MetaはHorizon WorldsをVRプラットフォームから切り離し、モバイルファーストの独立したプラットフォームへと全面転換すると発表した。Reality Labs コンテンツ担当副社長(VP of Content)のSamantha Ryanが開発者向けブログで「ほぼ完全にモバイルへシフトする」と明言した。
2025年にはモバイル向けワールド数が2,000以上増加し、月間アクティブユーザーは前年比4倍に成長、アプリ内購入は280%増加した。MetaはHorizon WorldsをMeta Questとは別の独立したプラットフォームとして位置付け、VR開発者向けには引き続きサポートを続けるとしている。
From:
Metaverse just went mobile first, leaving VR behind – Digital Trends
【編集部解説】
MetaがHorizon WorldsをVR中心からモバイルファーストへと転換した今回の動きは、単なるプラットフォーム戦略の修正ではありません。「メタバース」という概念そのものの定義が、静かに、しかし確実に書き換えられている瞬間です。
Metaのコンテンツ担当副社長(VP of Content, Reality Labs)Samantha Ryanは、開発者向けブログにて「Horizon WorldsをQuest VRプラットフォームから明示的に分離し、モバイルにほぼ完全にシフトする」と宣言しました。この発表は2026年2月19日付けで、開発者コミュニティに向けて新戦略として公式に発信されたものです。
MetaのCTO(最高技術責任者)Andrew Bosworthは一連のメディアインタビューやSNS上のQ&Aセッションで、Horizon Worldsをめぐる失敗を率直に認めました。メタバースのビジョンをめぐるコミュニケーション不足、高い開発コスト、そしてHorizon WorldsをVR戦略に過度に統合しすぎたこと、の3点です。
「モバイルとVR向けに二重開発しなければならない構造は、チームへの多大な負担だった」とBosworthは語ります。一つのコンテンツをスマートフォン用とVRヘッドセット用に作り直す必要があり、それが開発スピードとクオリティの両方を損なっていたのは明らかです。
この方針転換の背景には、厳然たる数字があります。2025年にはHorizon Worldsのモバイル向けワールド数が2,000以上増加し、月間アクティブユーザーは前年比4倍に成長、アプリ内購入も280%増加しました。VRではなくスマートフォンが、メタバース普及の実質的なドライバーになっているという事実がここに示されています。
一方で、Reality Labsの財務状況は厳しいままです。2025年の年間営業損失は約$19.2 billionに達し、前年の$17.73 billionからさらに拡大。同部門の売上は$2.21 billionにとどまっています。2020年以降の累計損失は$80 billionを超えており、Meta全体の売上$200.97 billionに対し、Reality Labsはわずか1%程度の収益しか生み出せていない状況です。
VR専用プラットフォームとしてのHorizon Worldsが普及しなかった理由の一つは、競合との差です。VRChat(2026年元日に同時接続148,875人という新記録)が着実にユーザーを伸ばしている一方で、Horizon Worldsは長らく月間ユーザー20万人以下で低迷していました。ユーザーはVRヘッドセットを購入しても、Metaのメタバースではなく、サードパーティのプラットフォームへ流れていたのです。
モバイルファーストへの転換は、メタバースの「民主化」という観点ではポジティブです。VRヘッドセットという高価なデバイスを持たなくても、スマートフォンさえあればMetaのメタバースに参加できる門戸が開かれます。Metaはクリエイター向けに$50 millionのファンドも設立しており、モバイル向けコンテンツ開発のエコシステム育成に本腰を入れています。
VR開発者コミュニティからは、Questプラットフォーム向けの優良コンテンツが脇に追いやられるという懸念の声が上がっています。また、モバイル化によってHorizon Worldsが「ちょっとしたゲームアプリ」に成り下がり、Roblox(日間アクティブユーザー1億5,000万人超)やFortniteとの直接競合に晒される状況は、容易ではありません。
長期的な視点で見ると、MetaがAI技術をメタバースに統合する戦略も見え始めています。2026年の設備投資は$115〜135 billionと1.7倍近くの増加が見込まれますが、その主眼はVRではなく「Meta Superintelligence Labs」、つまりAIです。VRヘッドセットからRay-Banスマートグラスへの注力シフトも、この文脈で読み解くべきでしょう。
メタバースが「VRの中だけで完結する特別な世界」から「スマートフォンを起点にした日常的なデジタル空間」へと再定義されつつある今、この戦略転換は成功への道筋となるか、あるいはHorizon Worldsの事実上の終幕への前置きとなるか。その答えは、2026年のモバイルユーザー数の推移が教えてくれるはずです。
【用語解説】
メタバース(Metaverse)
インターネット上に構築された、3次元の仮想空間。アバターを通じて他者と交流したり、コンテンツを楽しんだりできる「次世代のインターネット」として注目された概念だ。VRヘッドセットだけでなく、スマートフォンやPCからもアクセス可能なプラットフォームが増えている。
モバイルファースト(Mobile First)
