Unreal Engine 6発表|UE5が残した「スタッター問題」は本当に解決されるのか

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ゲームエンジンの世代交代は、いつもビジョンの提示から始まります。鮮烈なデモ映像、業界を揺さぶる技術発表、そして開発者とゲーマーが抱く「次の5年はこうなる」という確信です。Unreal Engine5(UE5)がそうだったように、Epic Gamesは今また次の章を開こうとしています。Unreal Engine 6(UE6)の発表です。しかし、私たちはいつから、美しいデモ映像を「エンジンの進化」と同一視するようになったのでしょうか。


Unreal Engine 6(UE6)が公式に発表された。Epicは今回、ロケットリーグをUE6への移行を告知する最初のタイトルとして位置づけている。ロケットリーグはこれまでUnreal Engine 3を使用しており、長年エンジンのアップグレードが待たれていた。

発表の内容は主にエコシステムの統合、クリエイター向けツール、そしてEpicのメタバース構想を中心としたものだった。ティム・スウィーニーCEOはかつて、プログラミング言語「Verse」、フォートナイト式の経済モデル、クリエイター体験の共有基盤をUE6において統合・合流させる構想を語っていた。一方で、最適化、CPU効率、シェーダーコンパイル時のスタッター、トラバーサル・スタッターについての具体的な言及は今回の発表にはほとんど含まれていない。

UE5は登場時のNaniteおよびLumenという2つの技術によって高く評価されたが、現在は最適化の問題がゲーマーの主要な不満の一つとなっている。現代のPCゲームではDLSS、FSR、フレーム生成などのAIアップスケーリング技術がオプションではなく事実上の必須要件となっており、UE5への開発者移行が本格化したばかりのこの時点でUE6が発表されたことに対して、業界内外で疑問の声が上がっている。

From: 文献リンクUnreal Engine 6 is officially here, but I’m still holding my breath — Rocket League brings the hype, but gamers still want proof.

【編集部解説】

UE5のスタッター問題を正確に理解するには、「スタッター」という言葉が実際には3種類の異なる現象をひとまとめにしていることを押さえておく必要があります。これを混同したまま議論されることが多く、「UE5のゲームはなぜ動かないのか」という問いへの答えが単純化されています。

まず整理しておきたいのが、代表的な3種類のスタッターです。

シェーダーコンパイル・スタッターは、ゲームの実行中に新しい視覚効果を描画する必要が生じたとき、GPUがその処理コード(シェーダー)をその場で生成しようとして一時的に処理が止まる現象です。コンソール機では「どのGPUが使われるか」が決まっているため、シェーダーを事前にすべてコンパイルしておくことができます。しかしPCでは、NVIDIAとAMDのGPUはもちろん、同一メーカーのチップでも世代によって命令セットが異なるため、共通の事前コンパイルが構造的に難しいです。これがPC版UE5ゲームの多くが「最初は快適に動いていたのに、突然一瞬止まる」という経験を生む根本的な理由のひとつです。

トラバーサル・スタッターは、オープンワールドでの移動中に新しいエリアのデータを読み込む際に発生します。UE5は動的アセットストリーミング(必要なデータをその都度ロードする仕組み)を採用しており、このロードのタイミングと描画のタイミングがずれると「引っかかり」が発生します。フレームレートは平均的には高く見えても、プレイヤーが体感するのはこの「瞬間的なカクつき」であり、これが「ハードウェアは十分なはずなのに快適ではない」という不満の主因になっています。

フレームペーシングの乱れは、スタッターとは少し異なる問題です。フレームレートの数値が安定していても、各フレームの生成間隔が不均一になると視覚的なカクつきとして感じられます。CPU負荷が高いUE5タイトルでは、特にこのフレームペーシングの乱れが顕著に出やすい傾向があります。

では、なぜこれほど多くのタイトルで同じ問題が繰り返されるのでしょうか。これらのスタッター問題が、少数のゲームではなく広範囲のタイトルで報告されているという事実は、単純に「開発者が怠慢だから」では説明しきれません。

2025年に最適化問題が顕著に報告されたUE5タイトルを挙げると、STALKER 2、サイレントヒル2リメイク、Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)、Lords of the Fallen、Wuchang: Fallen Feathers、Oblivion Remastered、Mafia: The Old Country、メタルギアソリッド3リメイクなど、開発会社も予算規模も異なる多様なスタジオの作品が名を連ねます。

特に象徴的な事例がWuchang: Fallen Feathersです。このゲームは批評家から概ね70点台半ばの評価を得ていました(MetacriticはPS5版74点、PC版77点)が、Steamでは発売直後に「Overwhelmingly Negative(圧倒的に否定的)」という最低評価を受けました。プレイヤーから「またUE5のスタッターだ」という言葉が繰り返し使われ、ゲームの内容ではなくエンジンの問題を理由に購入をためらう声が広がっています。

