シャープ株式会社は2026年5月14日、テレビ「AQUOS」向けの新サービス「AQUOS AI」を2026年5月23日より提供開始すると発表した。独自の生成AI技術を活用し、テレビの大画面でAIキャラクターとの会話、コンテンツの提案、操作方法の案内を行う。標準搭載のAIキャラクターは「大輝」と「あゆみ」の2体で、65V型では等身大に近いサイズで表示される。
対応機種はAQUOS XLEDのX9A/X7Aライン、AQUOS OLEDのS9A/S7Aラインで、順次拡大予定。会話機能「トーク」は月50回までのフリー、月400回のノーマル(月額495円)、月1,600回のゴールド(月額1,980円)の3プラン。追加購入は100回165円。「番組おすすめ」と「使い方ヘルプ」は無料。利用にはインターネット環境が必要で、全機能利用には「COCORO MEMBERS」への会員登録とCOCORO IDログインが求められる。シャープは2025年8月に対話AIキャラクター「ポケとも」を発表し、ロボットおよびスマートフォン用アプリで展開している。
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テレビ向け「AQUOS AI」サービスの提供を開始

【編集部解説】
シャープが今回発表した「AQUOS AI」は、単なる新機能の追加ではなく、テレビという家電の役割そのものを問い直す試みとして位置づけられます。これまでテレビは一方的に情報を「映す」装置でしたが、生成AIキャラクターを組み込むことで「対話する」装置へと変質しようとしているのです。
注目すべきは、本サービスの基盤技術についてです。シャープのプレスリリースでは「当社独自の生成AI技術」と記載されていますが、時事通信などの報道によれば、米OpenAIのChatGPTを基にシャープが独自カスタマイズした技術とされています。つまり、グローバルな大規模言語モデルの上に、日本の家電メーカーが「共感知性」「探索知性」という独自の対話設計を載せた構造です。
技術的に興味深いのは、65V型では等身大に近いサイズでAIキャラクターが表示されるという仕様です。スマートスピーカーやスマホ画面の小さなアバターとは異なり、人と同等のスケールで存在するAIは、利用者の心理的距離感を大きく変える可能性があります。リビングに「もう一人いる」という感覚は、UX設計上の大きな転換点となるはずです。
一方で、ビジネスモデルにも注目したいところです。テレビ本体に月額課金型のサブスクリプションを組み込むという発想は、家電業界では比較的新しい挑戦になります。月50回の無料枠、月額495円のノーマル、月額1,980円のゴールドという3階層に加え、100回165円の追加購入オプションまで設けた料金設計は、ハードウェア販売後も継続的に収益を得る構造を明確に意識したものといえます。
シャープは過去にも、テレビ向けAIサービス「AIレコメンド」(COCORO VISION内)を提供していましたが、利用者の手動キーワード登録に押される形でサービスを終了させた経緯があります。今回は会話インターフェースという「人間にとって最も自然な操作系」を採用しており、過去の失敗を踏まえたリベンジ的な側面も読み取れます。
ポジティブな側面としては、高齢者や機械操作が苦手な層への恩恵が挙げられます。「毎朝6時にテレビをつける方法は」と話しかけるだけで設定の手順を案内してもらえるなら、説明書を読む負担は劇的に減ります。また、一人暮らし世帯が増加する社会において、テレビが話し相手になるという需要は確実に存在するでしょう。
一方で、潜在的なリスクも見逃せません。会話履歴を蓄積する設計である以上、プライバシー保護とデータガバナンスは極めて重要になります。全機能の利用にCOCORO MEMBERS登録が求められる点も、利用者のデータがどう扱われるかという議論を呼ぶ可能性があります。また、AIキャラクターへの過度な依存(いわゆるAIコンパニオン依存)は、海外ではすでに社会問題化しつつあり、日本でも同様の課題が表面化する余地があります。
規制面では、現時点で日本国内において生成AIキャラクターと利用者の関係性を直接規律する法令は存在しません。しかし、欧州のAI Actが感情認識AIを用途に応じて禁止または高リスク規制の対象としているように、「共感知性」を掲げるサービスが今後どう国際的な規制動向と接続するかは注視すべきポイントです。
長期的に見れば、AQUOS AIはテレビが「コンテンツ消費の装置」から「コミュニケーションのハブ」へと進化する第一歩と捉えられます。今後AIキャラクターのラインナップが拡充され、ユーザー自身がカスタマイズできるようになれば、テレビは家族の数だけ異なる「人格」を持つ家電へと変貌するかもしれません。家電とAI、そして人間の関係性が再定義される時代の幕開けを、私たちは目撃しているのです。
【用語解説】
生成AI(Generative AI)
テキストや画像、音声などを新たに生成できる人工知能の総称である。ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)が基盤技術となっている。
LLM(大規模言語モデル)
膨大なテキストデータを学習し、人間のような自然な文章生成や対話を可能にする深層学習モデルである。
