Geminiアプリ|思考レベル「Extended」が段階展開、Canva・OpenTable統合も近日予定

[更新]2026年5月18日

Googleで優先するソースとして追加するボタン

AIアシスタントに「どれだけ深く考えるか」を指定できるようになったとしたら、それは何を意味するのでしょうか。単なる速度と品質のトレードオフではなく、ユーザーが思考プロセスそのものをコントロールするという、新しいインタラクションの形が見えてきます。I/O 2026を目前に控えたタイミングでの新たな動きは、Geminiのプラットフォーム化戦略の現在地を示しています。


GoogleはGeminiアプリのモデルピッカーに「Thinking level」オプションの展開を開始した。現時点では「Standard(標準)」と「Extended(拡張)」の2段階が用意されており、Fast(Gemini 3 Flash)またはGemini 3.1 Proを選択した場合にのみ表示される。Thinkingモデルを選択した場合には表示されない。展開はまだ限定的で、Google AI Studioが提供するLow・Medium・Highの3段階思考レベルに対応したアプリ側の実装とみられる。

サードパーティ統合についても新たな動きがある。現在GeminiアプリにはGitHub・OpenStax・Spotify・WhatsAppが統合済みだが、Googleのサポートドキュメントには近日追加予定としてCanva・Instacart・OpenTableの3サービスが記載されている。Canvaとの連携ではデザインの作成・アセット管理・コメント対応などが可能になり、InstacartではGeminiから直接ショッピングカートへの追加、OpenTableではレストランの予約・管理が可能になる予定だ。

From: 文献リンクGemini app rolling out ‘Extended’ thinking level, new 3rd-party app integrations

【編集部解説】

GoogleがGeminiアプリに加えた「Thinking level」は、技術的には地味な機能追加に見えるかもしれません。「Standard」と「Extended」、二つから選ぶだけ。しかし、この小さな選択肢が問いかけているものは、これまでのAIアシスタント像とは少し異なります。

開発者向けにはすでに、Gemini APIに thinkingLevel というパラメータが存在しています。Gemini 3モデルではこれが推奨設定とされ、AI Studioの管理画面ではLow・Medium・Highの3段階で提供されてきました。思考にはトークンが使われ、推論の深さを上げればコストも応答時間も増える――そういう設計です。

今回、その概念が一般ユーザーの手元にも降りてきました。3段階あったものが2段階に簡素化されたのは、判断材料を持たないユーザーへの配慮でしょう。とはいえ、「Extended」を選んだとき、AIの中で具体的に何が増えるのかは可視化されていません。エアコンの「強」と違って、思考の量は体感しにくい。「もっと深く考えてほしいときに選ぶ」という以上の手がかりが、今のところユーザーには与えられていないのです。

これはAIアシスタントの操作体験における新しい問いを生みます。車のアクセルとブレーキのように、AIにも「効きの違い」を選べるレバーが付いた――そう言い換えてもいいかもしれません。便利な面と、何を選んでいるのかが分からないままレバーを倒す気持ち悪さ、その両方が同居しています。

「ChatGPT先行」の事実とどう向き合うか

もう一つのアップデート、近日追加されるCanva・Instacart・OpenTableのサードパーティ統合は、Geminiの「外への接続」の話です。ただし、ここで一つの事実を直視する必要があります。

追加予定の3サービスのうち、CanvaとInstacartはすでにChatGPTで稼働中です。

OpenAIは2025年10月にApps SDKを発表し、Booking.com・Canva・Coursera・Figma・Expedia・Spotify・Zillowを初期パートナーとして公開しました。さらに同年12月には、Instacartが「Instant Checkout」を実装してChatGPT内で会話から商品検索、カート作成、決済までを完結させる仕組みをローンチしています。これはAgentic Commerce Protocol(ACP)というOpenAIとStripeが共同開発した規格の上に成立しています。

つまり、Geminiアプリの今回の動きを、率直に評価するなら――ChatGPTが半年前から走っていた領域に、Googleが追いついてきた、ということになります。しかも、Gemini側の発表内容を読む限り、Instacart統合は「カートへの追加」までで、ChatGPTのInstant Checkoutに相当する会話内決済の機能は明示されていません。

この事実は、Geminiの遅れというより、現在のAI業界における「最終アクション層」の競争の激しさを示しています。検索→比較→予約・購入のチェーンで、ユーザーの最終アクションをどのAIが代行するか。その入口を握った者が、ユーザーの生活データに最も深くアクセスできる。各社が、同じパートナー企業を巡って囲い込みを進めている構図です。