Epicのティム・スウィーニーCEOは2025年8月のUnreal Fest 2025(ソウル)後のメディアインタビューで、この問題に正面から向き合いました。「多くのスタジオは最高性能のハードウェアを前提にゲームを作り始め、最適化と低スペック端末のテストを開発の最後に回してしまう。理想的には、フルコンテンツのビルドアウトが始まる前から最適化を始めるべきだ」と述べ、問題の主因を開発ワークフローに置いています。

しかし、この発言は単純な「開発者批判」として受け取るべきではないとも思います。UE5そのものが、特に世代初期(UE5.0〜5.3)において、最適化のためのツールと知見が十分に成熟していなかったことも事実です。Epicが「Great Hitch Hunt(大スタッター狩り)」と名付けた技術セッションを2025年7月のUnreal Fest Orlandoで開催し、シニアエンジニアがスタッターの7つの原因(レベルストリーミング、物理演算、キャラクタースポーン、PSOコンパイル、ガベージコレクション、同期ロード、ブループリント処理)を体系的に整理して開発者に伝えたという事実自体が、これらが長らく手付かずだった問題であることを示しています。

「エンジンが悪いのか、開発者が悪いのか」という問いは、実はあまり生産的ではありません。実態はより複雑で、構造的な問題です。

一つには、UE5の移行コストがあります。Halo Studiosがかつて長年使ってきた独自エンジン(Slipspace Engine)を捨てUE5に移行すると発表した理由の一つが、エンジン移行により開発効率の向上や人材確保のコスト削減が期待できることなどでした。しかしこの移行コストの低下は、皮肉にも最適化を後回しにする文化を生む温床にもなっています。UE5の「誰でも使いやすい」という設計が、コンテンツ制作の自由度を高める一方で、「とりあえず置いてあとで最適化すればいい」という発想も生みやすい。Naniteを使えばポリゴン数を気にせずに高品質アセットを配置できるという機能は、その典型です。

もう一つには、PC環境のハードウェア多様性という根本的な制約があります。コンソール機ではハードウェアが固定されているためエンジンとゲームをそれに最適化できますが、PC向けではGPU・CPU・メモリの無数の組み合わせに対応しなければならない。前述のシェーダーコンパイル問題がPCでの対応がコンソールより難しい構造的な理由はここにあります。

EpicはUE5.2でプレキャッシングシステム(PSO Pre-caching)を実験的導入し、その後のバージョンで継続して改善してきました。UE5.6(2025年6月リリース)ではシェーダーコンパイル修正、Lumenの高速化、Naniteの植生対応改善などが盛り込まれました。Epicの「最終目標はプレキャッシングを自動化し、開発者が何もしなくてもスタッターを防げるようにすること」という宣言は、裏を返せば、現時点ではまだその段階に至っていないことを意味します。

こうした背景を踏まえてUE6への問いに戻ると、元記事の著者が感じた「懐疑心」がより具体的な輪郭を持って見えてきます。

UE5が引き起こしたスタッター問題の多くは、エンジン単体の問題ではなく、「エコシステム全体の成熟度」の問題です。エンジン、開発ツール、開発者の知見、ハードウェアのドライバーサポートが揃って初めて、スムーズな体験が実現します。UE5ではそれが整うまでに時間がかかり、ゲーマーはその過渡期のコストを「買ったゲームが快適に動かない」という形で支払ってきた。

UE6の発表が「ゲームの技術的飛躍」ではなく「エコシステムの拡張」として語られている現状は、少なくとも現時点では、UE5の技術的課題を解決するよりも、Epicの事業戦略上の次のフェーズに重心が置かれているように見えます。UE5での問題を抱えたまま移行が始まれば、同じ歴史が繰り返されるリスクが懸念されます——それがゲーマーの「まだ息をのんで見守る」という心理を生んでいます。

「見せてほしいのは、より美しいテクノロジーデモではない」という元記事の結語は、ゲーマーが今まさにEpicに突きつけている問いでもあります。そしてその問いには、まだ答えが出ていません。

【用語解説】

Nanite
アンリアル・エンジン5で導入された仮想化ジオメトリシステム。映画品質の高精細アセット(数十億ポリゴン規模)をリアルタイムで描画できる技術で、開発者がポリゴン数を意識せずに高品質なモデルを配置できるようになった。その一方で、物理演算の最適化設定を後回しにしやすい環境を生む側面もある。

Lumen
UE5の動的グローバルイルミネーション(大域照明)システム。光源の変化に応じてシーン全体の照明がリアルタイムで再計算される。GPU負荷が高く、特にソフトウェアモード(Lumen Software)での描画はミドルレンジ以下のGPUでは大きな性能圧迫要因になる。

