Google I/O 2026|ユニバーサルカート発表——AIエージェントが「買う」時代の幕開けと広告モデルの転換

[更新]2026年5月21日

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AIが商品を探し、比較し、決済まで完了する——そんな未来が、いよいよ形になり始めました。Googleがショッピングの「次の姿」として描いていた構想が、Google I/O 2026でひとつの製品として姿を現しました。ユニバーサルカート、そしてその背後に静かに敷かれてきたプロトコルの意味を、広告ビジネスの変化という視点から読み解きます。


2026年5月19日のGoogle I/O 2026で、Googleはユニバーサルカート(Universal Cart)を発表した。Search・Geminiアプリ・YouTube・Gmailをまたいで商品を一元管理できるカートで、価格変動のアラート通知、価格推移の分析、在庫復活の通知、商品の互換性チェックなどをGeminiモデルがバックグラウンドで実行する。Nike・Sephora・Target・Ulta Beauty・Walmart・Wayfairおよびショッピファイ加盟店に対してネイティブチェックアウトを提供し、ブランドが引き続きマーチャント・オブ・レコードとなる。米国での展開は2026年夏の予定で、YouTubeとGmailへの対応はそれ以降となる。

同時に、AIエージェントが安全に購入を実行するためのオープンプロトコル「AP2(Agent Payments Protocol)」のGoogle製品への統合を「数ヶ月以内」に開始すると発表した。AP2はユーザーが「ブランド・商品・上限額」を事前に設定しておくと、条件を満たした場合のみエージェントが購入を実行する仕組みで、最初の対応製品はGemini Sparkとなる。UCP(Universal Commerce Protocol、以下UCP)を通じたチェックアウト体験はカナダ・オーストラリアへ拡大し、英国にも後続する。YouTubeやホテル予約・フードデリバリー分野への展開も予定されている。

From: 文献リンクIntroducing the Universal Cart and more ways to help you shop

【編集部解説】

今回の発表を「広告の見た目が会話風になった」という話だと受け取ると、本質を見誤ります。Googleが組み替えようとしているのは、広告ビジネスそのものの構造です。

その手がかりは、発表の最後に置かれた地味なくだりにあります。エージェント・ペイメント・プロトコル(AP2)、ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)、そしてユニバーサルカート。マーケターの目を引く新広告フォーマットの陰で、Googleは「AIが商品を見つけ、比較し、決済まで完了させる」ための土台を静かに敷いてきました。

UCPは2026年1月に公開されたオープンソースの標準で、AIエージェントが商品を探し、在庫を確認し、決済へ進むための共通言語にあたります。AP2はその決済部分を担い、ユーザーが「このブランドの、この商品を、いくらまで」と条件を指定しておけば、エージェントが基準を満たしたときだけ購入を実行します。今回のDirect Offersに加わった「ネイティブチェックアウト」は、この基盤が広告のすぐ隣まで来ていることを示しています。

なぜいま、Googleはここまで踏み込むのか

背景には、Googleの広告ビジネスを長年支えてきた「クリック課金」モデルの揺らぎがあります。

検索広告は四半期で600億ドルを超える規模に達し、いまも二桁成長を続けています。しかし足元では、AIによる要約が検索結果の上部を占めるようになり、ユーザーがリンクをクリックせずに離脱する「ゼロクリック検索」が増えています。クリックされて初めて課金される広告にとって、これは収益源の足場が崩れることを意味します。実際、限られた表示枠を奪い合う形で広告主のクリック単価は上がり続け、2025年の平均CPCは5.26ドルに達しました。

Googleの答えは、ゲームの土俵を変えることでした。同社は決算で、AIモードの検索クエリが従来の3倍長く複雑であり、「これまで収益化が難しかった検索」が新たな広告在庫になりつつあると説明しています。クリックで稼げないなら、会話の中に入り込み、比較を助け、最終的な決済まで取り込む——今回の一連の発表は、その移行を製品として具体化したものです。

