプレスリリースで、『Anywhere Bungee VR』を開発するLogilicity社のデビューが紹介されている。
AWE USA 2025 Playground | AWE XR
AWE USAの公式ページ。イベントの目玉となるXR体験の一つとして『Anywhere Bungee VR』が詳細に説明されており、その特徴や特許技術について言及されている。
Augmented World Expo Reveals 2025 Auggie Award Winners, Best in Show and XR Legends | PR Newswire
AWEが主催するAuggie Awardの受賞者を発表するプレスリリース。『Anywhere Bungee VR』が「Best in Show Playground」を受賞したことが記されており、その革新性が公式に認められたことを示している。
New virtual reality attraction allows thrill-seekers to bungee jump off Tokyo Tower | Japan Today
東京タワーでの『Anywhere Bungee VR』体験について報じる記事。AWE 2025での発表以前から存在する同VR体験の基盤情報を提供している。
This VR Attraction Lets You Bungee Jump off Tokyo Tower | Nerdist
東京タワーのVRバンジージャンプ体験について、よりエンターテイメント寄りの視点から解説している記事。
【編集部後記】
AWE 2025での注目と「Best in Show Playground」受賞は、VRがもはや視覚や聴覚だけでなく、身体感覚を伴う新たな進化を感じました。SFで描かれていた世界が少しずつ、着実に現実のものとなりつつあるといっても過言ではないでしょう。
VRが人間の知覚を拡張し、現実では体験が難しい、あるいは危険を伴うようなスリリングな経験を安全に、しかも極めてリアルに提供できるようになる。これはエンターテイメントの枠を超え、心理療法やトレーニング、教育といった分野への応用可能性も秘めていると感じます。