Googleが持つ「別ルート」

ただし、数の差や時間差だけで結論を急ぐべきではないかもしれません。Googleには、OpenAIにはない独自の基盤がいくつかあります。

OpenTable統合は、その典型例です。Googleは2018年から「Reserve with Google」というレストラン予約基盤を運用しており、Google検索やマップから直接予約できる仕組みを整えてきました。OpenTableはこの基盤の「first to market」パートナーであり、Gemini経由の予約もこの既存基盤の上に乗っています。新規開発ではなく、既存のレイヤーをAIアシスタント側から呼び出せるようにした拡張と読むのが正確でしょう。

さらに、Gemini単体のアプリ統合とは別に、Googleは複層的なエージェント基盤を構築しています。Google AI Ultra加入者向けの「Gemini Agent」は、Gmail・カレンダー・ドライブ・マップ・YouTubeなどと連携し、ライブWeb閲覧やDeep Researchを組み合わせて多段階タスクを実行できます。Android向けには、5月12日の「The Android Show: I/O Edition」で「Gemini Intelligence」というアンブレラブランドが発表され、アプリ自動化、Magic Cue、Personal Intelligenceによるフォーム自動入力などが今夏Pixel 10とGalaxy S26に投入される予定です。

Android Ecosystem担当プレジデントのSameer Samatは、この一連の動きを「Androidをオペレーティングシステムからインテリジェンスシステムへと変革していく機会がある」と表現しました。Geminiアプリへのサードパーティ統合は、その大きなアーキテクチャの中でクロスプラットフォームの会話インターフェース層を担う一要素――そう位置づければ、今回のアップデートの解像度はやや上がります。

日本のユーザーに残される死角

ただし、今回の発表をそのまま日本の読者に当てはめると、いくつか注意点があります。

Instacartは北米中心の食料品配送サービスで、日本では利用できません。OpenTableは日本にも法人がありますが、加盟店舗数は2013年のピーク時に約1,700店だったものから事業を縮小し、2018年ごろに大幅な事業縮小を経て、2019年12月には合同会社へと組織形態を変更しています。日本でレストラン予約と言えば食べログやぐるなびが主流で、OpenTable経由でのGemini予約は、日本のユーザーの日常的なユースケースに直結しにくいのが現状です。

つまり、グローバルアナウンスとしての今回の発表は、米国市場を前提に設計されている側面が強い。日本のGeminiユーザーが今すぐ恩恵を受けられるのは、現状ではCanva連携(これも英語UIが主)が中心になるかもしれません。日本市場でAIエージェントが「最終アクション層」を取りに行くには、食べログやぐるなび、ヤマト運輸や日本郵便、メルカリやヤフーといった国内サービスとの統合が必要になります。そのレイヤーは、グローバルプラットフォーマーが直接握れる領域ではなく、誰がどう繋ぐのかはまだ未解決の問題として残されています。

I/O 2026前夜の地ならし、そして残る問い

GoogleのI/O 2026は2026年5月19〜20日に開催されます。今回の「Thinking level」と「サードパーティ追加予定」のアナウンスは、その2日前というタイミングで出されました。

控えめなアップデートですが、I/Oで本格的に発表される予定のGemini Intelligenceや、AndroidからXRグラス、Android Auto、Googlebookまで広がるGeminiの「面」と組み合わさったとき、初めて全体像が見えてくる類のものです。AppleもGeminiをベースにしたSiriの刷新を6月のWWDCで発表すると見られています。両社は2026年1月に、次世代Apple IntelligenceがGeminiの技術基盤の上に構築されることを公式に確認しており、WWDCでの発表はその具体化として位置づけられています。OpenAIはApps SDKとACPで会話内決済まで先行する。Googleは検索→マップ→Reserve with Google→Geminiという縦の連携で対抗する。Appleはデバイス側の上位レイヤーで参戦する――この勢力図の中で、今回のアップデートはGoogle側の小さな駒の一つです。

ただし、地ならしの段階だからこそ、見えてくる問いもあります。

Geminiが思考量を自動調整し、外部サービスに対してアクションを実行する世界で、ユーザーはその意思決定プロセスをどこまで把握し、制御できるのでしょうか。Googleは公式資料を通じ、購入前の確認・通知による可視化・ユーザーによる停止機能など、人間が常にプロセスに関与できる設計を強調しています。

しかし、AIが食料品を選び、レストランを予約し、ファイルをフォルダ間で移動するようになったとき、その「ループ」がどのような形であるべきか――確認画面を一つ挟むだけで十分なのか、それとも別の関与の仕方が必要なのか――は、業界全体でまだ定まっていません。「Extended」を選んだ思考の中身が見えないように、エージェントが何を判断材料にしたかも、ユーザーには見えにくくなっていきます。

便利になることと、自分が何を委ねているかが見えなくなることは、コインの裏表です。GeminiがOSのような存在に近づきつつある今、私たちが問うべきは「どれだけ便利か」だけではないのかもしれません。

