(アイキャッチ撮影:innovaTopia編集部)
VRコントローラーから、フィジカルAI時代の「手のインターフェース」へ
VR向けグローブ型コントローラー「ContactGlove」シリーズを展開してきたDiver-X株式会社(以下Diver-X)は、2026年6月23日、メディア発表会を開催し、新製品「ContactGlove3」を発表しました。あわせて、ロボティクス・研究開発向けモデル「ContactGlove3 Pro」も発表し、2026年7月1日から社名を「Melt Interface Technologies」へ変更することを明らかにしました。
今回の発表は、単なるVRコントローラーの新製品発表に留まりません。一般向けのContactGlove3は、SteamVR向けの第3世代グローブ型VRコントローラーとして、VR/XR空間における手指の表現と入力精度を高める製品です。一方、ContactGlove3 Proは、ロボティクス向けデータグローブとして、遠隔操作、作業データ収集、模倣学習といった用途を想定しています。
つまり今回のContactGlove3シリーズは、VR空間で「手を自然に使う」ためのデバイスであると同時に、人間の手作業をデータ化し、ロボティクスやフィジカルAIへ接続するためのインターフェースでもあります。

ContactGlove2から何が変わったのか
ContactGlove3は、従来のContactGlove2を単純に改良した製品というより、トラッキング方式を含めて大きく刷新された新世代機です。
ContactGlove2では、Diver-X独自開発の曲げセンサーによって、手指の曲げや開きを取得していました。これに対しContactGlove3では、電磁場(EMF)センシングを採用し、5指すべての指先・関節を6DoF(位置+回転)で独立して追従します。
特に大きいのは、位置誤差0.5mm、最大1.5mm、角度誤差0.4°、最大1°という高精度なトラッキングをうたっている点です。推奨環境下での数値ではありますが、絶対位置の認識によって実現した、長時間の使用によっても指の位置がズレない「Zero-Drift Technology」が最大の特徴です。
また、ContactGlove3では軽量化、小型化、バッテリー性能の向上、キャリブレーションの改善も行われています。VR用デバイスは、装着している時間が長くなるほど、重さや取り回し、充電頻度、設定の手間が体験の質に直結します。キャリブレーションに関しては、ContactGlove2が起動するたびに毎回行わなければならなかったものを、1回行えば設定が保存されるようになりました。



ContactGlove3 / ContactGlove3 Pro スペック比較
まず、発表された2モデルの主な違いを整理します。
| 項目 | ContactGlove3 | ContactGlove3 Pro |
|---|---|---|
| 位置づけ | 一般向け/SteamVR向け第3世代グローブ型VRコントローラー | ロボティクス向けデータグローブ/研究開発向け |
| 主な用途 | VR/XR体験、ハンドトラッキング、モーション入力 | 作業データ収集、模倣学習 |
| 連続稼働時間 | 8~10時間 | 〃 |
| バッテリー容量 | 1200mAh | 〃 |
| 充電方法 | USB Type-C | 〃 |
| データ出力レート | 60~100Hzで可変 | 100Hz以上 |
| レイテンシー | 30ms | 30ms以下 |
| トラッキング自由度 | 5指×6DoF(オープンフィンガー構造) | 5指×6DoF(フルフィンガー構造) |
| 精度 | 位置誤差0.5mm(最大1.5mm)、角度誤差0.4°(最大1°) | 〃 |
| 触覚フィードバック | ハプティックリアクタによる振動(LRA) | 〃 |
| 対応OS | Windows | Windows/macOS/Linux |
| 価格 | 99,800円(税込) | 498,000円(税込)〜 |
| 予約・発売 | 2026年10月発売予定 公式ストアにて予約受付中 | 2026年10月出荷・販売開始予定 Diver-X直販、お問い合わせフォームから申請 |
ContactGlove3は、一般向けのVRコントローラーとして、ContactGlove3 Proは、ロボティクスや研究開発用途を想定したモデルであり、SDK対応やフルフィンガー構造が大きな特徴です。
ContactGlove3はMagnetra3とセットで税込99,800円、公式ストアにて予約受付中です。2026年10月の発売予定。サイズはS・M・L・XLで展開しています。
公式サイト:https://diver-x.jp/products/contactglove3
公式ストアページ:https://store.diver-x.jp/products/contactglove3-magnetra3
ContactGlove3 Proは税込498,000円~となっていて、こちらはお問い合わせフォームからの申請となっています。2026年10月の出荷、販売開始予定です。
VR空間で「手」をどこまで自然に使えるか
一般向けのContactGlove3がまず向き合うのは、VRChat、Resonite、SteamVRアプリなどで、ユーザーが自分の手をどこまで自然に使えるかという課題です。
ContactGlove3は、ContactGlove2に続き、日常的なVR利用における装着性や操作性を重視し、オープンフィンガー構造を採用しています。装着したままキーボード操作ができ、布部分は洗濯・交換に対応します。
VR空間における手の表現は、単なる見た目の問題ではありません。手を振る、指を組む、両手でハートを作る、手話で表現する。そうした細かな動作は、ソーシャルVRにおいて言葉以外のコミュニケーションにもなります。
ContactGlove3は、5指×6DoFの独立追従によって、こうした指先精度が問われる動きをアバター上で再現することを目指しています。
一方で、VRアプリでは「自然な手の動き」だけでは足りません。ゲームやVRアプリでは、スティック、トリガー、ボタン、グリップといった従来型コントローラーの確実な入力も必要になります。その役割を担うのが、専用コントローラーモジュール「Magnetra3」です。