共感知性/探索知性
シャープがAQUOS AIで掲げる独自の対話設計コンセプトである。前者はユーザーの気持ちに寄り添う応答能力、後者は会話から相手の意図を読み取る能力を指す。
AIキャラクター
画面上に表示される人格を持ったAIエージェントのこと。テキスト応答だけでなく、表情やアニメーションを伴うことで、より自然な対話体験を実現する。
AIコンパニオン
人間に寄り添い、会話相手となることを主目的としたAIサービスの総称である。海外ではReplikaやCharacter.AIなどが先行している。
AIoT
AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせた造語で、シャープが提唱するスマート家電のビジョンである。家電をクラウドAIに接続し、人に寄り添う存在へと変えていく考え方を指す。
サブスクリプション
月額・年額など定期的に料金を支払うことで継続的にサービスを利用できる課金モデルである。
AIレコメンド
シャープが過去にAQUOSテレビ向けに提供していた、視聴履歴から好みを学習して番組を推薦するAIサービス。現在はサービスを終了している。
ポケとも
シャープが2025年8月に発表したミーアキャットをモチーフとする対話AIキャラクターである。ロボットおよびスマートフォン用アプリで展開されており、AQUOS AIの対話技術の前身に位置づけられる。
EU AI Act
欧州連合が制定したAI規制法。AIシステムをリスクに応じて分類し、感情認識AIなどは用途に応じて禁止または高リスク規制の対象としている。
【参考リンク】
AQUOS AI 製品サイト(シャープ)(外部)
AQUOS AIサービスの公式ページ。対応機種、機能、料金プランなどの詳細情報が掲載されている。
COCORO MEMBERS(外部)
AQUOS AIの全機能利用に必要なシャープの会員サービス。家電登録やキャンペーン参加などが可能である。
COCORO+(ココロプラス)(外部)
シャープのスマート家電向けサービスブランド。AIoT技術に基づき、人に寄り添う家電を目指している。
COCORO STORE(外部)
シャープ公式ECサイト。AQUOS AIの有料プラン申し込み窓口の一つとなっている。
ポケとも 公式サイト(外部)
AQUOS AIの前身となった対話AIキャラクター「ポケとも」の公式サイトである。
OpenAI(外部)
AQUOS AIの基盤技術として報じられているChatGPTを開発した米国の人工知能研究企業である。
【参考動画】
【参考記事】
画面でキャラと会話、番組提案も シャープが生成AI搭載テレビ発売へ(時事ドットコム)(外部)
生成AI搭載テレビ15機種の発売予定と想定価格約27万5,000円から93万5,000円の価格帯を報じている。
シャープ、テレビでAIキャラと会話できる「AQUOS AI」開始(ITmedia AI+)(外部)
業界初の国内市販テレビ向け生成AIサービスとしての位置づけや3プラン構成を詳細に報じている。
対話AIキャラクター「ポケとも」誕生(シャープ公式ニュースリリース)(外部)
ポケともが2025年8月20日に発表されたこと、ミーアキャットをモチーフとしていることを公式に伝えている。
テレビ「AQUOS」新製品 および 新サービス「AQUOS AI」の発表会を開催しました(SHARP Blog)(外部)
AQUOS25周年や国内累計出荷5,600万台突破、生成AI搭載テレビ15機種展開などの背景情報を公式に発信している。
アクオスの「AIレコメンド」終了 「キーワード登録の方が使われた」(ITmedia NEWS)(外部)
シャープが過去に提供していたテレビ向けAIレコメンドサービスの終了経緯を伝えている。
AI Act(European Commission)(外部)
欧州連合のAI規制法に関する公式ページ。感情認識AIを含む各種AIシステムへの規制内容を解説している。
【関連記事】
シャープ「ポケとも」手のひらサイズの感情AI—スマホとロボットが紡ぐ新しい関係性
AQUOS AIの前身となる対話AIキャラクター「ポケとも」を扱った記事。シャープの対話AI戦略を理解するうえで最も補完性が高い。
シャープ「介護向けAIトレーナー」開発|テレビとAIが介護現場の人手不足を変える
シャープがテレビ画面上にAIキャラクターを表示するソリューションをすでに介護分野で展開している記事。AQUOS AIの「使い方ヘルプ」が高齢者層に恩恵をもたらすという解説と接続が深い。
【編集部後記】
シャープ独自の生成AI技術がテレビへ拡張されたと知り、編集部内では「いつかポケともがAQUOSの大画面に登場する日が来るのでは」という話で盛り上がりました。
手のひらサイズのミーアキャットが、リビングの65V型に等身大で現れて家族に話しかけてくる――想像するだけで楽しい光景です。同じシャープの対話AI技術がデバイスを越えて連携したら、家電同士でキャラクターが行き来する新しい体験が生まれるかもしれません。
皆さんなら、どんなAIキャラクターにテレビへ来てほしいでしょうか。お気に入りの推しがリビングに現れる未来も、案外そう遠くないのかもしれません。