サービスや製品の設計において、PC・VRよりもスマートフォンを最優先とする開発・展開戦略のこと。今回の文脈では、Horizon WorldsをVRヘッドセットより先にスマートフォン向けに最適化・拡充していく方針を指す。
【参考リンク】
Meta(メタ・プラットフォームズ)公式サイト(外部)
Facebook・Instagram・WhatsApp・Quest・Horizon Worldsを傘下に持つIT大手。メタバースとAIを中核事業と位置付けている。
Meta Horizon Worlds(外部)
MetaのVR・モバイル・ウェブ対応メタバースプラットフォーム。iOS・Android・Meta Questで利用可能。ユーザーが独自のワールドを制作・公開できる。
Meta Horizon アプリ(Google Play)(外部)
Android端末向けのMeta Horizonアプリ。1,000万回以上のダウンロード実績を持ち、評価は4.5(星5中)。無料でアプリ内課金あり。
Meta Horizon アプリ(App Store)(外部)
iOS端末向けのMeta Horizonアプリ。iOS 15.1以降対応。アドベンチャーカテゴリに分類されており、無料でアプリ内課金あり。
VRChat(外部)
ユーザー制作のアバターとワールドが特徴のソーシャルVRプラットフォーム。VR・PC・モバイルに対応。Horizon Worldsの競合サービスだ。
【参考動画】
Building Mobile-First Worlds on Meta Horizon(Meta公式)
Meta公式チャンネルによるMHCP Summit 2025のセッション動画。モバイルファースト戦略の詳細を開発者向けに解説している。
Top Features to Enhance Your Mobile Worlds(Meta公式)
MHCP Summit 2025のセッション。Meta社プロダクトマネージャーのRebecca Pendletonが、モバイルワールドの制作ツール機能を実演形式で解説している。
【参考記事】
Reality Labs Burns $19 Billion in 2025 as Meta Signals No Slowdown(Auganix)(外部)
Reality Labsが2025年に約$19.2 billionの損失を記録。売上$2.21 billion、Meta全体売上$200.97 billionとの対比を数値で詳述。
Meta retains ‘optimism’ in VR despite massive Reality Labs losses(Game Developer)(外部)
Reality Labsの6年間累計損失$83.6 billionを報告。損失継続にもかかわらずMetaがVRへの楽観的姿勢を崩さない背景を解説。
Meta burned $19 billion on VR last year, and 2026 won’t be any better(Yahoo Finance)(外部)
2025年のReality Labs損失額と2026年の見通しを詳報。設備投資$115〜135 billionの計画についても言及している。
Meta CTO: Metaverse Efforts Led to a “lack of focus” on Quest(Road to VR)(外部)
Andrew BosworthがHorizon Worlds戦略の失敗を認めた発言を詳細に報道。二重開発の負担など戦略転換の核心的背景を伝える。
Meta “Explicitly Separating” Horizon Worlds From Quest(UploadVR)(外部)
Samantha RyanによるHorizon Worlds公式発表を詳報。VR開発者コミュニティへの影響とMetaの新戦略の詳細を伝える。
Meta’s VR metaverse is ditching VR(The Verge)(外部)
The Vergeによるモバイルファースト転換の速報。VRコミュニティへの影響と開発者の反応を中心に報道している。
VRChat Economy & New Generation Drive(VRChat Metaverse Demographics Report 2026)(外部)
2026年元日に同時接続148,875人を記録したVRChatのデータを収録。Horizon Worldsとの競合状況を比較する上で有用な資料。
【編集部後記】
VRヘッドセットを初めて装着したとき、あの「世界が変わった」という感覚を覚えている方も多いのではないでしょうか。あの体験は本物でした。ただ、それが「毎日の習慣」になるには、まだ何かが足りなかった。Metaが今回出した答えは、その「何か」をスマートフォンで埋めようというものです。
考えてみれば、インターネットもSNSも、最初はPCの前に座らなければ使えないものでした。それがスマートフォンによって「いつでも・どこでも」になった瞬間に、爆発的に日常へと溶け込んでいった。メタバースも今、似たような転換点を迎えているのかもしれません。
VRChatが同時接続記録を更新し続けているように、深い没入体験を求めるユーザーは確実に存在します。そしてモバイルという間口が広がることで、そこに向かう人の数も増えていく。VRという「特別な体験」とモバイルという「日常の接点」が役割分担しながら共存していく——そんな未来が、実はいちばん自然な形でメタバースを育てていくのではないでしょうか。
あなたはスマートフォンでメタバースに入ってみたいと思いますか?ぜひ感想をお聞かせください。







