シェーダー(Shader)
GPUが映像を描画する際に実行する小さなプログラム。マテリアルの質感、光の反射、影の落ち方など、あらゆる視覚効果の計算を担う。GPUのメーカーや世代によって実行形式が異なるため、PC向けにはあらかじめすべてのパターンをコンパイル(事前変換)しておくことが難しく、これがシェーダースタッターの根本的な原因になっている。

PSO(Pipeline State Object)プレキャッシング
シェーダースタッターを軽減するための技術。描画に必要なシェーダーの組み合わせ(パイプラインステート)をゲーム起動時などに事前にコンパイル・キャッシュしておき、ゲームプレイ中に「その場でコンパイル」が発生しないようにする仕組み。UE5.2で実験的導入され、以降のバージョンで継続改善が続けられている。

トラバーサル・スタッター
オープンワールドなどで移動中に新しいエリアのアセットを動的ロードする際に生じる一時的な処理落ち。フレームレートの平均値は高くても、この「引っかかり」がゲームプレイの快適さを大きく損なう。

DLSS / FSR / フレーム生成
AIや数学的アルゴリズムを使って低解像度の映像を高解像度に補完(アップスケーリング)する技術、および実際には描画していないフレームをAIが補間して滑らかに見せるフレーム生成技術の総称。DLSSはNVIDIA、FSRはAMDが提供。もともとは画質向上のオプション機能として登場したが、現在のUE5タイトルでは事実上の性能不足を補うために使用されるケースが多い。

Verse
Epic Gamesが開発した、フォートナイトのゲーム内体験などを制作するためのプログラミング言語。UE6ではFortnite側とUnreal Engine側の開発系統を合流させる構想の中で、エコシステム全体への統合が目指されている。

【参考リンク】

Epic Games 公式サイト(外部)
アンリアル・エンジンおよびフォートナイトを開発・運営するEpic Gamesの公式サイト。プレスリリース、UE最新情報はここから確認できる。

Unreal Engine 公式サイト(外部)
UE5・UE6に関する技術ドキュメント、リリースノート、開発者向けブログが集まる公式ポータル。PSO最適化に関する技術解説記事も公開されている。

Psyonix 公式サイト(ロケットリーグ)(外部)
UE6移行が発表されたロケットリーグの開発元。エンジン移行に関する公式アナウンスはここで確認できる。

Steam(PC版ゲームプラットフォーム)(外部)
Valveが運営するPCゲームの主要流通プラットフォーム。ユーザーレビューでUE5タイトルの最適化評価を直接参照できる。

Unreal Fest イベント情報(外部)
Epicが主催する開発者向けカンファレンス。「The Great Hitch Hunt」などの技術セッション動画が後日公開される。

【参考記事】

Epic Games CEO Tim Sweeney says UE5’s performance problems aren’t about the engine(外部)
Unreal Fest 2025でのスウィーニー発言を詳報。開発ワークフローの問題と、問題タイトルの事例を網羅(Windows Central、2025年8月27日)。

Unreal Engine Engineer Declares ‘Great Hitch Hunt’ to Rid UE Games of Stutters(外部)
「The Great Hitch Hunt」セッションの内容を網羅。7つのスタッター原因とEpicの対策を詳述(Wccftech、2025年7月29日)。

Game engines and shader stuttering: Unreal Engine’s solution to the problem(外部)
Epic公式によるシェーダースタッターの技術解説。PSOプレキャッシングの仕組みと自動化への目標を明示(Unreal Engine 公式ブログ)。

Epic CEO Tim Sweeney blames game developers for poor Unreal Engine 5 performance(外部)
UE5の最適化問題が顕著だったタイトルを網羅的にリストアップ(Tweaktown、2025年8月28日)。

Wuchang: Fallen Feathers — NeoGAFスレッド「Another UE5 Stutter Fest」(外部)
発売直後に最低評価を受けた経緯と、ゲーマーのリアルな反応を示すコミュニティスレッド(NeoGAF、2025年7月24日)。

 【編集部後記】

「より美しいグラフィックを」という欲求と、「快適に動くゲームを」という欲求は、本来対立するものではないはずです。しかしUE5の5年間が示したのは、この2つが思いのほか難しい両立であるという現実でした。開発者の工数、エンジンの成熟度、PCハードウェアの多様性——スタッター問題の背景には、単純な「誰かが悪い」では語れない複雑な構造があります。

UE6が本当に意味のある飛躍をもたらすかどうか、私たちはまだ判断できる立場にありません。Epicが「Great Hitch Hunt」という言葉でスタッターと向き合い始めたことは、問題を直視しているサインとして受け取っています。その取り組みがUE6の設計にどう反映されるか——そこに注目し続けたいと思います。私たちは——ゲーマーとして、開発者として、あるいはテクノロジーを見守る立場として——エンジンの「次の世代」に何を期待しているのでしょうか。UE6が問い直させるのは、技術的な性能だけではなく、私たちが「快適なゲーム体験」に何を求めているのかという、より根本的な問いかもしれません。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。