Magnetra3とドングルもアップデート
ContactGlove3と組み合わせる専用コントローラー「Magnetra3」もアップデートされました。
新たに搭載されたのが、グリップ固定ボタンです。これは、ボタンを一度押すだけで、VR空間上の「握った状態」を保持できる機能です。実際の手の形が変わっても、VR空間上では道具を把持し続けられるため、武器や工具、VRChat内の小物などを扱う際に、握り続ける負担や誤入力を減らせます。
通信用ドングルも改良されています。1.2mの延長ケーブルが付属し、使用場所がパソコンの近くに制限されにくくなりました。さらにマグネット入りで固定しやすく、机や周辺機器の配置に合わせて設置しやすくなっています。
ContactGlove3 Proは、ロボティクス向けのデータグローブ
ContactGlove3と同時に発表されたContactGlove3 Proは、ロボティクス向けデータグローブ/研究開発向けモデルです。
一般向けContactGlove3でも、SteamVR向けのグローブ型VRコントローラーであるだけではなく、最低限のモーションキャプチャーやロボットの遠隔操作に対応していますが、ContactGlove3 Proは、作業データ収集、模倣学習といった用途を想定しています。C++ / Python / ROS 2 / Unity / Unreal Engine / MotionBuilderに対応し、Diver-Xは企業へのソリューションの提供も事業として行っています。
重要なのは、ContactGlove3 Proが、一般向けモデルの単なる上位版ではないという点です。両者の違いは、価格差だけではなく、設計思想そのものにあります。
ContactGlove3 Proは、指先まで覆うフルフィンガー構造を採用し、各指先部に計測コイルを搭載します。一般向けモデルでは、親指以外の計測点が中節骨先端付近、つまり第一関節より手前に存在するため、指先そのものの位置には骨1個分の物理的な差が生じます。Proはこの差を抑え、ロボット連携や作業データ取得で重要になる「指先そのものの位置」をより正確に扱うための設計になっています。
言い換えれば、ContactGlove3が「VR空間で使いやすい手」を実現する製品だとすれば、ContactGlove3 Proは「ロボットやAIへ渡すための手」を測る製品です。

デジタルツインとハプティクスの接点
今回の発表でもう一つ重要な発表となったのが、トヨタ紡織株式会社(以下トヨタ紡織)との関係です。
トヨタ紡織は、自動車の内装をデザイン・製造する企業であり、Diver-Xにとって出資元であると同時に共同開発先でもあります。
発表会には、トヨタ紡織 経営企画部 新規事業推進室 CVCグループ CVCキャピタリストの小島隼氏が登壇しました。小島氏は、Diver-Xへの出資・共同開発の背景として、同社が早い段階から取り組んできたハプティクスや力覚フィードバックと、デジタルツインとの接点を挙げました。
車のように大型で高価な製品では、設計・検証の一部をデジタルツインへ移行する流れが進んでいます。デジタル空間上で車内を再現し、設計や検証を行うことができれば、開発の効率化や検証コストの低減につながります。
しかし、車内空間の検証では、視覚的な情報だけでは不十分な場面があります。座席や内装部品との距離感、手を伸ばしたときの操作感、スイッチやレバーに触れたときの感触。こうした身体的な情報は、画面上の3Dモデルだけでは確認しきれません。
Diver-Xは、EXOSを含むハプティクスや力覚フィードバック領域に早くから手を伸ばしてきました。トヨタ紡織側は、迫田CEOのインターフェース領域への知見の広さと、スピード感のあるテスト機製作に惚れ込んで、共同開発へ進んだといいます。