【用語解説】

Thinking level(思考レベル)
GeminiアプリやGemini APIで設定できる推論の深さを調整するパラメータ。「Standard」と「Extended」の2段階(アプリ)または Low/Medium/High の3段階(Google AI Studio)から選択する。思考レベルを上げると推論の精度が向上するが、応答時間とコストも増加する。複雑な問題には高い思考レベルが有効とされる。

Extended thinking(拡張思考)
AIモデルが回答を生成する前に、より多くの計算リソースを使って段階的な推論(思考の連鎖)を行う処理モード。数学的証明、コードデバッグ、複雑な分析など、「正解への道筋を考える必要がある」タスクで特に効果を発揮するとされる。

Gemini 3 Flash / Gemini 3.1 Pro
Googleが提供するGeminiモデルシリーズのうち、2026年時点での主要ラインナップ。Flashは高速・軽量、Proはより高性能なモデルに位置づけられる。ThinkingモデルはFlash/Proとは独立したシリーズで、Thinking level設定の対象外となる。

Reserve with Google
Googleが2018年から運用するオンライン予約基盤。Google検索やマップ上で直接レストランや施設の予約を完結できる仕組み。OpenTableをはじめとする予約管理サービスと連携している。Gemini経由のOpenTable予約は、この既存基盤を介して処理される。

Gemini Intelligence
2026年5月にGoogleが発表したAndroid向けAI機能のアンブレラブランド。アプリの自動操作(Task Automation)、状況に応じた提案機能(Magic Cue)、フォームへの自動入力(Personal Intelligence Autofill)などを含む。Pixel 10とGalaxy S26で今夏より順次提供予定。

Agentic Commerce Protocol(ACP)
OpenAIとStripeが共同開発したAI会話内決済の標準規格。AIアシスタントとの対話の流れの中で、商品検索からカート作成・決済までを一貫して処理するためのプロトコル。2025年12月にInstacartとChatGPTの連携で初実装された。Geminiアプリ側の現状の統合には、これに相当する会話内決済機能は含まれていない。

Google AI Studio
Googleが提供するWebベースの開発者向けAI実験・開発環境。Gemini APIを直接呼び出してモデルの挙動を試すことができる。Thinking levelのLow/Medium/High設定など、GeminiアプリのUIより詳細なパラメータ調整が可能。

【参考リンク】

Google Gemini(公式)(外部)
Googleが提供するAIアシスタントの公式ページ。アプリのダウンロードや最新機能の確認ができる。

Gemini API ドキュメント – Thinking(Google AI for Developers)(外部)
Gemini APIにおけるExtended thinking機能の技術仕様と実装方法。開発者向けのパラメータ設定例を含む。

Google AI Studio(外部)
ブラウザ上でGeminiモデルを直接試せるGoogleの開発者向けプラットフォーム。Thinking levelの詳細な実験が可能。

Canva(公式)(外部)
Geminiアプリとの統合が予定されているグラフィックデザインツール。テンプレートからSNS投稿、プレゼンテーションまで対応。

Gemini Agent(公式)(外部)
Google AI Ultra加入者向けのエージェント機能概要。Googleサービスとの連携や多段階タスク実行の仕様を確認できる。

【参考記事】

Introducing Apps in ChatGPT(OpenAI公式ブログ)(外部)
2025年10月発表のApps SDK。Canva・Spotify等を初期パートナーに、ChatGPT内サードパーティ統合の仕組みを詳説。Geminiとの競合構図を理解する上での一次資料。

Instacart App Launches with OpenAI’s ChatGPT(Instacartプレスリリース)(外部)
2025年12月8日付。AgenticCommerceProtocol(ACP)とInstant Checkoutの実装内容を確認できる一次情報源。

Google brings agentic AI and vibe-coded widgets to Android(TechCrunch)(外部)
2026年5月12日のAndroid Show: I/O Edition発表内容。Gemini IntelligenceブランドとAndroid向けエージェント機能の全体像を把握できる。

Reserve with Google Integration(OpenTable公式)(外部)
OpenTableとReserve with Googleの連携内容を説明する公式ページ。GeminiによるOpenTable予約の技術的基盤を理解するための資料。

Android, Gemini Intelligence, Security & Privacy(Google公式ブログ)(外部)
Gemini Agentic AI機能におけるプライバシーとセキュリティ設計の公式説明。Human-in-the-loopの設計思想を確認できる。

【編集部後記】

AIに「どれだけ考えさせるか」を自分で選べる感覚は、一見すると主体性の回復のように見えます。しかし実際には、その選択の意味——Extendedを選んだとき何が増えるのか——は、まだほとんど可視化されていません。私たちが何かを委ねる先を理解するとはどういうことか。この問いは、Geminiの機能拡張が進むほど大きくなっていきます。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。