広告主・小売・消費者にとって何が変わるか

この転換は、関係者それぞれに異なる意味を持ちます。

広告主にとっては、勝ち筋が「キーワードの入札」から「AIに正しく理解されること」へと移ります。会話型の広告では、Geminiがユーザーの意図に商品を結びつけるため、構造化された商品情報の整備が成果を左右します。GoogleのAI MaxやPerformance Maxといった自動化キャンペーンに最適化を委ねる流れは、さらに強まるでしょう。

小売・事業者にとっては、決済までの導線がGoogleのプロトコルに組み込まれていくことの意味が重くなります。商品の発見から購入完了までが一つの会話で完結すれば便利な一方、自社サイトを訪れてもらう機会は減り、顧客接点の主導権がプラットフォーム側に移りかねません。

消費者にとっては、選択の手間が大きく減ります。ただしその裏側で、何が「中立的なおすすめ」で何が「広告」なのかという境界は、これまで以上に見えにくくなります。Googleは広告ラベルの維持と独立した結果表示の両立を方針として示していますが、判断の主導権がAIに移るほど、表示の透明性が問われる場面は増えていくはずです。

検索と広告のこれから

この構図には、現時点で答えの出ていない問いが残っています。会話の中に溶け込んだ広告が、従来のバナー型広告と同じだけの収益を生むのか。決済まで担うエージェントを、利用者はどこまで信頼して任せるのか。プロトコルをめぐる覇権争いも始まったばかりです。

確かなのは、Googleが「広告枠を売る会社」から「購買そのものを実行する基盤」へと、自らの立ち位置を移そうとしているという事実です。その移行が成功するかどうかは、これから数年の検証にかかっています。

【用語解説】

ユニバーサルカート(Universal Cart)
Googleが2026年5月19日のGoogle I/O 2026で発表した、複数のショッピングサービスをまたいで商品を一元管理できるカート機能。Search・Geminiアプリ・YouTube・Gmailから商品を追加でき、価格変動のアラート通知や商品の互換性チェックなどをGeminiモデルが自動的に行う。2026年夏に米国のSearchとGeminiアプリで展開開始予定。

UCP(Universal Commerce Protocol / ユニバーサル・コマース・プロトコル)
AIエージェントが商品の検索・在庫確認・決済まで実行するための共通言語(オープン標準)。Googleが主導し、Shopify・Etsy・Wayfair・Target・Walmartなど20社以上のパートナーとともに2026年1月11日に公開。REST API・A2A・MCPの複数の接続方式に対応しており、開発者はGitHubでコード・仕様書・サンプル実装を参照できる。

AP2(Agent Payments Protocol / エージェント・ペイメント・プロトコル)
AIエージェントがユーザーに代わって安全に決済するためのオープンプロトコル。Googleが2025年9月に発表し、Mastercard・PayPal・Adyenなど60超の金融・テック企業と共同開発。ユーザーが「ブランド・商品・上限額」の条件を事前設定すると、条件を満たした場合のみエージェントが購入を実行する。クレジットカード・銀行送金・ステーブルコインなど複数の決済手段に対応。A2A(Agent2Agent Protocol)およびMCP(Model Context Protocol)の拡張として動作する。

A2A(Agent2Agent Protocol)
異なるプラットフォーム上のAIエージェント同士が通信・連携するためのGoogleが提案したオープンプロトコル。AP2はこのA2Aの拡張として位置づけられている。

MCP(Model Context Protocol)
Anthropicが提案した、AIモデルが外部ツールやデータソースと接続するための標準プロトコル。UCPはMCPを通じた接続にも対応しており、エージェント間の相互運用性を高めるための共通インフラの一つ。

ゼロクリック検索(Zero-click Search)
GoogleのAI概要(AI Overviews)などがページ上部に直接答えを表示することで、ユーザーがいずれのリンクもクリックせずに離脱する検索行動。クリックされて初めて課金されるCPC型広告にとって、収益機会が失われるリスク要因となっている。

CPC(Cost Per Click / クリック単価)
検索広告における課金単位。広告がクリックされるたびに広告主が支払う費用。UCPやAP2による決済完了型の広告モデルへの移行は、このCPC依存からの脱却という意味を持つ。