製造ラインに残る手作業を、ロボティクスへつなぐ
自動車の製造工程には、複雑なパーツや素材特性に起因する難しい組み立て動作、車のシートの縫い合わせなど、いまも人間の手作業に依存している工程が残っています。こうした作業は、単に手を動かせばよいわけではありません。部品や素材の状態を見ながら、指先の角度、力の入れ方、順序、接触の仕方を調整する必要があります。
ContactGlove3 Proのようなロボティクス向けデータグローブは、こうした作業者の手指の動きや作業手順をセンシングし、ロボットへの応用を目指すための入力インターフェースになり得ます。
近年、ロボティクス領域では、人間の作業データを取得し、模倣学習やフィジカルAIに活用する流れが強まっています。人間が行っている複雑な手作業をデータ化し、そこからロボットの動作や制御へ接続することは、工場DXやオートメーションにおける重要なテーマです。
Diver-XからMelt Interface Technologiesへ
Diver-Xは、2026年7月1日から社名を「Melt Interface Technologies」へ変更します。
新社名には、人間と技術の間にある障壁を、最適化されたインターフェースによって取り払い、技術を生活に統合していくという理念が込められています。「Melt」という言葉は、人と技術の境界を溶かすという同社のミッションを象徴しています。
Diver-Xはこれまで、VR/XR向けの入力デバイスを中心に、仮想空間で人間の手をどう扱うかに取り組んできました。ContactGloveシリーズは、その代表的な製品です。
しかし今回のContactGlove3 Proや、トヨタ紡織との共同開発が示しているのは、同社の技術がVR空間の中だけに留まらないということです。人間の手の動きや操作感をデータ化し、ロボット、AI、デジタルツインへ接続する。そこでは「手」は単なるVRアバターの表現ではなく、人間と機械をつなぐインターフェースになります。
迫田CEOはフィジカルAIのボトルネックはハードウェアにあると説明しました。AIに学習させるデータが大量に欲しいのに、そもそもデータを取得できるデバイスが成熟していない。その課題を解決できるのが、Diver-XがXRの分野で培った、トラッキングやフィードバックの技術なのです。
現在の事業展開は、トヨタ紡織との共同開発やフィジカルAIの潮流を背景に、toB領域へ大きく向かっています。一方で、迫田CEOは私たちの取材に対し、「XRやメタバースは最終的には個人に対して開かれていくものだと見ています。今はtoBの文脈が強いものの、長期的に見れば、同社はtoCでありたい。」と語ってくれました。
これは、toCとtoBのどちらか一方を選ぶという話ではありません。toCで生まれた自然な身体入力の技術が、toBで精度や信頼性を鍛えられ、その成果が再びXRやメタバースの体験へ戻っていく。ContactGlove3とContactGlove3 Proは、その循環の入口にある製品です。
Diver-X改めMelt Interface Technologiesの挑戦は、人間の動作や感覚を、デジタル空間、機械、AIへどのように橋渡しするかという問いに向かっています。
【参考リンク】
Diver-X株式会社(外部)
VR/XR向けの入力デバイスやハプティクス技術を開発するスタートアップ。ContactGloveシリーズやEXOSなどを通じ、人間とコンピュータの接点を最適化するインターフェース開発に取り組んでいる。
Diver-X公式ストア(外部)
ContactGlove3 + Magnetra3など、Diver-XのVR/XR向けデバイスを販売する公式ストア。ContactGlove3は99,800円(税込)で予約受付中、2026年10月発送予定として掲載されている。
トヨタ紡織株式会社(外部)
自動車用シートや内外装、フィルター製品などを手がけるトヨタグループの内装システムサプライヤー。今回の発表では、Diver-Xへの出資元かつ共同開発先として登壇した。
【関連記事】
以前私たちがデモ体験をさせていただいた「EXOS」については、現在も改良を重ねており、近いうちにまた新たな発表を予定しているとのことです。