Gemini Spark(ジェミニ・スパーク)
Google I/O 2026で発表された、24時間365日稼働のAIエージェント。GmailやGoogle Docsなどのサービスをまたいで能動的にタスクをこなす設計で、AP2と連携した購買機能も担う予定。順次ベータ展開される。

【参考リンク】

Google ショッピングブログ — ユニバーサルカートの紹介(外部)
ユニバーサルカートの仕様、対応ブランド、今後のUCP展開地域の詳細を確認できるGoogle公式ブログ。

AP2(Agent Payments Protocol)公式ページ — Google Cloud(外部)
AP2の技術仕様・マンデートの仕組み・参加60社以上の支持コメントを掲載するGoogle Cloud公式ブログ。

UCP公式ドキュメント — ucp.dev(外部)
Universal Commerce Protocolの仕様書・チュートリアル・SDKへのアクセス窓口。GitHubでオープンソース公開。

UCPをさわってみる — GitHub サンプル実装(外部)
PythonとNode.jsによるUCPマーチャントサーバーのリファレンス実装。商品探索から決済まで試せる開発者向けリソース。

Gemini Spark — Google I/O 2026 公式紹介(外部)
AP2と連携した購買機能が最初に搭載されるGemini Spark(ジェミニ・スパーク)の公式紹介ページ。

Performance Max — Google広告ヘルプ(外部)
GoogleのAI自動最適化キャンペーン。今後の広告主の対応を理解する上での参考リソース。

【参考動画】

【参考記事】

Introducing the Universal Cart and more ways to help you shop — Google The Keyword(外部)
ユニバーサルカートの機能、AP2のガードレール設計、UCP展開の最新状況を一次情報として網羅するGoogle公式ブログ。

Powering AI commerce with the new Agent Payments Protocol (AP2) — Google Cloud Blog(外部)
AP2の技術設計と検証可能なクレデンシャルの仕組み、60超の参加企業コメントを詳述するGoogle Cloud公式ブログ。

Under the Hood: Universal Commerce Protocol (UCP) — Google Developers Blog(外部)
UCPの設計思想・A2A・MCPとの互換性・小売パートナーとの共同開発の経緯を解説するGoogle開発者向け公式ブログ。

Google Search Hits 63B: Details on AI Mode, Ad Tests — Search Engine Journal(外部)
Q4 2025の検索広告売上とAIモードが広告収益モデルに与える影響を分析。CPC上昇・ゼロクリック問題のデータ出典。

Google Ads Benchmarks 2025 — WordStream by LocaliQ(外部)
13,000超のキャンペーンを分析し、2025年のCPCが平均5.26ドルに達したことを報告する業界分析レポート。

Google introduces Gemini Spark, a 24/7 agentic assistant with Gmail integration — TechCrunch(外部)
AP2と連携したGemini Spark(ジェミニ・スパーク)の詳細を伝える記事。エージェントが「行動する」具体像を補足。

Google’s Agent Payments Protocol (AP2): A New Chapter in Agentic Commerce — Everest Group(外部)
AP2の決済手段非依存設計と「実行のシステム」としての位置づけを分析するEverest Groupのブログ。

【編集部後記】

「買いたいものを伝えれば、あとはAIが全部やっておいてくれる」——そう聞くと便利に思えます。でも私たちは、その「全部」の中身をどこまで把握しているでしょうか。

AIが比較し、選び、決済まで済ませる世界では、私たちが「自分で選んだ」と感じる瞬間が少しずつ薄れていきます。それは悪いことではないかもしれません。けれど、選ぶという行為にどんな意味があったのかを、立ち止まって考えてみたい気もします。

「何を中立とみなし、何を広告とみなすか」——この問いは、AIが購買の主役になるほど答えるのが難しくなります。広告が見えなくなることと、選択が委ねられることは、表裏一体の問いかもしれません。私たちも引き続き、この問いを手放さずに追いかけていきます。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。